どうにか閉門前に城門をくぐることができた。ノヒテホ村か……当然行った事などないが、カスカジーニ山の西にあるんならすぐ見つかるだろう。
見つけた。見た感じはそこらの農村だが……
ここは霞の外套の出番だな。せっかく天空の精霊から貰ったんだから使い倒してやる。
「ピュイピュイ」
アレクがいる? さすがコーちゃん。ならば一足先に潜入してくれる? ここからは私も魔力探査を使えないからさ。下手に魔力探査なんか使って探ってることがバレたら目も当てられないもんな。
「ピュイピュイ」
ありがとね。頼りにしてるよ。
上空から暗視を使いながらコーちゃんの行方を注視する。アレクの居場所が分かるはすだ……頼むぞコーちゃん……
時は同日の昼過ぎまで遡る。アレクサンドリーネ一行はノヒテホ村に来ていた。
「この村だな?」
「はい! ここノヒテホ村を拠点に盗賊が出没しているそうです!」
「村の様子を見る限りでは平穏そのものだな。アレックス、どう思う?」
アイリーンはアレクサンドリーネの意見を求めている。
「私に分かるわけないでしょ。盗賊を捕まえるのも大事だけど命を大事に行動することを忘れないようにね。」
「それもそうだな。それではロザリー、どうするべきだ?」
「はい! まずは潜入してみて情報を得ることが大事かと! 私が行きます!」
魔法学校の三年生であるロザリー。今回の盗賊討伐は彼女の発案だ。彼女が姉であるレジーヌに助けを求め、レジーヌは同級生であるアイリーンに助けを求めた。そしてアイリーンは何の気なしにバラデュールやアレクサンドリーネに声をかけたのだ。したがって発案者であるロザリーが率先して動くのは何らおかしいことではない。
「待て。レジーヌも行ってやれ。」
「そうね。二人の方が効率がいいわね。行くわよロザリー。」
レジーヌとロザリー姉妹は『隠形』を使った上で村へと歩いて行った。
「あなたが名前を覚えてるなんて珍しいこともあるものね?」
アレクサンドリーネはアイリーンに問いかけた。
「私とて友人の数人はいるからな。アレックスこそ、このような仕事に付き合ってくれるとは珍しいではないか。」
「そりゃあ珍しくアイリーンが頼んでくるぐらいですもの。たまにはこんな仕事もいいかと思ったのよ。」
「アイリーンのために……ありがとうございます。」
アイリーンの想い人、バラデュールが照れたような口調で礼を言う。
「いいのよ。私にしてもアイリーンは数少ない友人だもの。バラデュール君こそせっかくのお休みを大変ね。」
「いえ、アイリーンのためなら何でもないことです。」
「バ、バラドのバカ……」
アイリーンとアレクサンドリーネ。この二人さえいれば盗賊など何十人いようともものの数ではない。全員がそう思っていた。その時までは……
「アイリーンせんぱーい! この村はどうやら安全みたいです! それで村の方からお昼を誘われたんですが、皆さんでいただきませんかー!?」
「ふむ。昼も過ぎていることだし悪くないな。アレックスはどう思う?」
「いいんじゃないかしら? ただ、私は食べないわよ。アイリーンに任せるわ。」
「そ、そうか……まあいい。行ってみるか……」
ロザリーに案内されるままに立ち入ったのは村長宅、と説明された家だった。
「なんとまあ領都から来ぃしゃんたんかえ? よぉ来たくれたぁのぉ。さぁさぁたくさん食べんしゃいな。」
村長と名乗った好好爺は全員に同じ鍋から料理をよそった。
「うわぁおいしそう! いただきますぅ!」
真っ先に食べたのはロザリーとレジーヌ。
「おいしーい! 大鍋で煮込むとこんなにも美味しいんですねぇ!」
二人が美味しそうに食べたことで他のメンバーも遠慮なく食べ始めた。アレクサンドリーネ以外は。
「おやまぁこちらのお嬢さんにぁ口に合わんじゃったんかのぉ? すまんでのぉ……」
「そ、そうじゃないわ……こっちにも事情があるのよ……」
悲しそうな村長の顔を見るとアレクサンドリーネの心にも揺らぎが生まれてしまう。
「税を払うだけで精一杯の村じゃあ……せっかく来てくれさぇたお客をもてなすこともできなんだぁ……ワシらぁ……」
確かに匂いはいい。腹も減っている。そして自分に毒は効かないことも分かっているアレクサンドリーネだ。食べてもいいかと思い始めた時、それは起こった。
「おらぁテメーら! こっち見ろや! ガタガタぬかしよったら殺すけぇのぉ!」
突如乱入してきたのは大男。そして先ほどまでの態度が一変した村長と村人により取り囲まれていた。
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