異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

206、魔境あるある

公開日時: 2021年5月24日(月) 10:14
文字数:2,346

地上に降りて実験をしてみたところ、中々の強さの『落雷』も効かないことが分かった。正しくは当たってもダメージがないのではなく、不思議な力で当たらないイメージだ。恐る恐る手に握った鉄の棒に雷を落としてみたが、棒にすら当たらなかった。

一人で入った湯船にも落ちることはなかった。最終的にアレクと二人で入浴中に落雷を使ってみたが、何かに阻まれるように雷は当たらなかった。しょぼい祝福かと思ったら意外といいのかも? 今後雷を使う魔物や人間と戦うことになったら無敵じゃないか。また何か祝福をくれるって話しだし、次はコーちゃんも連れて行ってみよう。春ぐらいかな。


「いやー有意義なひと時だったね。最高だったよ。クタナツに帰ろうか。」


「そうね。いつもありがとう。色んなことが起こりすぎて頭がおかしくなりそうだけど。」


「ふふっ、じゃあ着替えてね。」『闇雲』


二人ともすでに乾かしてあるので、後は着替えるだけだ。




ん? 遠くに馬車が三台ほど見える。こっちに来るのか?

ルート的にここを通る意味はない。私達に用でもあるのだろうか。私は湯船を収納し、鉄スノボを出しておく。着替えはとっくに終わっているし。


「怪しい馬車が来るからアレクはそのまま中で水壁でも張っておいて。」


「分かったわ。」





ややあって。

馬車の窓から声をかけてきた。ガラス窓か、上級貴族だな。


「ここで何をしておる?」


挨拶なしかよ!


「特に何も。もう帰ろうとしてるとこです。」


「ふざけるな! このような街道から外れた魔境で物見遊山でもしてたと抜かすか!」


正解だったりする。


「似たようなものです。帰るとこですからお構いなく。」


「だいたい何じゃあれは! その怪しげな雲は!」


『闇雲』を知らないわけでもあるまい。


「見ての通り闇雲の魔法ですよ。」


馬車から護衛らしき人間も降りてきた。十歳の子供相手に何事だ?


「おぬし! あれに何か良からぬ隠し事をしておるな!? 王国貴族として看過できん! 神妙にせよ!」


「そりゃ隠し事はしてますよ。私の宝物を。人目に触れさせたくないから隠してるのを暴き立ててどうするってんですか?」


「だまれだまれ! おぬしの目からはよこしまな物を感じるわ! 者共! 出てこい!」


残り全員、たぶん十二人ぐらいがぞろぞろと出てくる。貴族の護衛としてはガラが悪いな。


「おいおーい、何を隠してんだぁ〜?」

「悪いことしてんだろぉ?

「黙ってねぇで言ってみろぉ」

「いい服着やがってなぁ」

「ケッ貴族かよ! いけない遊びしてんのかぁ?」

「おらっ黙ってんじゃねえわ!」


マジでチンピラばかりかよ。騎士はいないのか?


「宝物を隠してるって言っただろ。欲しけりゃ獲ってみろ。」


この間に闇雲内に土壁を張っておこう。アレクはアレクで防御を固めてるとは思うが。


「ぶはっ! 欲しけりゃとってみろだってよ!」

「ぎゃあはあはぁ! かっこいいー」

「ぐへっへっ勇者ごっこかー?」

「宝物ってママのパンツだぜ」

「いーやねーちゃんのパンツに決まってるな」


「お前らいつまで遊んでる! さっさとやれ!」


貴族の声を聞いたチンピラどもは一斉に剣を抜こうとする。が、その前に『榴弾りゅうだん


散弾の粒が大きいバージョンだ。

アレクがいる方向以外の全方向にクレイモアのような榴弾を飛ばす。致命傷を避けた者が二人、馬車の中は多分生きてる。何人残ってるか……


だが、間髪入れずに『狙撃』

貴族以外にとどめを刺す。巻き添えで可哀想だが御者と馬が半数は死んだ。魔法を使ったせいもあるが、先日の誕生日に比べたら弱すぎて何の感慨もない。


『水壁』


馬車内の生き残りを頭だけ出して水壁に閉じ込める。

本人と家族、そして執事。合わせて四人か。

それから闇雲と土壁を解除。


「アレク、出てきて。」


「終わった?」


「こいつら知ってる? もしくは馬車の家紋から分かる?」


「ベタンクール子爵家ね。サヌミチアニ代官の関係者かもね。」


「クタナツのアジャーニ代官との関係はどう?」


「うーん。悪くはないんだけど……サヌミチアニもホユミチカもクタナツを野蛮な田舎ってバカにしてる所があるのよ。それが冬前のこんなタイミングでわざわざ来るなんてまともな用とは思えないわ。」


「なるほど。分かったよ。」


貴族以外の三人を別の水壁に閉じ込めて風壁と闇雲で覆う。目と耳を封じたわけだ。


貴族を尋問開始。

水をかけて顔を殴る。


「起きろ。」


「うぐっ、何が……」


「お前の名前は?」


「お、おぬし! 護衛達は……」


質問に答えなかったので虎徹で殴る。


「聞かれたことに答えろ。名前は?」


「ダ、ダブロット・ド・ベタンクール」


「そうか。サヌミチアニか。お前の家族はあの闇雲の中にいる。死ぬも生かすもお前次第だ。お前が俺の言うことに従うならあの三人の命は助けると約束しよう。どうだ?」


「う、うむ分かったっどょ」


「分かったな。今のは契約魔法だ。お前はもう逃げられない。全て答えてもらうぜ。」




ふー、大変だった。

その後の尋問の結果分かったことは……


・クタナツには救援を求めに来た。

・サヌミチアニがヤコビニ派に乗っ取られようとしている。

・あの程度の奴らしか雇えなかった。

・不審な魔力を感じたので進路を変更した。

・騎士長の娘だと知っていれば何もしなかった。

・何でもするから家族だけは助けてくれ。


嘘がつけない契約魔法もかけたので本当だろう。


「事情は分かった。そんな大事な時に余計なことをしてんじゃねーよ。お前達は解放してやる。護衛の死体は積んでいけ。代官には正直に言えよ。『カース・ド・マーティンに間違った嫌疑をかけた上、殺そうとしたら護衛を皆殺しにされた』ってな。分かったな? まあ証人もいるから嘘をついても無駄だが。」


「あ、ああ私が悪かった……」


「お代官様は恐ろしい方だ。くれぐれも正直でいることだ。」


面倒だが先に報告だけしておこう。

私はアレクを乗せてクタナツへと戻った。

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