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〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

180、ロイヤル見せ物と表彰式

公開日時: 2021年12月20日(月) 10:17
文字数:4,216

治療が落ち着くのを確認したフェルナンド先生は実況席へと戻っていった。観客に顛末を解説しに行くそうだ。表彰式開始までまだ時間がかかりそうだもんな。




『皆さま! お待たせいたしております! まだ治療は終わっておりませんが、フェルナンド様が戻られましたので先ほどの戦いを解説していただきまーす!』


『では両者が離れ、オミット選手が素手になった後から解説します。オミット選手は左手の折れた棒を離すことで生じた一瞬で薬を飲みました。おそらくは『神酒ソーマ欠片かけら』でしょう。左腕、いや全身が万全ではないオミット選手が勝つには勝負を決めるタイミングでアレを飲む他なかったのです。』


『神酒の欠片と言いますと、『食べる偽エリクサー』とも呼ばれる劇物ですね? 一時的にいかなる怪我も治癒し続ける代わりに、十五分経過後の生存率は一割もないという……』


『そうです。治癒魔法使い殿が焦っておられました。幸い危機は脱出しましたので、両者の命に別状はありません。彼女は凄腕ですな。さて、それからです。徒手空拳で攻め立てるオミット選手をどうやって仕留めればいいのか、レイモンド選手は困ったはずです。なぜならその十五分間はいかなる怪我をしてもたちまち治ってしまうからです。』


『ですよね? 一体どうやったのでしょうか?』


『まずオミット選手ですが、決勝トーナメント二回戦で盾ごとジェラルド選手を槍で貫いた技がありますね。あれを素手でやったのです。あの技は後先考えず全力で槍を突き出すだけの技ですから槍がないなら素手でやるだけなのです。拳、手首の損傷は度外視ですね。ちなみに右手に持っていた折れた棒を捨てたのはレイモンド選手に左右どちらの手から攻撃が起こるのかを分かりにくくするためです。

一方、レイモンド選手はそれを避けず心臓にくらってしまいました。革鎧の上からとは言え心臓に強い打撃を受けますと意識を失うものですが、意識を失うまでの僅かな時間を利用して最後の攻撃に出ました。反撃ではありません。レイモンド選手が初めから狙いすましていた攻撃なのです。

まず左手の短剣をオミット選手の脇腹に突き刺す、これは見た通りですね。そうやって全力の一撃を放って隙だらけのオミット選手の注意を一瞬だけ脇腹に集中させました。

その瞬間です。奪った棒を顎先をかすめるように振り抜いたのです。気絶前の一瞬で!

怪我をさせても無意味。おそらく焼き尽くすか、それとも首を落とすしか方法はないと思われた中で!レイモンド選手はオミット選手を気絶させる方法を取ったのです!

頭の中身というものは非常にデリケートらしいのです。顎を揺さぶることにより首を中心として、頭の中身まで揺さぶられてしまう! その結果があれなのです!

ただし、これはレイモンド選手にとっても賭けです。自分の方が先に意識を取り戻す保証などないのですから。実際無意識ではありましたが、オミット選手が先に立ち上がりましたしね。』


『つまりレイモンド選手は、賭けに勝ったと!?』


『そうです。覚悟して受けた衝撃と不意に受けた衝撃ではダメージが違うということもありますが。決勝戦にふさわしい激闘だったと思います!』


『なんと壮絶な戦いだったのでしょう! 皆さん! 今一度ここにいない両者に盛大な拍手をお願いいたします!』


凄過ぎる……

あの一瞬でどんだけだよ……

それが実況席から見えてるフェルナンド先生もすごい。遠見は使えないはずだよな? あれも心眼の一種なのか?


会場は割れんばかりの拍手の渦だ。想像だけどフェルナンド先生が出場した回って絶対盛り上がらなかったんだろうな。会場が静まりかえる姿がありありと想像できてしまう。




拍手が止みつつある頃、国王が発言をした。


『皆の者。余が表彰式の前に芸を見せると言ったのを覚えておろう? まだ時間はあるようだ。芸ではないが、お前達にローランドの男の生き様を見せてやろう。

男には! 勝てぬと分かっていても戦わねばならぬ時がある! フェルナンド殿! 貴殿に勝負を申し込む! 魔法なしの一対一だ! 返答はいかに!』


『ぬおおおおーーー!! 陛下ぁ! 気は確か、お気はお確かであらせられますかぁ!? やめてください! 側近さん! 止めてください! 命を大事に!』


なぜ今なんだ? 後日先生を王宮に呼んで稽古を頼めばいいだろうに。お偉いさんの考えは分からん。側近は……止めないんかい! マジか……


『私が勝ったら宗家の極みを伝授していただく。それでよければ受けましょう。』


『いいだろう。では余が勝ったら一代限りの王家剣術指南役になってもらう。よいな?』


『承りました。いざ、尋常に……』


ぬあっ! フェルナンド先生も国王もついさっきまで実況室と貴賓室にいたんだろうに。もう武舞台に立っている。


「「勝負!」」


『なんとぉー! もう始まってしまったぁー! ほんの三秒前までフェルナンド様は隣にいたのにぃぃーー!』


フェルナンド先生はいつもの自称安物の剣を使っている。国王はよく分からないが良さそうな剣を使っている。今は国王が一方的に攻めているが、先生はその場を一歩も動かず対処している。


「くっくっく……やはり勝てぬか……」

「なかなか良い剣筋かと。才能はおありですが、獲物を斬った数が少のうございますな。」


『何か楽しそうにお喋り遊ばされているが聴こえなーい! かくなる上は!』


あ、青バラさんも実況室から飛び降りた。この人は普通に浮身を使ってるな。


『リングサイド! 砂かぶりにやって参りましたぁ! 両者の試合を余すことなく実況いたします!』


性格はともかく仕事熱心なんだな。すごい人だ。


『陛下ともあろうお方がなぜこのような真似をなさるのですか?』

『くくっ、お前は目の前にドラゴンがいたら逃げるのか?』


すごい。青バラさんは二人の声色を真似してアテレコまでやっている。ギルドの受付嬢って芸達者なんだな。

私はドラゴンがいたら逃げたい派かな。


『御意。』

『来い!』




『決着です! 陛下がお倒れ遊ばされてしまわれましたぁー! 側近さん! 早く!』


終わった……しかし先生は国王に近付こうとしない。そこに側近が駆け寄って何やら飲ませている。ポーションかな? 

目を覚ます国王。さすがに回復が早いな。




ん? 先生が剣をゆっくりと高く掲げ上げた。


よく見ると先生の剣は中ほどから折れている。刃先はどこだ?



観客が静まりかえる中、澄んだ音がやけにきれいに響きわたった。




マジか……先生の剣が折れてる……


折れた刃先が落下して妙なる音を立てた後、先生は掲げた手をゆっくりと降ろす。

ふと見れば先生の上腕部にはうっすら傷が付いている。服が切れただけで血が出るほどではないようだが……マジで!?


『今の試合の解説をお願いしたいと思います! フェルナンド様、よろしいですか!?』


『ええ、見事な剣筋でした。私の自慢の名剣がこの有り様です。しかも手傷まで。さすが陛下だと思います。実は解説するほどのことはありません。陛下は私の剣に剣を合わせてこられました。陛下の剣は総オリハルコンの王剣。私の剣に勝ち目はありません。しかし未熟な私はオリハルコンを斬ってみたいという欲求に勝てなかったのです。そしてまんまと剣を切り飛ばされてしまいました。陛下がお倒れになった理由は剣を切られた瞬間、すれ違い様に私が左手で頭部に衝撃を与えたからです。』


『何ということでしょう! 陛下はなんと! 剣鬼フェルナンド様の名剣を叩き斬ってしまわれましたぁー! 前人未到の快挙です! 皆さん! 陛下に盛大な拍手をお願いしまーす!』


いつの間にそんなことしたんだよ! 先生は体術も一流なのか。それにしても陛下コールがすごい。あの先生にここまで善戦したんだから当然だよな。すごい男だ。


おっ、起き上がった。




『皆の者。見たであろう! これが男の、ローランドの民の生き様だ! いかに余とて剣鬼殿に勝てるなどと思い上がってはおらん! しかし! 目の前に巨大な壁がそびえ立っておれば登るのが男であろう!ドラゴンがいれば戦うのが男であろう! 余の誇る臣民達よ! 挑む心を忘れるでないぞ!』


なぜわざわざこんなことをしたのかは、まだ納得できないが人気は間違いなく上がった。ただの人気取りとは思えないが……実はただの趣味なのか? すっかり空気が国王一色になってしまったな。勝って当たり前だからか、先生には誰も注目していない気さえする。


『お待たせいたしました! レイモンド選手が目を覚ましたそうです! 表彰式を行います!』


レイモンド先生が武舞台へと足を運ぶ。体が重そうだ。


『ただいまより表彰式を行います! 皆さま、ご起立、脱帽の上、ご注目ください。まずは国王陛下より総評をいただきます。全員静聴!』


『まずは参加者諸君に労いの言葉を贈りたい。よくやった! いい戦いであった! 当然のことだが何名かにはスカウトが向かうこともあるだろう!さて、総評だったな。余は満足している。余興がてら剣鬼殿に稽古をつけてもらったこともだが、王都が誇る二大道場主の激戦を見られたことに、いたく満足している。どちらの道場もこの調子で精進するがよい。王家が誇る近衛騎士達の奮闘ぶりにも概ね満足している。多少は稽古を厳しくするかも知れんがな。明日も期待しているぞ! お前達! 大儀であった!』


『それではトロフィーと賞金の授与を行います! レイモンド・リメジー選手、前へ!』


レイモンド先生は国王からトロフィーと賞金を受け取っている。さあ、何をお願いするんだろう?


「優勝者の特権だ。望みを言ってみよ。」


「それでは恐れながら……私にも『宗家の極み』を伝授していただけないでしょうか。」


「無理だな。理由はお前が道場主だからだ。他にせよ。」


「なるほど。私が浅慮でした。ではお金をください。金貨で千枚。実は道場が老朽化しておりまして……」


「いいだろう。ついでに大工も手配してやろう。道場の床は木であろう? そこいらの大工には難しいからな。」


「陛下の寛大な御心に感謝いたします。」


『なんと! リメジー選手! 貴重なお願いを道場のために使ってしまいました! これこそ道場主としてのあるべき姿! 場内からも拍手が止まりませーん!』


レイモンド先生は会場のあらゆる方向に頭を下げている。意外な一面だ。


『これにて王国一武闘会 一般の部、魔法なし部門を終了いたします! それでは国王陛下の御退出です! ご起立、脱帽でお見送りください!』


普通に歩いて武舞台から降りていった。天井が塞がっているもんな。


さあ、今夜は祝勝会だな。道場で宴会かな?

楽しくなりそうだ。

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