治療室の前には数人の人だかり。そこにフェルナンド先生の姿が見えないってことは中にいるのだろう。これはだめだな。とても中に入れそうにない。きっとてんてこ舞いなんだろう。
「すいません。レイモンド先生の容体って分かりますか?」
無尽流の人達がいたので聞いてみる。
「いや、俺らも今来たばかりなんだ。さすがに入れなくてな」
やはり待つしかないな。私がスティード君に負けて運びこまれた時も、みんなこうやって心配してくれたのだろう。兄上も心配だが、レイモンド先生も心配だ。
あっ! フェルナンド先生が治療室から出てきた。みんな口々に容体を尋ねている。
「すまないが後だ。カース君、アレックス嬢、入ってくれ。君達の助けが要る。」
「押忍!」
「お、おす!」
一体何事だ? 治療室内には何人かの治癒魔法使いさん達が忙しなく動き回っていた。そりゃあ怪我人続出だもんな。
「来たね。アンタ達の魔力が必要なのさ。いいだろう? 対価はこいつらから貰うといい。」
いつもの治癒魔法使いさんだ。どういうことだ?
「もちろん構いません。どうしたらいいですか?」
「私にできることでしたら。」
「よし、まずはお嬢ちゃん。手を出して魔力を燃やしておくれ。」
そう言って治癒魔法使いさんはアレクの両手を握った。魔力を燃やす……いつかの魔力庫職人さんを思い出すな。ボクシーさんだったか。近いうちに会いに行かないとな。
「ふふ、いい魔力を持ってるじゃないのさぁ。いいわぁ、もっとよ! もっと燃やしなさい!」
「はい……」
アレクがもう疲れたように見える。キツいのか?
「よし、そろそろね……はい、そこまで。」
そう言ってアレクから手を離す。結局何をしたんだ?
「さて、少し待ってな。」
治癒魔法使いさんはレイモンド先生の体、心臓あたりに手を当てて何かしている。真剣な表情だ。鬼気迫るものがある。額からは幾筋もの汗が滴っているようだ。
「ふぅ〜。次だ。魔王の坊ちゃん、手を出しな。」
私か。魔王なのか坊ちゃんなのかどっちだ。魔王んちの息子か?
「さあ、魔力を燃やしてもらおうか。」
そう言って私の手をとる。錬魔循環でいいよな。ブン回してやる。
「キャワッ! 何て魔力なんだい……もう満タンになっちまったよ……」
満タン? もしかして魔力を吸収してたのか? 朝から治療しっぱなしで魔力は空っぽ。しかし何本も魔力ポーションを飲むわけにもいかない。この特技があればいくらでも回復できるってわけか。すごいな。錬魔循環の応用編ってとこか? 今度母上に聞いてみよう。
それから治癒魔法使いナーサリーさんは何度も私とレイモンド先生の間を往復し、治療を続けた。もしかしてオミット選手よりレイモンド先生の方が危険だったのか?
幾度の往復を終え、ナーサリーさんは一息ついているようだ。この部屋に治癒魔法使いは何人かいるが、彼女が一番の凄腕なのだろう。だから一番負担が大きいと。
「あー、疲れた。アンタすごい魔力持ってるのねぇ。あれだけ吸ってもほとんど減ってないんじゃないの?」
「お疲れ様でした。レイモンド先生を助けていただきましてありがとうございます。確かにあんまり減ってませんね。」
一割も減ってない。
「ちっ、魔王って呼ばれるだけあるねぇ。しかも恐ろしく滑らかな魔力ときやがった。さすがはイザベル姐さんの子だねぇ。」
「母上をご存知なんですか!?」
「バカ言うなよ。王都の魔法使いでイザベル姐さんを知らない奴なんかいないさぁ。さて、休憩はここまでだ。もうひと踏ん張りかねぇ。」
そう言うとナーサリーさんは私からまた魔力を吸い取って治療を開始した。今度はオミット選手か。まだ終わってなかったのね。再び往復が始まった。
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