異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

101、カース、冒険者になる

公開日時: 2021年2月9日(火) 10:20
文字数:1,992

西部劇のようなスイングドアを開けてギルドに入る。昼前だからか、閑散としていた。


「食事はこちらです。」


ファロスさんについて私達は歩く。

この様子だとギルドあるあるはなさそうだ。平和が一番だな。


「僕は今日のオススメをお願いします。」

「じゃあ私もそれで。」


何があるか分からないので、適当に注文してみた。


「はい、オークのジンジャー焼き定食お待ち!」


早い!

頼んでから一分も経ってないぞ。


うまい!

普通の生姜焼きだな。

肉が固いけど気になるほどではない。

定食と言っても米はない。

オニオンスープに固いパンだ。


「ようファロスじゃないか! 子連れとは珍しいな! 家族サービスか?」


「おうご無沙汰。護衛中だ。すまんが相手はできんぞ。」


「つれねーな。まあがんばれや!」


ファロスさんは時々声を掛けられていた。

せっかくだから聞いておこう。


「冒険者って何歳から登録できるんですか?」


「特に制限はないよ。あまり年齢が低いと試験で弾かれてしまうけど。」


「へー、せっかく来たんだから登録だけでもしてみようかなー、なんて思ったもので。」


「それは君の自由だけどお金はある? 銀貨一枚かかるよ。」


銀貨一枚は子供には大金だ。

ここの食事代が銅貨五枚、銅貨は百枚で銀貨一枚となる。


「はい、持ってます。ちょっと行ってきますね。」


「待ちなさい! 私も登録するんだから!」


「お嬢様はだめです。旦那様の許可が必要ですので。」


「残念ね、まあいいわ!」


そして受付に移動する。


「こんにちは。登録をお願いできますか?」


「いらっしゃい。じゃあこれに記入してね。分からない所は空白でいいわよ。」


・名前 カース・ド・マーティン

・年齢 九歳

・特技 魔法

・装備 木刀

・住所 クタナツ四番街南東区


こんなとこだろう。


「あらあら九歳なのね。そうなると簡単な試験を受けてもらうことになるわ。」


「はい、分かりました。」


まずは筆記試験だ。ファンタジーだと読み書きができない奴が多かったりするが、クタナツでそんな奴はほぼいない。

内容は冒険者の心得、オディ兄から聞いていたので簡単だった。


次は実技、受付のお姉さんと剣の勝負をする。まああっちは適当に受け流してくれるのだろうが。

一分ほど私が攻撃するだけで合格となった。

たぶん技術より根性を見たのではないだろうか。


これにて登録終了だ。わずか三十分だった。

システムなどは受付横の冊子を読むよう言われただけだ。こういうのはしっかり読んでおかないと足元を掬われるんだよな。


「お待たせ。じゃあ帰ろうか。送って行くよ。」


「もう帰るの? まだお昼よ?」


「いやーせっかく登録したんだから初依頼を何かやってみようかと思ってさ。と言うかギルドの入口に用があるんだよ。夕方まで。」


「それなら私も! 手伝うんだから!」


「いやいや立って挨拶をするだけだよ? きっと退屈だよ。」


「ほう、よく知っているね。新人の最初の仕事だね。」


これで新人の評価が著しく分かれるらしい。

きっちりやっておかないとな。


「分かったわ! 帰るわ! じゃあ後でね!」


「うん? また明日ね。」


こうしてアレックスちゃんとファロスさんは帰っていった。送って行こうと思っていたのに。




さて、挨拶開始と。


「お勤めご苦労様です! 新人のカースです。よろしくお願いいたします!」


「おう、かわいらしい新人グリーンホーンじゃねーか。がんばれよ!」


「押忍! ありがとうございます!」




こんな調子で現在午後三時ぐらいだろうか。

また人が少なくなってきた。


その時、

「私も登録するんだから!」


アレックスちゃんが戻ってきた。後でってこのことか。

そういやこの子は決断や行動が早かったよな。よく許可をもらえたな?


こうして私達は二人で並んで挨拶をするのだった。


あ、オディ兄だ。


「お帰り! 僕も今日登録したよ!」


「思い切ったね。前々から考えてたの?」


「いや、今日たまたまお昼ご飯を食べに来たら勢いでついつい登録してしまったんだよね。」


「カースらしいね。じゃあ後でね。」


ベレンガリアさんは何か言いたそうな顔をしていたが黙礼するのみで、中に入っていった。アレックスちゃんとは少し話をしていたようだ。


「ベレンガリアさん達ってもう九等星になったのよね? さすがに早いわね。」


十等星が九等星に上がるのはだいたい二〜三年、オディ兄達がパーティーを組んでから一年と少しだから早い方なのだろう。

ベレンガリアさんだけは半年ほど経験が長いようだが。


こうして私達は日没まで入口で挨拶をしていた。「がんばれよ!」と言ってくれる先輩と、無視する先輩の比率はだいたい三対一ぐらいだった。

きれいなお姉さんやごっついお姉さんから「今度可愛がってあげる」なんて言われたりもした。

アレックスちゃんが睨んでいたようだが、ぜひ可愛いがって欲しい。

私の守備範囲は広いのだ。


今年登録した人間は同期になるって話だが、同期とはどこかで一緒になることはあるのだろうか。講習会とか新人研修とかはないらしいので。


私の冒険はこれからだ!

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