ゼマティス邸に戻ったが、おじいちゃんはまだ帰って来ていなかった。おばあちゃんは起きて待っていた。
「騎士長のところってどう行ったらいいかな? こいつを届けたらもう終わりなんだよね。」
「馬車で行くといいわ。この際だから私も行こうかしら。」
こうして私とアレクとおばあちゃん、そしてグラフィアスを連れて騎士長の所へ向かうことになった。
「ピュイピュイ」
コーちゃんはもう寝るそうだ。おやすみ。ついでにラグナはそのまま寝かせておく。
やがて馬車は王城の城門前に到着した。
「夜分にごめんなさいね。私はアンヌロール・ド・ゼマティス。先程うちの主人が騎士長様を訪ねたわよね? 追加の証人を連れて来たと伝えてちょうだい。」
「まどっ、しょ、少々お待ちくださいっ!」
やはりゼマティスの名は絶大なのか。門番の騎士達は権力的にではなく根源的にビビっている感じがするね。
「どうぞ! お通りください!」
王城は広い。城門をくぐってもまだ馬車は進み、やがて停車する。ここは?
「着いたわ。降りるわよ。」
馬車から降りるとおじいちゃんが待っていてくれた。
「アンヌロール。よく来てくれた。わざわざすまなかったの。カースにアレックスもご苦労じゃったのぅ。」
「おじいちゃんこそ夜中まで大変ですよね! 明日肩を揉ませてください!」
「私も揉みたいです!」
「ぬはははぁー! お前達は何て心優しい孫なんじゃぁ! 聞いたかアンヌロール!?」
「ええ、しっかりと聞きましたとも。私もお願いしようかしら。」
「もちろんおばあちゃんも揉みます! それよりこいつが魔蠍の幹部グラフィアスです。どうもこいつらが犯人っぽいです。取り調べをお願いします。ちなみにアレクが捕まえました!」
「そうかそうか。二人ともよく頑張ったのぅ。えらいぞぅ。」
こんな時でもおじいちゃんはデレデレだ。
「それからこいつはヤコビニ派の動乱の時の生き残り、偽勇者です。死体ですけど引き渡しておきます。賞金はおじいちゃんが貰っておいてください。鎧だけ僕にください。」
「うんうんそうかそうか。カースは偉いのぅ。よくやったぞ。」
「ちなみにおじいちゃんだったら死体から情報を抜いたりできるんですか?」
む、一転して渋い顔になった。
「うっ、それは無理じゃな。イザベルでも無理じゃわい。その辺りは騎士団に任せた方が確実じゃな。」
なるほど。魔法ではなく科捜研的に死体を検分するのかな。それよりもさすが母上。おじいちゃんからそう言われるレベルなんだな。妙に嬉しい。
「じゃああなた。私達は帰るわね。お仕事頑張ってくださいな。」
「ああ、気をつけて帰るんじゃぞ。魔蠍の生き残りがどう出るか分からんからの。」
こうして私達は王城を出た。果たして魔蠍の生き残りは襲ってくるのか?
カース達が騎士団本部から帰った後、祖父アントニウスと騎士長セロニアス・ド・ブランシャールは休憩をしていた。
「ジュラの取り調べがひと段落したと思ったら次か。お前の孫はとんでもないな。」
「ふぅふぅふぅ。すごいじゃろぅ? カースはすごいんじゃ。それはともかく次じゃな。グラフィアスか。こいつから情報を取れば魔蠍のボスに行き着くか……こいつらはあちこちに潜入してるってことじゃったからのぉ。絶好の機会か。」
「偽ヨヒアムとメイドが立て続けに死んでしまったからな。途方にくれるところだったぞ。まあどうせあいつらは大した情報など持ってなかったがな。」
「ふむ。ジュラとグラフィアスを捕らえた場所は聞いておるし、そちらにも騎士団を向かわせたのじゃろう? こちらの動きは既に知られておることじゃろうし、残党を王都から逃がさぬことが肝要じゃな。」
「ああ、すでに都市型結界魔法陣の使用も奏上してある。滅多にない機会だからな。根絶やしにしてくれる。」
「ワシのかわいい孫達を狙ったんじゃ。一人も生かしてはおけんのぅ。全くヤコビニ達は死んでからも迷惑をかけおる。これで終わればよいがのぉ。」
「ああ、大人しくスラムを仕切ってればいいものを王宮にまで手を広げるとはな。闇ギルド風情が!もはや目溢しもできん。時には役に立つ連中だったのだが。」
この二人は王都生まれ王都育ち。小さい頃から互いに切磋琢磨し王の忠臣たれと教育されてきた。その結果、一方は二人の兄と二人の姉妹に打ち勝ち魔道貴族ゼマティス家の跡目となった。もう一方は王国騎士団のトップにまで登り詰めた。困った時、辛い時には助け合い励まし合いながらここまで生きてきたのだ。
なお、クタナツの前騎士長ハインリヒ・ド・ブランシャールはセロニアスの伯父である。
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