パイロの日。
私達が目覚めたのは昼前、これこそがあるべき週末だ。少し面倒なのは歯を磨かなくてはならないことか。今までは魔法一発だったんだけどな……
それ以外には風邪、いや風邪病などの病気にも気をつけないといけない。それからトイレ、せっかく極めた肛門魔法も使えなくなってしまった。参ったな。
そもそも魔法を全く使えない王国民なんてまずいない。平民や奴隷だって程度の差はあるがみんな使ってる。私は……最底辺だ……
どうでもいいや。
さて、朝からアレクと……
「おはようございます。食事の時間ですよ!」
また、マーリンはいいタイミングで……
「おはよ。降りるよ。姉上は?」
「まだお休みのようです。今からお起こししますわ。」
はは、さすがの姉上もマーリンには敵うまい。
朝食、いやもう昼食か。
明日には王都に出発するから、今日のうちにスティード君とセルジュ君に会っておきたいな。二人とも元気にしてるかな?
「おはよう……」
姉上、やっぱ眠そうだな。
「おはよ。」
「おはようございます。」
「後で見せたいものがあるわ。食べたら庭に行くわよ。」
ほほう、それは楽しみだな。また新しい魔法か? 結局庭の石はそのまんまなんだよな。まあ大岩を積みっぱなしってのも味があっていいよね。
昼食後、庭へとやってきた私達。
「少ししか見せられないからよく見ておくのよ? アレックスちゃんはもう知ってるとは思うけど。」
「はい。あれには衝撃を受けました。」
ほほう。それはすごそうだ。
「じゃあ氷弾を一発だけ私に撃ってくれる?」
「はい。」『氷弾』
さすがアレク。発動は早いし狙いも正確。その上弾速も素晴らしい。
それが姉上の顔の横を滑るように通り抜けた。んん? 姉上は動いてないよな? アレクが狙いを外すわけないし。
「カース、見たわね? これが母上の境地『魔力感誘』よ。対象の魔力を見切り、自分の魔力を僅かに乗せて誘導するの。私は例の飲み薬の影響で魔力の流れが見えるようになってたけど。もうそろそろ消えてなくなるわ。その前にアンタに見せておきたかったのよ。」
マジかよ。こりゃあすごい。まるで父上の剣術のように往なされるわけか。姉上はそれを私に魔力なしで出来るようになれって言いたいのか。
「お姉さんね、この前凄かったの。私がめちゃくちゃに撃ちまくっても全てすり抜けていったのよ。」
「それは凄いね! 姉上カッコいい!」
「もうできないけどね。見本を見せておけばアンタ達なら何とかなるでしょ? 私だって母上に追いつきたいんだから。」
さすが母上だな。そんなことまでできるのか。例え威力や魔力量で勝ってても立ち会ったら勝てるとは限らない。すごい技術だよな。似た者夫婦め。
「じゃあ私は寝るわ。明日には出発するから。」
「うん、姉上ありがと。」
「ありがとうございます。」
姉上は家の中に引っ込んでしまった。一番疲れてるもんな。私達はデートがてら騎士学校と貴族学校に行こう。
貴族学校への道中、偶然セルジュ君に会った。友人達と街歩きをしている最中かな。
「カース君!? 大丈夫なの!? いつ領都に!?」
「やあセルジュ君。心配させたね。昨日の夕方に着いたんだよ。明日には王都に向かうからセルジュ君とスティード君に会っておこうと思ってさ。」
「じゃあ今からスティード君のとこ? ちょっと待ってね!」
セルジュ君は友人達に何か言っているようだ。
「お待たせ! さあ行こう! スティード君ならどうせ道場じゃないかな?」
「それもそうだね。行ってみようか。」
「それにアレックスちゃん、会ったら言おうと思ってたけど。何やら若い冒険者達が集団でアレックスちゃんを狙うらしいよ。アレックスちゃんだからそこまで心配はしてないんだけど。」
「あらあら、少し遅かったわね。たぶん全員死んだわよ。セルジュ君がもっと早く教えてくれてればよかったのに。だからこの後のお茶はセルジュ君の奢りよ?」
「はっはっは。セルジュ君遅かったよ。少し危なかったんだから。ケーキも付けてもらおうかな。甘いやつ。」
「えぇーそうなの!? 危なかったの!? それは悪かったよ。じゃあスティード君とみんなでどこかのカフェにでも。」
それにしてもさすがセルジュ君。そんな情報を掴んでいたなんて。貴族学校だからなのか、セルジュ君だからなのか。アレクを気にしてくれてありがたい限りだ。
しばらく歩いて破極流の道場に着いた。スティード君はいるかな?
「押忍!」
「お、おす!」
「オス!」
ちなみに私は着替えてない。いつもの道着、麻の上下は魔力庫の中なのだから。
「カース君!」
「カース君? アレックスもか。」
いた。アイリーンちゃんもいる。
「やあ久しぶり。ちょっと外でお茶でも飲まない? セルジュ君の奢りだし。」
「行く! ちょっと待ってね!」
「私は遠慮しておこう。」
こうして私達四人は適当なカフェに入る。さすがに人の奢りでカファクライゼラには行きにくいもんな。
うーむ積もる話に花が咲く。二人にも心配かけてしまったよな。
「じゃあ明日にはまた王都に行っちゃうの?」
スティード君は心配そうだな。
「そうなんだよ。姉上も一緒だからね。早めに行かないと。」
「じゃあサンドラちゃんに手紙をお願いしていい?」
セルジュ君だって会いたいだろうな。
「もちろんいいよ。明日の朝までに届けてくれたら大丈夫だよ。」
「じゃあ僕も書くよ。お願いしていいかな?」
「いいよ。二人ともラブラブだね!」
いや、この場合は三人ともラブラブって言うべきか? 何にせよ楽しいな。今日はコーちゃんもカムイも家にいるけど、人間であろうとなかろうと友達ってありがたい。
「あっ、ここは僕の奢りでいいよ。ほら、あの時エリザベスお姉さんからお小遣いをたっぷり貰ってしまったからさ。」
「えー!? スティード君、エリザベスお姉さんにお小遣い貰ったの!? 一体何をやったの!? すごい!」
「王国一武闘会でウリエンお兄さんを一生懸命応援しただけなのにくれたんだよ。気前がいいよね!」
あー、あの時か。本当に貰ったんだ。姉上って意外と金持ってるんだな。
「エリザベスお姉さんって凛々しくて綺麗だよねぇー。そんな人にお小遣いもらったんだー。サンドラちゃんに言っちゃおっかなー。」
おっ、恒例のスティード君いじりが始まったぞ。今日の口火はセルジュ君か。
「ふふふ。その場にはサンドラちゃんもいたんだよ。だから何の問題もないんだよ。それよりセルジュ君? お姉さんのことが凛々しくて綺麗だって? サンドラちゃんが聞いたらどう思うかな?」
おぉ! 珍しくスティード君がいじり返している。
「い、いや、だってエリザベスお姉さんって綺麗だし、かっこいいし、ね? ね?」
「そうね。女の私から見ても綺麗なお姉さんよね。さすがセルジュ君、長い間会ってないのによく分かるわねぇ?」
おお? アレクもセルジュ君をいじり始めた。さては知らせてくれなかったことを……
「まあまあ、確かにうちの姉上ってそこそこ綺麗だとは思うよ。でもまあアレクには遠く及ばないよね。」
「もう……カースったら。お姉さんをそんな風に言ってはいけないわ。」
「いやー、つい本音がね。アレクって間違いなく王国一だよね。きれいだよね。可愛いよね。」
一ヶ月ぶりに会ったせいかどこからどう見ても美しい。三日どころか三年でも飽きない美しさに違いない。
「帰ろうかセルジュ君。邪魔するのはよくないよね。」
「そうだね。帰ろう。あーあ心配して損した。当然ここはカース君の奢りだよね。」
あれ? 二人はどこへ行った? いつの間にか私達を置いて帰ってしまったのか?
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