十月二十三日、デメテの日。
五年に一度開催される王国一武闘会がもうすぐ始まる。私にとっての本番は明日だが、今日も本気で頑張ろう。
ゼマティス家のみんなに激励され、アレクやコーちゃん、そしてシャルロットお姉ちゃんと馬車に乗り込んで会場へ向かう。やはり混んでいる。早めに出ておいてよかった。
「カース、あんた魔法はすごいけど剣はどうなの? 自信あるの?」
お姉ちゃんの心配もごもっともだ。前回一緒に無尽流に行った時は外で子供用の稽古しかしてないからな。あれでは私の実力に疑問を持っても仕方ないだろう。
「もちろんないよ。剣鬼様みたいな人を見てたら自信なんか持てるわけないよ。でも僕は装備がかなり反則だからね。いいとこまで行けると思うよ。」
そう、この大会は武器も防具も自由。やはり何でもアリなのだ。そこまで含めて実力というわけだ。領都の大会でもすごい鎧のやつとかいたよな。
「陛下だってご覧になるんだから無様な真似をするんじゃないわよ!」
おお、天覧試合か。それは燃えるな。
「てことは王太子殿下もいらっしゃる?」
「ええ、おそらくね。」
それならウリエン兄上も来るのかな。ますます燃えてきた。いいとこを見せないとな。
ようやく到着。受付時に渡された番号札に合わせた入口から中に入るのか。
「じゃあ行ってくるね。」
コーちゃんはアレクに預けておく。アレクを頼んだよコーちゃん。「ピュイピュイ」
「期待してるわ。」
「いつものように格好いいところを見せてね!」
アレクはそう言って私に口付けをしてくれた。公衆の面前でするにしては、ややディープだ。でも嬉しい!
スティード君やアイリーンちゃんも参加しているはずだが、この人数だと見つけられないだろうな。特注の首輪を外し、通常の拘束隷属の首輪へ付け替える。これなら負荷はほとんどない上に首をしっかり防御できるからな。頭にはサウザンドミヅチのボルサリーノ風中折れ帽をかぶり、手袋も付ける。これで露出した肌は顔ぐらいのものだ。フルプレートアーマー並み、いやそれ以上の装甲だろう。
「おいおい、いつからここはダンス会場になったんだぁ? そんなチャラチャラした格好で勝てると思ってんのかよぉ?」
「おおかた鎧も買えない貧乏人なんだぜ?」
「それにしても全身決め決めじゃん? 何勘違いしてんだか?」
あれ? 前もこんなことを言われた気がする。まさに歴史は繰り返す、だな。確かあの時は肩に触れられたことを理由に麻痺させてやったんだ。今回は……
「おいこいつビビってやがるぜ?」
「そんなにビビらなくても試合で当たらなけりゃ優しくてしてやるってのにのよ?」
「それとももう帰るかい? その方が安全だよ?」
『麻痺』
芸がないようだが同じ手を使った。そもそもルールは何でもアリ。脅迫、人質もアリなら闇討ちもアリだろう。私も試合中以外は自動防御をしっかり張っておこう。
『静粛に! 只今より国王陛下がご入来されます。ご起立、脱帽でお待ちください。』
『ローランド王国国王グレンウッド・クリムゾン・ローランド陛下、ご降臨!』
コロシアムの貴賓席。その上空から何かが降りてくる。あれは鳥か? コカトリスか? いや、ドラゴンだ!
広げた翼が百メイルはあろうか、巨大な青紫のドラゴンがゆっくりと舞い降りる。そのドラゴンの背から貴賓席へと飛び移った一人の人物、あれが国王……
『皆の者、楽にしてよい。今日の良き日に子供達の元気な姿を見られることを余は楽しみにしていた。ところでこのように空中からドラゴンと共に登場する演出はどうだ? 驚いたであろう? 皆を楽しませることも国王の務め、優勝者は余のドラゴンに乗せてやってもよいぞ? 諸君の奮闘を期待している。』
重い、威厳を感じる声だ。その中にユーモアとエンターテイメントを交え国民の心を掴むとは。さすがに王族はそこらの貴族とは一味違う。それにまさかドラゴンを召喚できるだなんて……国王が降りたらドラゴンはふっと消えてしまったことから召喚獣だと判断できる。
いつしか会場は拍手の渦となっていた。あれだけの挨拶でこの拍手。さすが国王……
『本日の司会進行を担当いたしますのは私、王都冒険者ギルドの人気ナンバーワン受付嬢、ベリンダ・マッケンロードがお送りいたします』
『そして解説はこの方、王都中の女性冒険者の憧れ! ミニスカートの流行を生み出した破極流の槍使い! 前々回優勝者、四等星ベルベッタ・ド・アイシャブレ様だぁー!』
『どうもみなさん。ベルベッタ・ド・アイシャブレだ。回を重ねるごとに子供達のレベルが上がっているようなので、今回も非常に期待している。どんな手を使ってでも勝つ姿勢を見せて欲しい。』
おお、フェルナンド先生に手傷を負わせたというミニスカートの槍使い! 興味深いぞ!
『さて、それでは一回戦を行います。番号札一から二十の方は一番武舞台へ。二十一から四十の方は二番武舞台へ……………とお移りください。』
二十人ずつまとめて試合をするらしい。全部で千人ぐらい参加してるもんな。このペースでも一回戦だけで五十試合か……武舞台が四面あるので、一試合十分として……二時間足らずか。さすがに待ちが長いな……
私の番号札は三百六十一か。出番はまだ先だな。
『番号札三百六十一から三百八十までの方、二番武舞台へ上がってください。』
やっと出番だ。
他の参加者達は剣や槍がほとんどだ。私のような木刀はいない。刃物もアリだもんな。さすがにフルプレートはいないが金属鎧や革鎧を装着している。これまた私のようなオシャレさんなどいない。
『第二武舞台、始め!』
このような乱戦では攻撃よりも防御優先だ。速やかに端に寄り、背後からの攻撃が来ない状態を作っておく。目立つ私は狙われるかと思ったけど、意外とそうでもなく早くも残り五人。ちなみに私は無傷だ。弱そうだから後回しでいいって考えだろうか。最後まで大人しくしてよーっと。
残り一人、ついに一対一になってしまった。すまないが終わりだ。あっさり虎徹で胴薙ぎして終了。一回戦から楽をしてしまった。ツイてたな。
それからボーッとしていたら、一回戦全試合が終わっていた。するとそこに。
「カース君、見てたよ。鋭い一撃だったね!」
「ありがと! やっぱりスティード君も一回戦突破したよね?」
「どうにかね。これからが本番だから気を引き締めていかないとね。」
『二回戦を行います。番号札十五番、二十三番、四十五番、六十二番…………』
「あ、呼ばれたから行ってくるね。」
「頑張ってね!」
スティード君は百六番か。同じタイミングで受付をしたのに、結構違うもんだな。時間がありそうだしスティード君の戦いを見ておこう。
二回戦に勝ち上がった人数は五十二人。それがここからは一対一で戦うのだ。どいつもこいつも十五歳に見えないゴツい奴ばかり。スティード君も背は高い方だけど、体の厚みでは負けている方だ。つまり私だとかなり小さい方に入る。これでも標準的な体型だってのに……
そんなことを考えていたらスティード君の試合はあっさり終わった。やっぱりスティード君は強いよなぁ……
『番号札三百六十一番、三百八十五番…………』
おっ呼ばれた。
さて、対戦相手は……うわーごっついな。
あの武器は見たことがある、確かハルバードだよな? それに丈夫そうな鎧で上半身を固めており、視界の悪そうな兜、手脚は膝と肘以外に軽そうな装甲を付けている。
『始め!』
猛然と突っ込んで来る。私は相手に背を向けて逃げる。武舞台は広いので楽に距離を取ることができる。あんな重そうな武器や鎧で私に追いつけるか?
開始から十分。もうバテた様子だ。時おり、かかって来い! だとか、逃げるのか! なんて声が聞こえるが、無視だ。先は長いんだから少しでも楽をして勝たねばならない。
さらに五分。相手の足が止まった。さすがに座り込むことはないが、バテバテのように見える。ここで迂闊に近づくと思わぬ反撃をくらうのが世の常だ。慎重にいこう。
正面からスタスタと近寄ると、相手はハルバードを上段に構える。私が離れると降ろす。繰り返してみる。次第に腕が上がらなくなったようで、ハルバードの石突きが武舞台から離れなくなった。だらしないなぁ。
さすがにもういいだろう。スタスタと後ろに回り込むと、相手もこちらを向く。しかし近寄っては来ない。このまま周りをグルグルと回りながら次第に距離を詰め、いきなり反対方向へダッシュ。慌てる相手を尻目に距離を詰める私。ハルバードを振り上げるより先に虎徹が脇腹にめり込む。鎧が虎徹の形にへこみ、相手は倒れた。またもや楽勝。
スティード君は勝ってたが、アイリーンちゃんはどうなのかな?
『二回戦が全て終了いたしました。これより昼休憩を挟みましてから三回戦を開始いたします』
さて、昼だ。何を食べようかな。アレク達はどこにいるんだろう?
「カース君、見せてもらった。見事な頭脳戦だったな。」
「おおアイリーンちゃん。二回戦突破したよね? それよりお昼だけどアレク達と一緒にどう?」
「すまないな、伯母に呼ばれているんだ。でも夕食はぜひご一緒したいものだ。」
「うん、じゃあまた後でね。」
アレクによるとアイリーンちゃんは夏休みが終わってまた強くなっていたらしい。油断できないな。
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