異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

120、魔女とカース

公開日時: 2021年2月28日(日) 10:08
文字数:2,327

グリーディアント……

その一言でギルド内は騒然となる。


「組合長を呼べ!」

「代官府には連絡したのか!?」

「俺らは出撃できるぜ!」

「どこまで来てんだ!?」




「アレク、よく聞いて。今すぐ帰ってこのことをお義母さんに伝えるんだ。そして指示に従うんだ。分かったね?」


「分かったわ。カースの邪魔になんてならないんだから!」


本当によく分かってる。惚れ直しそうだ。

ゴレライアスさんはさっき出てしまったから、この場での最高位は……


「アステロイドさん! 」


「ん? どうした坊主? 早く帰れよ。」


五等星、アステロイドさんだ。


「はい! 帰ります! 帰って母上を、魔女を呼んできます! 母上の『燎原の火』なら蟻なんて丸焼きです!」


「そうか、坊主はマーティンか。よし、頼んだぜ! 聞いたかオメーら! 魔女のご加護だ!それまで守れば勝ちだ!」


一気にギルドが盛り上がる。急いで母上に伝えなければ!

あのクソ蟻が! 何で今頃!?




家まで飛んで帰った。


「母上! グリーディアントが来てるって!」


「分かったわ。行くわよ。カースも来るのね? 」


「もちろんだよ! 僕も『燎原の火』は使えるんだから!」


「マリー! あとは任せたわよ。」


「承知いたしました。ご武運を。」


母上は三分もしないうちに準備を整えた。

いつものドレスのような服の上からローブを羽織っている。かっこいい……

まさに歴戦の魔法使いだ。


母上を鉄ボードに乗せて北の城門へと飛ぶ。

こんなことなら早めに改良しておくんだった……


門番の騎士も事情は心得ているのだろう。あっさり通してくれた。

城壁の上では騎士達が何やら作業をしている。


城門から飛び立ってわずか五分、もう見えた。グリーディアントの大群だ。

くそっ! 何て数だ。数え切れない。足が震える。もしこいつらがオディ兄の腕を狙ってるんだとしたら、一匹も生かしてはおけない。


「やるわよカース!」


「押忍!」


大群の中心部に近付き詠唱を始める。

母上が北半分、私が南半分を担当する。

これだけの大群だ、生き残りの人がいるかどうかなんて気にしても意味がない。


『燎原の火』

『燎原の火』


二人同時に呪文を発動する。

私の方が威力、範囲ともに母上を上回っている。嬉しいが何か悲しい、妙な気分だ。


「やったか!?」


蟻の外骨格は頑丈だ。なまくらな剣では傷もつかない。だから魔法だ! 蒸し焼きになりやがれ!

高度を上げ様子を見る。

隠形を使ってないので上空も警戒する。


見たところ、南側の蟻は全滅のようだ。胴体は無事だが手足は燃え尽きており、ピクリとも動かない。

一方、北側で絶命したのはおよそ半分。

範囲外の蟻は生き残っているようだ。

ならば……


「母上! あの生き残りが集まるのを待ってまた燎原の火を使おう!」


「ええ、そうね。威力、範囲とも私を遥かに超えるなんて、カースは本当に偉いわ。自慢の息子よ。」


「それだけど、今回のこれ母上がやったことにしてもらえない? 母上ならこれぐらい出来て当然って評価だけど、僕がやったのが知られると面倒な気がするんだよね。」


「もちろんいいわよ。そんな風に考えることもできるなんて本当に偉いわ。よしよし。」


そう言って母上は私の頭を撫でてくれた。

なんだかメチャクチャ嬉しい。


そんなことをしている間に蟻どもは私達の近くに集まってきた。

これぐらいの数なら私一人で大丈夫だ。


「僕がやるよ。」


『燎原の火』


これで全滅するだろう。奴等の巣はどこにあるんだろうか。巣ごと焼き払ってやりたいが。


「やっぱり大物が来るかな?」


「そうね、私達二人もいるものね。来るかも知れないわ。どうしたい?」


「蟻のこともあるしこのまま待ちたい。この間のコカトリスは怖かったけど、今日は母上がいるしね。」


「そうね。いい判断だと思うわ。」


そして私達は地上に降りてしばし休憩。魔力探査は母上に任せておこう。もう日も暮れたので虫だけ警戒しておく。

それにしてもバランタウンはどうなったのだろう。


待つこと二十分と少し。南から冒険者の集団がやってきた。

あれは……


「おーいアステロイドさーん!」


やはりアステロイドさんが中心となっているようだ。


「おお坊主、無事だっ……もう全滅させたのか……とんでもないな。」


「うちの母上は凄いんですよ!」


すかさずアステロイドさんは膝をついた。


「お初にお目にかかる。五等星、アステロイド・アスタロートと申す。高名な魔女殿に拝謁できるとは恐悦至極。」


母上は黙って右手の甲をアステロイドさんに差し出した。

するとアステロイドさんはそれを手に取り口付けた。騎士とお姫様がやるアレだ。


「よく来てくれましたアステロイド。大きな魔法を連発したので大物が来るかも知れません。後は任せていいですね?」


「お任せを。此度はご助力かたじけない。」


大物は惜しいが帰るとしよう。

こうして私達は鉄ボードに乗ってクタナツへと帰ったのだった。





その場に残った冒険者の面々はざわついていた……


「何万匹いたんだよ……」

「あれから一時間も経ってないぞ?」

「魔女ってあんなに美人だったのか……」

「アステロイドの奴うまくやりやがって!」


「うるせー! 喋ってないでやるぞ! これだけの蟻だ! 魔石も素材も取り放題だ! しっかり稼げよ!」

「おう!」


結局大物は来なかったようだ。





帰り道、これでもう安心なのかな。


「さっきの母上すごかったね! カッコよかったよ!」


「うふふ、そう? 初対面は大事なのよ。ビシッと決めないとね。」


「あっ! オディ兄って今バランタウンにいるんじゃないの!? ヤバくない?」


「危険ね。カース……行くの?」


「行く、母上を下ろしてからね。」


「じゃあウリエンを連れて行きなさい。呼んで来るから城門で待ってなさい。」


なるほど。近寄る敵は兄上が斬り、遠い敵は私が魔法で倒す。素晴らしいコンビネーションだ。

オディ兄が無事だといいが……

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