しまった!
今頃思い付いてしまった!
プールがあるせいで狭くて遊べないって言えばよかったんだー!
遅かった……
門が開き馬車が中に入る、馬車が完全に止まるまでみんなは降りてこない。
その隙に『金操』で鉄を隅に隠す!
そしてその周辺に『土壁』で外壁に見せかける!
この間わずか三秒、我ながら素晴らしい発動速度と遠隔操作だ。惚れ惚れするぜ。
みんなが降りて来た。
まずは母上に挨拶に行かねば。と、思ったら母上とキアラが外に出て来た。
「カーにいおかえりー」
「カースおかえりなさい。みなさんもいらっしゃい。」
「イザベル様お邪魔いたします。突然の訪問で申し訳ありません。」
「あらあらアレックスさんたら。遠慮しなくていいのに。」
「おば様、お邪魔します。突然ごめんなさい。気になることがあったんですが、更に気になることが増えてしまいました。」
ぬあー! サンドラちゃんもう聞くのかよ!
母上が出てきたもんだから口止めもできねー!
「あらどうしたの? 何か気になることでも?」
「昨日カース君が空に飛ばしてた物とお庭のアレが気になってます。」
終わった……
もうだめだ……
こうなったら自分の口から言うしかない……
「サンドラちゃん庭のアレが気になるの?
入っていく?」
「入る? どういうこと?
あれは何をするものなの?」
「あれは古い言葉でプールと言ってね。大昔の王族は外の見晴らしのいい所にあれを作って水と戯れて遊んだらしいよ。
最近暑いからね。気持ちいいよ。それにスティード君、あの中を歩くと足腰がすごく鍛えられるんだよ。」
みんな絶句している。
だよな、外で水を浴びるのは奴隷だもんな。
「カ、カースまさか裸であれに入っているの? やっぱりカースは破廉恥……」
「いやいや、そんな訳ないよ。だからハレンチって何なのさ。」
冬の露天風呂で裸なのは絶対内緒にする。
「今でも王都辺りでは大物貴族や王族がこれの大きいやつを愛用してるんじゃないの?
もしくは河とかで泳いだりしない?」
「ああ、それを言われると確かにそうかも知れないわね。王族ならありえるわ。つまりカースは王族……」
「いやいやアレックスちゃんさっきからおかしいよ。どうしたんだい?」
「カース君、僕入ってみてもいいかな? このまま入って歩けばいいの?」
よし! スティード君が興味を示した!
「うんいいよ。服が濡れるけど気にせず入って前に後ろに歩くといいよ。こっち側は深いから注意してね。」
「服のまま水に入るって面白い感覚だね。それに歩いてるだけなのに、すごく訓練になる気がするよ。」
よし! スティード君はもうこっち側だ。
最早逃れることはできない!
「アレックスちゃんもこの先他の街に行くこともあるよね。河を渡るときにもし落ちたら泳げないと大変だよ。服を着ていると泳ぎにくくてそのまま死んでしまうこともあるらしいよ。」
「なるほど、さすがカース! そんな場面も想定して備えているのね。破廉恥だなんて言ってごめんなさい。」
うっ、そう素直に謝られると心が痛い。
「うひゃー気持ちいいよ!」
セルジュ君も我慢できずに飛び込んだ。やはり男の子はそうでなくては。
これで残りはサンドラちゃんだけだ。
「ところでカース君? 昨日の黒いのはどこ?」
さすが淑女サンドラちゃん。目標を見失わないな。
「あれ? 昨日の夜まではあったんだけど。」
思わず嘘をついてしまった。何てこった……
ついさっき正直に言おうとしたばかりなのに。
「ないなら仕方ないわ。男子二人はプールに入ってるし私達三人でコボルト狩りをやらない? 投げるのは水球で。」
「それはいいね! 涼しそうだし。やろうやろう。」
よし! いい流れだ! このまま有耶無耶にしてくれる!
「じゃあ言い出した私が狩人をやるわ。さあ二人とも逃げて。」
アレックスちゃんはまだ妙なことでも考えているせいか、逃げ足が遅い。
いかんな、それでは当たってしまうぞ?
ところが全然当たらない。サンドラちゃんの水球が変な方向にばかり飛んでいく。
ま、まさか!
狼ごっこでもなく、ゴブ抜きでもなく、コボルト狩りを提案したのは全方位に水球をばら撒くためか!そして水球の当たった反応で黒い物を探そうとしている!
恐ろしい子……何という知略……その年でオッサンである私を上回るとは……
だが! 私の土壁は頑丈!
外壁と区別などつきはしない!
その間、動きに精彩を欠いたアレックスちゃんに水球が当たり狩人交代となった。
だが、サンドラちゃんの知略はここからだった!
逃げる側になったことで、庭を隅から隅まで移動している! もう彼女は確信しているのだ、私が黒いアレを庭のどこかに隠していると!
もうだめだー!
と思ったその時。
「皆さーんお茶が入ったわよ。こっちにいらっしゃい。」
母上ー!
ありがとう! たすかったー!
「あらあらセルジュちゃんもスティードちゃんもびしょ濡れになって。カースの変な所がうつったのね。」
母上はそう言って何やら魔法を使った。
これは……オディ兄の乾燥魔法か? 見る見る二人の服が乾いていく。
「おば様すごーい! もう服が乾いた! 何て魔法なんですか?」
「これは乾燥魔法って言うみたいよ。うちのオディロンが得意な魔法なのよ。
私のは真似だからオディロンほどは上手くないの。ほら、服に結構シワがついてるでしょう?」
「へぇーオディロンお兄さんはもっとすごいんですね! カース君ちは皆さんすごいよね!」
ふふふ、母上もオディ兄もすごいんだぜ。
スティード君が喋らないな。ああ、息が切れているのか。ハードに頑張ったみたいだな。
このまま何事もなくお開きとなるか!?
母上はお茶をおいて家の中に引っ込んだ。
キアラも遊んで欲しそうな顔をしていたが、母上が連れて入ってくれた。
サンドラちゃんが再び……
「ねえカース君、次は狼ごっこしない? スティード君とセルジュ君も水から出てきたことだし。」
くっ、まだ探そうと言うのか。
一体どれほど気になってるんだ。
「そうだね。それもいいね。
スティード君もあそこを歩くのは疲れたんじゃない? 気楽に狼ごっこをしようか。」
「いや、もう少しやってみたいな。せっかくおば様が乾かしてくれたけど。今度はあそこに腰まで浸かって素振りをしようと思うんだ。」
「おおーがんばるね。いいんじゃない?
セルジュ君は?」
「僕は狼ごっこかな。たまには童心に帰りたいよね。」
私達はしょっちゅう童心に帰ってる気がするが。
こうして次の戦いが始まった。
サンドラちゃんはやはり壁際を逃げ回っている。
ふふふ、狼ごっこなら自由に逃げ、好きに探せると思ったか?
無理だな、私が狼をやる以上すぐに捕まえてみせよう。
そして全員捕まるまでその場で無為な時間を過ごしてもらおう。
いきなりサンドラちゃんを捕まえるのはあからさまかと、アレックスちゃんを狙ってみる。
弱い者から狙うのが戦場の鉄則なのだ。
だいぶ身体能力は上がったが、それでもアレックスちゃんは逃げるのが下手だ。
真っ直ぐ真っ直ぐ逃げようとするからすぐ追いつかれてしまうのだ。
さあ次こそサンドラちゃんを捕まえるぞ!
壁際で、庭の木々を利用して逃げようとしているな?
さすがだ、戦略を感じる。
しかしここは文字通り私の庭、ここを知り尽くした私から逃げられるかな?
そもそも隠した鉄も見つけられてないだろうに。
「ねーねーカース君! ここだけ壁が土なのは何でー?」
何!?
なぜセルジュ君がそこに!?
角を土壁で覆い自然に隠したのに!
確かに触ったら土だとバレてしまう。
くっ、年貢の納め時か……
「ふはははは、勇者セルジュよ。よくぞ見つけたな! そうだ、そこに我の秘密があるのだ。見事だ!」
もうヤケクソだ。
「ど、どうしたのカース君? いつもにも増して変だよ? 僕は勇者じゃないよ。サンドラちゃんがカース君のお宝を探そうって言うから。」
「ふふふ、カース君。私を止めることに夢中になってセルジュ君を警戒してなかったわね。この勝負私の勝ちのようね。」
なんと!
サンドラちゃんは私の計略を全て見越した上でセルジュ君を手駒として使うとは。
参った。
「すごいよサンドラちゃん。僕の負けだよ。
あれを見たいのでなく、僕が隠すから暴きたかっただけなんだね?」
「そうよ。なぜかカース君がどうでもいいことを隠すから知りたくなっちゃった。
さあ見せてもらうわよ。」
いい年して七歳児に知恵で負けた……
恥ずかしい……
でも見せるしかない。
そして私は土壁を崩し、鉄の立方体を露わにする。
大きさはそこまででもない。
よく自宅から見えたな?
さあ変人だと言うなら言うがいい。
覚悟はいいぞ、私はできてる。
「カース君これ何? 全然お宝じゃないよー。」
「さあカース君、キリキリ吐きなさい。これは何?」
サンドラちゃんが活き活きしてる。
そんなタイプだったっけ?
「ただの鉄だよ。あーもー恥ずかしい!
ただの鉄を一生懸命隠したんだよー! どうせまた変とか言うんだろー?」
「どうなのサンドラちゃん? これはお宝なの?」
セルジュ君はやたらお宝にこだわっているようだ。
「さあ? 人が大事に隠すものは全部お宝じゃない?」
おお、やはりサンドラちゃんは淑女か。
「さてカース君? こんな重そうな物を動かしてたんだよね? どうやって?」
「金操だよ。風操でもいいけど、埃が飛ぶからやめたんだよ。」
「金操? 確か魔力をバカ食いするらしいじゃない? やっぱりカース君は変人よね。」
「ふふそうさ僕は変人さ。魔力効率なんか気にしないのさ。
あんまり変変言うと空を飛べるようになっても乗せてあげないんだからね!」
「ええ! カース君空を飛べるの!? 僕も飛んでみたいなー。」
「セルジュ君だめよ。飛ぶだけならみんなできるのよ。でも落ちたら簡単に死ぬから誰もやらないのよ。」
「だよねー。危ないよねー。いいんだ、僕一人で飛ぶから……がんばるから……」
「カース! やめるのよ! 私はあなたに死んで欲しくないわ! 魔法を覚えたての子供が家を焼くほどではないけど、子供に多い事故なのよ!
ついつい飛べる気がして風操とかで飛んでみて……結局制御できなかったり魔力切れで落ちて終わりなのよ!」
今までずっと喋らなかったアレックスちゃんがいきなり大声で叫んだ。
純粋に心配してもらえるのは嬉しいな。
「大丈夫だよ。慎重にやってるから。
そのための実験を念入りにやってるんだよ。
みんなを乗せてあげるってのは難しいけど、たぶん自分だけなら飛べると思うよ。」
「ふーん、カース君は空を飛びたいんだー。
その実験をしてたんだー。
それを嘘ついて隠してたんだー。
ふーん。」
ぐああ!
嘘は、嘘は嫌だー!
でも嘘をついてしまったー!
なんてこったい!
「ち、違うんだ、嘘っていうか恥ずかしいから隠しておきたかったんだー!」
「分かってるわよ。カース君が変なのは分かってるんだから。今回は私が悪かったわ。趣味の悪いことをしてしまってごめんね。」
うう、サンドラちゃーん。
やっぱり君は淑女なんだね。
「僕の方こそ、変に隠してごめんよ。
でもさぁ、できれば隠したいんだからそっとしておいて欲しかったよ……」
「うふふ、隠されると見つけたくなる。
それが女なのよ?」
私達はまだ七歳だよな?
もうすぐ八歳になるが。
私がオッサンなのに精神年齢が低いだけか?
ちなみにスティード君はこの間もずっと素振りをしていた。
アレックスちゃんもあんまり喋らなかった。
変なのはみんなもだと思うがどうか。
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