グリーディアント……
その一言でギルド内は騒然となる。
「組合長を呼べ!」
「代官府には連絡したのか!?」
「俺らは出撃できるぜ!」
「どこまで来てんだ!?」
「アレク、よく聞いて。今すぐ帰ってこのことをお義母さんに伝えるんだ。そして指示に従うんだ。分かったね?」
「分かったわ。カースの邪魔になんてならないんだから!」
本当によく分かってる。惚れ直しそうだ。
ゴレライアスさんはさっき出てしまったから、この場での最高位は……
「アステロイドさん! 」
「ん? どうした坊主? 早く帰れよ。」
五等星、アステロイドさんだ。
「はい! 帰ります! 帰って母上を、魔女を呼んできます! 母上の『燎原の火』なら蟻なんて丸焼きです!」
「そうか、坊主はマーティンか。よし、頼んだぜ! 聞いたかオメーら! 魔女のご加護だ!それまで守れば勝ちだ!」
一気にギルドが盛り上がる。急いで母上に伝えなければ!
あのクソ蟻が! 何で今頃!?
家まで飛んで帰った。
「母上! グリーディアントが来てるって!」
「分かったわ。行くわよ。カースも来るのね? 」
「もちろんだよ! 僕も『燎原の火』は使えるんだから!」
「マリー! あとは任せたわよ。」
「承知いたしました。ご武運を。」
母上は三分もしないうちに準備を整えた。
いつものドレスのような服の上からローブを羽織っている。かっこいい……
まさに歴戦の魔法使いだ。
母上を鉄ボードに乗せて北の城門へと飛ぶ。
こんなことなら早めに改良しておくんだった……
門番の騎士も事情は心得ているのだろう。あっさり通してくれた。
城壁の上では騎士達が何やら作業をしている。
城門から飛び立ってわずか五分、もう見えた。グリーディアントの大群だ。
くそっ! 何て数だ。数え切れない。足が震える。もしこいつらがオディ兄の腕を狙ってるんだとしたら、一匹も生かしてはおけない。
「やるわよカース!」
「押忍!」
大群の中心部に近付き詠唱を始める。
母上が北半分、私が南半分を担当する。
これだけの大群だ、生き残りの人がいるかどうかなんて気にしても意味がない。
『燎原の火』
『燎原の火』
二人同時に呪文を発動する。
私の方が威力、範囲ともに母上を上回っている。嬉しいが何か悲しい、妙な気分だ。
「やったか!?」
蟻の外骨格は頑丈だ。なまくらな剣では傷もつかない。だから魔法だ! 蒸し焼きになりやがれ!
高度を上げ様子を見る。
隠形を使ってないので上空も警戒する。
見たところ、南側の蟻は全滅のようだ。胴体は無事だが手足は燃え尽きており、ピクリとも動かない。
一方、北側で絶命したのはおよそ半分。
範囲外の蟻は生き残っているようだ。
ならば……
「母上! あの生き残りが集まるのを待ってまた燎原の火を使おう!」
「ええ、そうね。威力、範囲とも私を遥かに超えるなんて、カースは本当に偉いわ。自慢の息子よ。」
「それだけど、今回のこれ母上がやったことにしてもらえない? 母上ならこれぐらい出来て当然って評価だけど、僕がやったのが知られると面倒な気がするんだよね。」
「もちろんいいわよ。そんな風に考えることもできるなんて本当に偉いわ。よしよし。」
そう言って母上は私の頭を撫でてくれた。
なんだかメチャクチャ嬉しい。
そんなことをしている間に蟻どもは私達の近くに集まってきた。
これぐらいの数なら私一人で大丈夫だ。
「僕がやるよ。」
『燎原の火』
これで全滅するだろう。奴等の巣はどこにあるんだろうか。巣ごと焼き払ってやりたいが。
「やっぱり大物が来るかな?」
「そうね、私達二人もいるものね。来るかも知れないわ。どうしたい?」
「蟻のこともあるしこのまま待ちたい。この間のコカトリスは怖かったけど、今日は母上がいるしね。」
「そうね。いい判断だと思うわ。」
そして私達は地上に降りてしばし休憩。魔力探査は母上に任せておこう。もう日も暮れたので虫だけ警戒しておく。
それにしてもバランタウンはどうなったのだろう。
待つこと二十分と少し。南から冒険者の集団がやってきた。
あれは……
「おーいアステロイドさーん!」
やはりアステロイドさんが中心となっているようだ。
「おお坊主、無事だっ……もう全滅させたのか……とんでもないな。」
「うちの母上は凄いんですよ!」
すかさずアステロイドさんは膝をついた。
「お初にお目にかかる。五等星、アステロイド・アスタロートと申す。高名な魔女殿に拝謁できるとは恐悦至極。」
母上は黙って右手の甲をアステロイドさんに差し出した。
するとアステロイドさんはそれを手に取り口付けた。騎士とお姫様がやるアレだ。
「よく来てくれましたアステロイド。大きな魔法を連発したので大物が来るかも知れません。後は任せていいですね?」
「お任せを。此度はご助力かたじけない。」
大物は惜しいが帰るとしよう。
こうして私達は鉄ボードに乗ってクタナツへと帰ったのだった。
その場に残った冒険者の面々はざわついていた……
「何万匹いたんだよ……」
「あれから一時間も経ってないぞ?」
「魔女ってあんなに美人だったのか……」
「アステロイドの奴うまくやりやがって!」
「うるせー! 喋ってないでやるぞ! これだけの蟻だ! 魔石も素材も取り放題だ! しっかり稼げよ!」
「おう!」
結局大物は来なかったようだ。
帰り道、これでもう安心なのかな。
「さっきの母上すごかったね! カッコよかったよ!」
「うふふ、そう? 初対面は大事なのよ。ビシッと決めないとね。」
「あっ! オディ兄って今バランタウンにいるんじゃないの!? ヤバくない?」
「危険ね。カース……行くの?」
「行く、母上を下ろしてからね。」
「じゃあウリエンを連れて行きなさい。呼んで来るから城門で待ってなさい。」
なるほど。近寄る敵は兄上が斬り、遠い敵は私が魔法で倒す。素晴らしいコンビネーションだ。
オディ兄が無事だといいが……
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