『三回戦第二試合を開始します! 一人目はァー! エリザベス・ド・マーティン選手! デルフィーヌ選手に勝った手並みは見事としか言えません! 誰かこいつを止めてくれぇー!
二人目はァー! アンリエット・ド・ゼマティス選手! 先ほどは鮮やかな口車を見せてくれました! 見事勝ち上がってウリエン選手と対戦するのはどちらだぁー! 双方構え!』
『始め!』
『旋風刃』
『荒れ狂う暴風』
うおっ、いきなり上級魔法の撃ち合いかよ。姉上の旋風刃って初めて見るな。炎の竜巻とは違った意味でエゲツないやつだ。お互い殺す気か。
『旋風刃』
『凍てつく氷河』
アンリエットお姉さんは魔法を変えているが、姉上は同じやつだ。何か考えがあるのだろうか。
『早くも乱戦です! 武舞台上では上級魔法が飛び交っております! 状況が全く分かりません!』
『こうも撃ち合いになると結局魔力総量の多い方が勝ってしまうが、お互いに考えがあるのじゃろう。』
『怪我に加え魔力を消費しているのはアンリエット選手だな。もちろんすでに治しているだろうし、回復も済ませてはいるだろうが。』
そりゃそうだ。だから姉上は焦らず力押しをしているのか?
『エリザベス! ウリエンさんの秘密、知りたくない?』
『アンタが知ってる程度のことなんか興味ないわ!』
『ふーん、余裕ね? エリザベスが王都に来る前、ウリエンさんはよくゼマティス家に来てくれたわよ。』
『旋風刃』
『水壁』『焦らないで最後まで聞きなさいよ。その時にお風呂でね……』
『アンリエットぉぉぉー!! 殺す!!』
『氷弾』『氷散弾』『氷塊弾』『旋風』『水斬』『豪炎』『燎原の火』
めちゃくちゃだ……魔法を使えばいいってもんじゃないぞ……あんなことで簡単にキレるなんて……
『轟く雷鳴』『燎原の火』『舞い踊る砂塵』
『エリザベス選手の凄まじい攻撃が続きます! アンリエット選手の見え透いた挑発に乗ってしまったのでしょうか!?』
『アンリエット選手らしい手段じゃの。しかし問題は……』
『そう。このままエリザベス選手が押し切ってしまいそうなことだ。少々煽り過ぎたのかも知れんな。』
あれだけ大規模な上級魔法だと魔力感誘も役に立たないのではないか? お姉さんは大丈夫か?
しかも姉上は上級魔法に紛れて普通の氷弾や火球も飛ばしている。タチが悪いな。反撃がないようだが、それでも姉上は手を止めない。確実にトドメを刺すまでやめないのだろう。
このまま勝負が付くかと思ったら突然姉上が横に吹っ飛んだ。風球でも食らったか?
『おおーっと! 決着かと思われた矢先! エリザベス選手が吹っ飛んだぁー! アンリエット選手、起死回生の一撃かぁー!』
『ふむ、アンリエット選手、中々やりおるわ。よい仕込みじゃ。』
『ほほう。私には分からなかったが、アンリエット選手の攻撃だったのか。』
そこから形勢が逆転しお姉さんの猛攻撃が始まった。姉上は逸らせてない。ことごとく直撃してるようだが……
『トドメよ! 死ねぇエリザベス!』
『業火球』
お姉さんから大きめの灼熱火球が放たれて姉上を直撃……するかと思ったら!?
そのままお姉さんに跳ね返ったっ……!?
『いかん! アンリエット避けよ!』
お姉さんは大きい魔法を使った直後で隙だらけ。おじいちゃんも立場を忘れるほどの事態か……
お姉さんは避けられなかった……よっぽど魔力を振り絞った一撃だったのだろう。
『勝負ありじゃ!』『水球』
おじいちゃんは慌てて魔法を撃ち消火をすると武舞台に飛び降りて治癒を開始した。
終わってみれば、姉上の実力勝ちだ。見た感じではほぼ無傷のようだが……まさか自動防御と自在反射?
そこまで使いこなせるようになっていたのか……
制御も大変な魔法だが、あれだけの上級魔法連発の後でよく魔力が持ったな。
いや、ギリギリか……足を引きずるように武舞台を降りて行ってる。この後は決勝戦だが、戦えるのか?
姉上の様子を見てこよう。少し心配なんだよな……
いた。通路で倒れ込んでやがる……
「姉上ー、調子はどう?」
「悪いに決まってるわ……」
「治療室には行かないの?」
「行くに決まってるでしょ……肩貸しなさいよ……」
私とアレクで両側から姉上を支えて連れて行く。ギリギリの勝利だったんだな。
治療室はバタバタしているようだ。アンリエットお姉さんが危ないのかな? あの業火球は危ないよな。お姉さんぐらい高い魔力を持ってなかったら一発で消し炭だよな。おじいちゃんの消火も早かったし、応急処置も早かった。死にはしないだろう。
ちなみに姉上は肋骨が折れていたらしい。結構いい装備してるのに折れるとは、中々強力な魔法をくらったようだな。あの時の横から直撃した風球だろうか? 見えなかったけど風球だよな?
「カース、来てたのか。」
「あー兄上。好調だね。このままだと王太子殿下との賭けに負けちゃうよ。困ったなー。」
「はっはっは。エリが勝つかも知れないぞ?」
「無理だよー。どうも兄上が勝った方が姉上には都合が良さそうだしね。」
「僕は負けないさ。エリの調子が悪いなら好都合ってものだよ。」
やっぱ姉上に勝ち目なんかないじゃん。
「よく分からないけど、兄上は好きな女の子っていないの?」
「好きな……子か……」
兄上は黙り込んでしまった。モテる男にはそれなりの苦悩があるんだろうな。
治療室から観覧室へ戻る時にソルダーヌちゃんがいた。
「あらカース君。随分とお久しぶりね。王都に戻ったのに私には会いに来てくれないの?」
「やあ久しぶり。色々あったものでね。一回戦は見てたよ。さすがに相手が悪かったね。」
「まあ、実力不足なのはどうしようもないわ……それより! あの約束はどうしてくれるの?」
何だ? 何かあったか?
「えっと……ごめん。何だっけ?」
「カース、あの時のよ。夕食の件。」
「ああー! ごめんごめん! 思い出したよ! じゃあ今夜どう?」
「もお! 事情は分かってるからいいけど。その代わり一人で来てくれる?」
「いいわよ。仕方ないわね。ただし泊まりはだめよ?」
私より先にアレクが答えてしまった。まあいいか。
「分かったよ。この狼、カムイは連れて行くけどね。いいよね?」
「ガウガウ」
「ピュイー」
あ、コーちゃんが拗ねてる。コーちゃんはアレクに付いててよ。ここは王都なんだから警戒しないとね。
「ピュイピュイ」
「じゃあこの争奪戦が終わったら迎えに行くわ。待っててくれないと嫌よ?」
「分かったよ。さすがにこの前のようなことなんか起こらないだろうしね。」
まあ、起こっても私には何もできないのだが。それより、相変わらずエミリーちゃんは私に厳しい目を向けてくるな。気に入らないならソルダーヌちゃんを諌めろよな。
決勝戦が始まるまではまだまだ時間がかかりそうだな。観覧室に戻ってアレクとイチャイチャしながら待つとしよう。
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