翌朝。魔力量は六割ちょいまで回復した。昨夜は早く寝たせいか今日は早起きだ。たぶん今は八時ぐらい。
「おはよう。いい朝ね。」
「おはよ。ちょっと昨日のあいつらの様子を見てくるから、その間に朝食を頼んでいい?」
「カースったら。本当に領主じゃない。慈悲深くて素晴らしいことだと思うわ。いってらっしゃい。」
なっ! 今のセリフ……
「アレク、今の言葉をもう一回言ってくれない……?」
「今の? 本当に領主だってところかしら?」
「違う。最後のところ!」
「えぇっ? い、いってらっしゃい?」
ぬおおおーーー! これはいい言葉だ! 新婚感がすごい! 領都では私が寝ていたりアレクを見送る側だったから言われたことがなかったんだ! 素晴らしい破壊力だ……
「うん! いってくるね!」
すぐ帰ってくるけどね。朝からハッピーだ。この幸せはお裾分けせずにはいられないな。
さて、掘立小屋エリアへ来たぞ。昨日のあいつらの小屋は……あれだったかな?
「おーい。起きてるか? 調子はどうだ?」
勝手も知らない他人の小屋。私は領主だからな。勝手に入るとも。
「おお、ま、魔王か……昨日はすまなかった……だいぶ良くなった……」
起きてるのはこいつだけか。
「ヒッ……魔王様?」
ん? 昨日は居なかった女だな。二十代後半ぐらいか?
「ポーションはあるって言ったな? 食い物はあるか?」
「あるにはあるんだが、実は困っている。一番酷い怪我をしてる奴の魔力庫にいい食材が入っててな。俺やこいつ、ハンナの魔力庫には間に合わせ程度しか入ってない……」
「分かった。ならオークを一体と魚を適当にくれてやる。解体する元気はあるか?」
「なっ、まっ、マジでか!? やる! 俺達で解体ぐらいやるとも!」
たぶんそいつの魔力庫は鮮度重視の設定なんだろうな。他の奴らはゲットした素材係か?
「ここにはもう十日ぐらい滞在する予定だからな。この間に困ったことがあったら言ってこい。少しは助けてやるからさ。」
「うぐっ、ず、ずまねえ魔王ぉ……気前がいいのは知ってだが……まざかこんだに慈悲深いだんで……」
泣くなよオッさん。
「あ、ありがとうございます!」
「困った時はお互い様だからな。じゃあ気をつけてな。あ、これはサービスな。」
『浄化』
『風壁』
掘立小屋は寒いからな。即席の暖房だ。完全に密閉すると窒息してしまうから加減が大事だ。
「外に出る時は適当にブチ破ってくれ。たぶん夕方までは持つだろうからさ。」
「ずまねぇ、ずまねえ魔王ぉぉぉ……」
「ありがとうございます!」
いいことすると気持ちがいいな。こんな所まで来るほどの奴らならこれに味をしめて良からぬことを企んだりもしないだろう。全ては私の気紛れによるサービスなんだから。バカな奴って一歩譲歩したらいくらでも入り込んでくるもんな。
さーて、朝飯朝飯と。味噌汁が飲みたいなあ……
「ただいまー。」
「おかえりなさい。できてるわよ。」
おっふ、これもいい……新婚だ。超新婚だ。
「ずっと一緒にいようね。」
「も、もうカースったら……うん……」
見たところメニューは昨日の朝食と同じ。しかしアレクのことだ。味付けは別物だろう。
「いただきます!」
「召しあがれ。コーちゃんも食べてね。」
「ピュイピュイ」
オニオンスープはスパイシー。パンにはほんのりと甘いジャム。逆にサラダはほとんど味付けがない。オーク肉は少し厚切りで岩塩のみの味付けか。美味しいなぁ。朝からハッピーだ。
「今日はどうするの?」
「ノワールフォレストの森には行くけど深くは入らないつもりだよ。主みたいな奴に会いたくないからさ。」
「カースって最初だけ慎重よね。滝なんかに潜るくせに。」
最初だけ? ついつい好奇心に負けて行動してしまう時だってあるさ。だから大物に遭遇してしまうのだろうか。そりゃあまあエビルヒュージトレントなんかを狙いたい気持ちはあるけどさ。
それはさておき、スティクス湖畔に根付いたイービルジラソーレを見てふと思いついたことがある。楽園周辺にマギトレントを植えられないかということだ。理論的には可能とは思うんだがなぁ。もし実現したら近寄る雑魚魔物を片っ端から栄養分にしてしまう頼もしい番犬、いや番木のできあがりだ。冒険者が狙いそうな気もするがどうしたものか。意外に面白いアイデアかも知れない。冬休みが終わったら挑戦してしてみようかな。番狼のカムイは今頃どこで何やってんだろうなあ……
さて、ノワールフォレストの森南東部に来た。つまり、楽園からかなり近い。十五分ぐらいで着いた。本日の私のテーマは剣。フェルナンド先生からいただいた剣を使って魔物と戦う予定だ。自動防御も張ってないしアレクとも三メイルぐらい離れている。自動防御がないとかなり怖いんだよな……足元や頭上から蛇なんかが、うわっ来た!
とっさに剣を抜き斬り捨てる。ほっ……
「ハングバイパーね。あまり価値がないから毒袋だけ取っておいたら?」
「そうしようかな。」
毒袋、正しくは毒腺って言うんだったかな。こいつを牙ごと切り離す。そして収納。残った部位は軽く埋めておこう。今日はなるべく魔力に頼らず過ごしたいからな。しかし自動防御がないと解体の最中も落ち着かないな。常に周囲を警戒しないといけないもんな。これが普通と言えば普通だよな。がんばろ。
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