タイムリミットまで残り六分か。まあそもそもあいつの言うことなんか信じてないけどね。
「俺に何か用か?」
浮身を使ってそろりそろりと武舞台に降り立った。足元すら見えないからな。
ところで、この会話も会場中に聴こえてるのか?
「大した用じゃないさ。死ね!」
いきなり後ろから刺してきやがった。しかし私の自動防御は破れない。最近立て続けに破られたものだから今日はかなり魔力を込めてある。破れるのはフェルナンド先生ぐらいじゃないだろうか?
『水鞭』
周囲を無差別攻撃する。どうせ私には奴の居場所が分からないんだから。ついでに姉上を回収。『解毒』
効くか分からないけど、魔力特盛でかけてみた。解毒なら姉上も使えるはずなのだが……
その時、上からポツポツと雨が降ってきた。
よし! でかしたアレク!『風操』
闇雲を全て上空にぶっ飛ばして会場を明るくした。アンタレスは……そこか!
『魔弾』
これも弾くのかよ……
まだまだ!
『榴弾』『榴弾』『狙撃』
とどめに!
『魔弾』
百や二百どころではないベアリング弾が奴を襲う。ヌエには効かなかったから速度もかなり上げてある。しかも、その合間に魔力特盛のライフル弾もぶち込んでやった。
その結果……
頭以外を穴だらけにしてやったのにまだ生きてやがる……
「ぐふっ、さすが、だな、魔王……」
「テメー何モンだ?」
「知ら、ないか? 魔蠍、だ……」
「あぁ? もしかして魔蠍のボスなのか? 何だってこんな大会に参加してんだよ!」
「ふん……お前には、分からない、だろうよ、俺達の仕事、に失敗は、ない!」
いきなり元気になりやがった!
話してる間に姉上は場外に出したからな。もういいや、殺してやる。
『徹甲魔弾』
胴体に大穴をあけた。終わりだ。
それより姉上の容体は……なっ!?
危なっ! 水弾が飛んできた。絶対ただの水弾じゃないよな。自動防御の魔力消費がおかしい。鴉金のシンバリーが使った溶解魔法より消費してるじゃないか!
それより何でそんな大穴あけられて生きてんだよ!
しかも塞がりかけてるし! さては……
「テメー、あれを飲んだのか……」
「どうせ死ぬんだ。お前も道連れだ魔王……」
魔王を道連れに死ぬってテメーは勇者かよ! 殺し屋のボスのくせに!
『火球』『火球』『火球』
情報が取れないのは惜しいが『神酒の欠片』を飲んだ以上、こいつを制圧などできない。フェルナンド先生がいたら軽くやってくれただろうに。
仕方ないから灰にしてやるよ。
アレクの時と違って手加減なしだ。武舞台だろうが何だろうが全部燃えたって構うものか!
ちっ、嫌な臭いがする。人間を生きたまま焼くとこんな臭いがするのか……
そんなことよりも!
「姉上! 姉上!」
「カース……罰が下ったのかしらね……」
「そんなことより! 具合は!?」
「良くないわ……」
「これ飲んで!」
効くかは分からないが高級ポーションだ。
咳き込みながらも全部飲んでくれた!
早く治療室へ! ナーサリーさんに診てもらわないと!
『結局、カース選手が跡形もなく燃やしてしまいましたね……いや、選手ではありませんけど……』
『魔蠍のボス、アンタレスか……幹部達をどんなに尋問魔法にかけても辿り着けなかった奴がなぜわざわざ公の場などに出てきたのか……』
『分からなくなってしまいましたね……ですが、これで魔蠍は全滅。王都も健全になるでしょうか?』
『分からぬな……それよりエリザベスが心配じゃ。ワシは治療室に行く。場合によってはオウタニッサ選手は不戦勝で優勝じゃな。』
『そうなります。ではゼマティス卿のお帰りを待っておりますので、それから判断することにしましょう。会場の皆さんも今しばらくお待ちください! それに……武舞台が使い物になりませんのでっ!』
私は治療室で、治癒魔法使いナーサリーさんの見立てを待っている。あいつが解毒剤を持っている可能性もあったが、全て燃やしてしまったからな。ただ私と姉上をどちらも殺そうとしていたことから持ってない可能性の方が高い。だからためらわずに燃やしたわけだが……
「お手上げね。全く分からないわ。」
「え……じゃあ姉上は……」
「このままだと死ぬわ。ゼマティス卿を呼んで!」
「分かりました!」
姉上が死ぬ? 嘘だろ!? 私達魔力が高い貴族に毒は効かないんじゃなかったのかよ!
「エリザベス!」
おじいちゃん! ナイスタイミング!
「おじいちゃん! 姉上が! 姉上が!」
「カース! もう大丈夫じゃ! おじいちゃんに任せておけ!」
おじいちゃんなら……きっと……
姉上の腹と背中には合わせて三ヶ所の刺し傷がある。まるで三方から刺されたかのように。深そうだ。
おじいちゃんは傷口に手を当てたり、目を開かせて確認したり、口の中を覗いたりしている。
「分からぬ……こんな強力な毒なぞ初めてじゃ。まるでおとぎ話の『死汚危神』……」
「おじいちゃん……姉上は……」
「すまぬ……よもやこれほどの毒とは……」
あたりに沈黙が訪れる……
くそ! ゴリ押しだ! いくらでもやってやるよ!
『解毒』『解毒』
『解毒』『解毒』
『解毒』『解毒』
『解毒』『解毒』
『解毒』『解毒』
………………
「やめるんじゃカース。解毒が全く効かないわけではない。確かに使っている間はエリザベスは死なぬ。しかし一生使い続けるわけにもいかぬのじゃ……魔力は……いつか切れる……」
私が……解毒を、やめたら、姉上が死ぬ……?
「私もやるわ!」
『解毒』『解毒』
アレク……ありがとう……
「私だって解毒ぐらい使えるんだから!」
『解毒』『解毒』
シャルロットお姉ちゃんまで……
「仕方ないわね。本当に世話が焼けるんだから。」
『解毒』『解毒』
アンリエットお姉さん……
だが、このままだと……何か、何かアイデアはないのか!?
は! もしかして母上なら!?
「おじいちゃん! 母上ならどうですか! 治せませんか!」
「うぅむ、可能性はあるが……」
「行きます! 今すぐクタナツに連れて行きます! このまま出ます! 関所破りのお咎めは後ほど! 必ず出頭しますから!」
姉上をミスリルボードに載せる。王都の城壁なんか知ったことか!
「コーちゃん! 行くよ!」
「ピュイピュイ!」
「カース! 私も行くわ!」
「だめ! 関所破りだよ!? 絶対だめ!」
関所破りは重罪だ。アレクにそんな真似はさせられない。
「カースのバカ!」
「ごめんよ。行ってくる。」
外に出るまでの間も解毒をかけ続ける。母上ならきっと助けてくれる! それまで持てばいいだけなんだ!
ようやくコロシアムの外に出られた。
「おじいちゃん! 後を頼みます! さっきのあいつは魔蠍のボスみたいだったけど! まだまだ裏がありそうです!」
「役に立てず済まぬ。こっちは任せよ。エリザベスを頼んだぞ……」
全力だ。首輪を外す。全速力でクタナツの実家へ。あっちでも関所破りをすることになるな……
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