私は現在アジャーニ邸の正門前にいる。そして門番に挨拶をするところだ。
「こんばんは。もうすぐ日暮れなのに申し訳ありません。騎士アラン・ド・マーティンが三男カースと申します。カリツォーニ様の同級生で学友を自認しております。本日カリツォーニ様はご在宅でしょうか?」
「お待ちください」
さてどう出るかな?
最近はあんまり金貸しやってないから恨みも買ってないはずだ。となると犯人はこいつしかいないよな。せいぜい揺さぶりをかけてやろう。
執事らしき人が出て来た。
「坊っちゃまがお会いになるそうです。どうぞこちらへ」
やはり玄関も広いな。でもアレクサンドル家ほどではないか。
「こちらです」
おそらく奴の自室だろう。
「よく来れたな。怖い目にあったから助けて欲しいのか? 私は寛大だからな。許しを請うなら助けてやらんこともないぞ?」
嘘だろ? もう自白したも同然じゃないか。
「いや、殺し屋に襲われたから何か知らないかと思って。顔は広そうだし、情報通っぽいし何でも知ってそうだから。」
「ほう、それは大変だったな。しかし私にも分からないことぐらいあるぞ?」
にやにやと答える。ビビりまくって助けを求めに来たってマジで思ってるのか?
「そっか、それは残念。まあそりゃ知らないよな。だってあの殺し屋、最低ランクらしいんだよ。公爵家に連なるお人がそんなの使うわけないよな。」
「ふん、当然だ。私がそのような下賤な者など知るはずないだろう。」
「まあ騎士団も動いているし、所詮殺し屋なんて自分が助かるためなら何でも話すような奴だし、依頼人まですぐたどり着くって話だしな。知らないならそれでいい。邪魔したな。」
奴の家を出た私は、隠形を使い空から見張る。すぐにでも動きがあると見た。
案の定、三十分もしないうちに一台の馬車が正門から出てきた。魔力探査をしてみると、乗っているのは一人。まさか本人ではあるまい。
陽動ってこともあるし、一応裏門もチェック。おっ、二人出てきた。こっちが本命と見た。
追跡すると二人はクタナツの南西、三区に到着した。上から見てるんだから警戒しても無駄だ。
さて、こんな平民街に暗殺ギルドがあるのか?
行き先は突き止めたことだし、まずは騎士団に報告しておこう。
昼間の騎士さんがまだ居たので話が早かった。その後、私は再び三区に戻り監視を開始。
とてもここが暗殺ギルドとは思えない。どうせ仲介屋とかだろう。そうなるとあの二人が帰った後、仲介役が動き出すに違いない。できればあの二人も騎士団で捕まえてくれないものか。
一方、馬車にて出かけたのはカリツォーニ本人だった。行き先は代官府、代官執務室。
大胆にも代官への面会を求めてやって来たと見える。
「レオ兄様、お久しぶりです。急にごめんなさい。」
「よく来たなカルツ。遅かったではないか。」
「レオ兄様はお代官様だからきっとお忙しいと思って……」
「ふふ、構わんさ。それで今日は慌ててどうした?」
「実は学校で友達になったカース君って子が殺し屋に襲われたらしいんだ。それで殺し屋は捕まったって聞いたけど、許せないから早く処分して欲しくて……」
「そうかそうか。お前は優しいな。任せておけ。依頼人もすぐ捕まるさ。心配しないで待っておくといい。」
「依頼人……すぐ捕まるかな……」
「ああ大丈夫だ。殺し屋なんて口が軽い奴等ばかりだからな。それにクタナツ騎士団は優秀だ。友達にも安心するよう伝えてあげるといい。」
「……そうだね。さすがレオ兄様……急に来てごめんね。今日はありがとう。」
「ああ、また来いよ。今度は夕食時にな。」
こうしてカリツォーニは自ら墓穴を掘った。
「フック。あいつの父親はヤコビ二派に与している。冬の終わりにクタナツに来たことも関係しているだろう。ただの子供に過ぎないカリツォーニに殺し屋を使わせて何をさせたいのか分からんが、この話は騎士団にもキッチリと伝えておいてくれ。」
「御意」
カースの通報を受けた騎士団は三区に向かっておりアジャーニ家の者と思しき二人を拘束していた。
アジャーニ家の名を出し散々暴れたが、確認の手間が省けたとばかりに騎士団に叩きのめされた。
カースは仲介役らしき者を空から追跡していた。この男かなり警戒心が強いらしく時々立ち止まっては後ろを確認したり、いきなり右に曲がったり引き返したり尾行泣かせだった。
しかしさすがに上空にまで警戒はしてなかったようでカースが気付かれることはなかった。
そのまま街の端まで着いたと思ったら城壁の石を取り外し始めた。クタナツの城壁の厚さはおよそ五メイル、穴を開けようにも一晩中かけても済みはしないだろう。
驚くことに石を二つ三つ外しただけで中は空洞になっている。
そいつは外した石を魔力庫に収納し空洞に入っていった。そして内側から城壁を元に戻している。長い時間をかけて穴を掘っていたのだろうか。
そして外側も同様の手法で城壁をすり抜けたのだった。上空から見られているとも知らずに。
そのまま西に進む。二十分ぐらい歩くと今度は南、田園地帯を目指しているようだ。
そして十分は歩いただろうか。ぽつんと掘建て小屋があった。農具小屋や納屋といった雰囲気だ。
中に入って五分で出てきた。
つまり打ち合わせなどをしたわけではなく、手紙か何かを置いただけ、または何か簡単なやり取りをしただけなのだろう。
そして来た道と違うルートで帰ろうとしているようだ。ここでカースは悩んだ。こいつがクタナツ城壁内に戻る頃には騎士団がこいつの家に殺到しているだろう。
それを遠目にでも見られればきっと逃げられる。ならば……
こいつは来た時と同様に城壁の石を外して中に入ろうとしている。
そしてこれまた同じ手順で城壁内に入り込んだ。そして外した石を戻そうとする前にカースの『落雷』が命中した。
かなり威力を抑えたので死ぬことはないだろう。そうして気絶した男を騎士団詰所に運ぶのだった。関所破りの現行犯として。
カースは田園の小屋について報告していない。
どうせこの男は殺し屋との関連を疑われて洗いざらい自白するのだ。小屋で何をしたかを隠せるはずもない。
いつ誰が小屋に来るかも吐かされることだろう。後は騎士団が上手くやるに違いない。
やったぜ! 揺さぶり作戦大成功。まさかここまで上手く回るとは。
せっかく殺し屋組織は頑張って証拠を消していただろうに。ふふ、可哀想にねぇ。
それもこれも金をケチって最低レベルの殺し屋で妥協したせいだろうか。それとも短絡的に殺しを選んだ愚かさ故か。
イジメと見せかけて殺しに来る思い切りの良さは評価できるのだろうか。
結局馬車は陽動だったのか?
それにしてもプロが来なくてよかったな。
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