おじいちゃんは孫フィーバーで酒が美味しかったらしく、かなり酔っているように見える。
「エリザベスは何か欲しいものはないのかぁ? おじいちゃんに言ってみなさぁい!」
「わぁいいの!? おじいちゃん大好き! 新しいドレスが欲しかったのぉ!」
金持ちのジジイに貢がせるホステスのようだ。アンリエットお姉さんやシャルロットお姉ちゃんまで群がっている。みんなご機嫌だからこれをウィンウィーンと言うのだろう。
「カースは欲しいものはないのかぁ? 遠慮することはないんじゃぞぉ? おじいちゃんに言ってみなさぁい!」
ちなみにギュスターヴ君はそそくさと部屋に退散したようだ。反抗期かな?
「うーん、じゃあ拘束隷属の首輪で一番強力なやつってないですか? もしくは重ねがけできる新技術とかないものですか?」
二個三個と重ねて装着できるなら簡単に解決するんだが、どうだろう?
「はっはっは、無理するでない。あんな物を付けたら何もできなくなってしまうぞ?」
「いや、もう付けてます。あんまり効かなくなってきたもので。これです。よかったら付けてみてください。」
私の首輪を外しておじいちゃんに渡す。サウザンドミヅチの革を貼り宝石で装飾してあるのでオシャレなチョーカーにしか見えないだろう?
おじいちゃんは酔った眼でシゲシゲと見つめてから装着してくれた。
「がっ! なんじゃこれは!? 拘束隷属の首輪にしては強すぎる! 何もできんではないか!」
「あ、忘れてた。それって僕が限界まで魔力を込めて作ったやつなんです。だから少しキツいのかも。」
「ピュイッ」
「お前というやつは……酔いが醒めてしまったぞ……しかし、任せておけ! 用意してやるからな!」
「わーい! おじいちゃんありがとう!」
「ピューイ」
抱きついておいた。ついでに首輪を回収だ。
「ねえシャルロット。カースってこんな奴なの。張り合わない方がいいわよ。」
「エリ姉……そうね。私は私でコツコツ頑張るわ。やっぱり循環阻害の首輪からかしら。」
「ピュイッ」
「ところで姉上、これ母上からの手紙。それからこれは僕からのお土産。兄上の分もね。」
「あら、ありがとう。アンタにしては気が回るじゃない。何これ? 出来損ないの靴下?」
それは面白い発想だ。
「これは衝撃吸収サポーターって言ってね、こんなふうに手足に装着するんだよ。ハンマーで殴られても骨が折れない優れものだよ。」
「それはいいわね。兄上には特に役に立ちそうだわ。ありがたく貰っておくわね。あぁアンタに貰ったエビルパイソンロードも兄上とお揃いのコートを仕立てたわ。」
そう言って魔力庫から取り出して見せてくる。膝下まである白いロングコートだ。飾り気がなくシンプルに仕上がっている。
「かっこよくできてるね! 二人ともお似合いだよ! だから新しい魔法教えてね!」
「分かってるわよ。教えるに決まってるでしょ。オディロンよりバカなアンタだってかわいい弟なんだから。」
うおお姉上ー! 高慢で傲慢だから友達もいない容易く人を殺すイカれたクソ女とか思っててごめんよー! 本当は違うんだね! 家族愛に溢れてるんだよね!
それから買い物の話で盛り上がってるおじいちゃん達を尻目に姉上と庭に出て、新しい魔法を教えてもらった。
名前は『衝撃貫通』
氷壁、鉄壁、石壁など硬いもので攻撃を防がれた際に衝撃だけが貫通してダメージを与える魔法だ。
やはりこの姉は……殺すことしか考えてないのか……復讐とか大丈夫なのか? めちゃくちゃ恨みを買ってそうだぞ?
魔法の威力を上げれば素の威力で貫通するだろうが、この魔法は少ししか魔力を消費しないためかなり効率がいいようだ。
また硬いものに反応するため水壁、土壁などは貫通できないが、騎士団の鎧にはバッチリ効果があったらしい。ならば私の装備には?
試しに撃ってもらったら、効いてしまった。
服にダメージは全くないのに、腹を殴られたような痛みだった。これって威力を上げていけば内臓にも直接ダメージを与えられるやつだ。何てものを開発するんだこの姉は!
自動防御だと貫通した衝撃ごと防御してしまうから無傷なのか。その分余計に魔力を消費したってことだな。
ともあれこれで私の魔法にはホーミングとトランプル属性が付いた。これはエゲツない。実質防御も回避も不可能みたいなものだからな。
ありがとう姉上!
屋敷内に戻ってみても相変わらずおじいちゃんはご機嫌だった。おじいちゃんと一緒に酒を飲んでいるコーちゃんもご機嫌だ。だから私もご機嫌だ。
「ちょっとカース、どこ行ってたのよ!」
「姉上と散歩かな。姉上はこのまま帰るからみんなによろしくって。それよりお風呂に入りたいんだけどいいかな?」
「エリ姉帰ったんだ。お風呂ね、いいわよ! 私が案内してあげる!」
メイドさんの仕事を奪うのは感心しないな。
案内された風呂は少し高級な温泉宿のようだった。石造りで十人ぐらいなら同時に入れそうだ。少しいい香りがするな、柑橘系か。
「いい香りがするでしょ。うちではたまにこうやって果物を入れるのよ。」
「これはいいね! お姉ちゃんありがと。じゃあ入るとするよ。」
「ピュイピュイ」
コーちゃんはシレッとこっちに来たが、まさかおじいちゃんが乱入してくることもあるまい。のんびり浸かろう。ちなみに魔力はまだ空っぽだ。わずかに回復した分を先ほど姉上と使ってしまったからな。ちょっと気分がよくない。
ここの風呂は普段私が魔力庫に入れっぱなしにしてあるマギトレントの湯船より小さい。しかしそれはそれで風情があっていいってもんだ。アレクも今頃お風呂かな? 明日が楽しみだ。
その頃、ゼマティス家の他の面々は各々自由に過ごしていた。
祖父アントニウスは書斎にて調べ物。カースのせいで余計な仕事が発生してしまったのだが楽しそうだ。
祖母アンヌロール、イザベルの兄嫁マルグリット、そしてその長女アンリエットはティータイム。やはり話題はカースとエリザベスのようだ。二女シャルロットも同席しているが、内心ではどうやって風呂に突撃しようかとソワソワしていた。
二男ギュスターヴは自室から出ていない。そのまま寝るのだろうか。
「ねぇ姉上……カースの落雷、覚えてるわよね……どう思った?」
「そうね、すごい威力だと思うわ。ホリゴルが避雷を使ってるのを分かった上で段々威力を上げていってたし。実験でもしてたのかしら?」
「避雷は避雷なんだから何度撃っても効かないのにね。バカなヤツよね。」
「そうかしら? 愚直な男って素敵じゃない。ねえ母上?」
「どうかしらね。結局カース君は勝ったのよね? ならそれが全てじゃないかしら? 優雅な敗者と愚直な勝者。どちらが優れてるのかしらね?」
「で、でもでもあいつ小さいしあざといし……」
「シャルロット、心配しなくても取ったりしないわよ? 今私が欲しいのはウリエンさんだけ。カース君が欲しいなら頑張ってみれば? まさに今なんかチャンスじゃないの?」
「姉上っ! 私は、そんな……」
「はいはい、そこまでよ。あなた達はゼマティス家の女なんですから。欲しい男がいるのなら勝ち取りなさい。本当は孫同士で戦って欲しくなんかないんですけどねぇ。全くこの子達は……」
「でもおばあちゃん、私だってイザベル叔母様みたいに名をあげたいもの。だったらエリザベスぐらい勝てなきゃね。」
「エリちゃんは強いわよ? 約束の日まで半年と少し。勝ち目は見えたの?」
「母上……それがあんまり……でも諦めないわ。あんなイカれた女にウリエンさんは渡さないんだから。」
「アンリエット。甘えたこと言ってるんじゃないわよ? 勝ち目がないなら作りなさい。罠に人質、それから毒……は効かないわね。どんな手でも使いなさい。貴族とは勝者のことを言うのよ。敗者、それはもう貴族ではないわ。ですわよね、お義母様?」
「その通りよ。ゼマティス家の名で勝負する以上、負けは許されないの。勝ち目がなければ逃げなさい。」
シャルロットはなぜこんな話になったのかと思案しながら青い顔で聞いていた。ヘビーなガールズトークである。
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