楽園ではコーちゃんとカムイが出迎えてくれた。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
すっかり仲良くなったようだな。今回も侵入者なしか。小山と堀が効いたのかな?
さて、今日からは基礎を高く積み上げる作業だ。豪邸が乗るわけだから私の自家製コンクリートのみで嵩上げするわけにもいかない。なるべく岩を積んで丈夫に仕上げないとな。すでに作った分は仕方ない。
そのためには岩を切ろう。なるべく直方体になるよう切断して隙間なく組み上げていくべきだ。いつも通り岩石砂漠から巨岩ばかりを収集する。これを加工すれば丈夫な基礎ができそうだ。
三日後、切断しつつ岩を組み上げている。そこで分かったことだが、大きい岩を中心に組んでしまうと端の方でバラつきが出るなどして安定性に欠けるようだ。
非常に面倒だが岩の大きさをなるべく揃えて、外側、それも角の部分を大きい岩にした方が上手くいくようだ。中心は小さい岩でも問題はなさそうだ。
さらに三日後、元々地面より二メイル低かった基礎は今では地上一メイルほどの高さになっている。どこまで高くするか悩みどころだが、高過ぎて困ることは多分ない。基礎の広さは百メイル四方、それに乗る建物は二十五メイル四方なので不安定になることもあるまい。水平出しにはかなり気を使う必要はあるだろうが。現時点ではあちらこちらではみ出した岩が多く、全く水平ではない。
さらに三日後、地表からの高さは四メイル。ここで止めておくか、それともまだ上げるか。実は悩んでいる。高さも気になるが、重量も気になるのだ。かなりの重さが地盤にかかってるよな? 問題ないのか?
後回しにしよう。その間に隙間に自家製コンクリートを流し込もう。隙間なくびっちり詰めたつもりだが、全くないわけではない。隙間を埋めてしっかり固めておかねば。
悩んだ時は遊ぶに限る。フリスビーの数を増やしてコーちゃんとカムイ、みんなで遊ぼう。カムイはなんと、咥えたフリスビーを首の回転で投げ返すこともできた! それを見たコーちゃんが真似をしようとするも、中々難しいようで苦戦していた。
あ、排水も考えないといけない……
どうしよう……
ならば東西南北にメインストリートを通して、その両脇に排水溝を作るか。その排水溝の行き先は堀、堀に排水できるよう工夫してみよう。
クタナツからバランタウンまでの石畳を参考に、広めの道を作ってみよう。城門などの入口すらないってのに。
道幅はバラついても構わない。岩は大量にあるから厚みぐらいは均一にして大量に用意できる。それらを適当に敷き詰めれば石畳の道となるだろう。道の端がカッコ悪いかな……まあいいか。
三日がかりで基礎を中心として南北に道ができた。いつもながらあっという間の二週間だよな。アレクと過ごしている時より時間の流れが早いとさえ思えてしまう。
では領都に向かおう。基礎と排水溝はまた来週ってことで。
今回はコーちゃんも来てくれるそうだ! 少し嬉しい。カムイはいつも警備ありがとな。またお土産持って帰るからな。
週末〜 そうだまた
アレクに会えるからぁ
僕は幸せぇ〜
「ピュピュイピュイ」
昼過ぎに領都に到着した。門番さんに聞いてみると今日は六月三十日、ケルニャの日だった。よかった、計算通り! 日時が分かる魔道具を楽園に設置するべきだな……
放課後にはまだまだ時間があるし、ダミアンのトコにでも行ってみよう。
辺境伯邸では、さすがに私も門番さんに顔を覚えてもらったようですんなり通してもらった。当然のようにメイドさんが出迎えてくれる。セバスティアーノさんは不在かな?
「こんにちは。ダミアンはいますか?」
「申し訳ありません。ここ二、三日帰っておられないようです」
「ではあいつが帰って来たらカースが来たとだけお伝えください。」
無駄足だったか。どこかで昼飯でも食べようかな。
すると……
「ま、待て……」
「ん? おー、お前か。えーっと、ドニデニスだったっけ?」
「お、お前は、あの時のガキだな……」
よく分かったな。目隠ししてたのに。
「おう。久しぶりだな。もう悪さはしてないだろうな?」
「あ、ああ。父上の業務を手伝っている……」
「ほほう。頑張ってるじゃないか。もう例の契約魔法は解除したからよ、安心しな。ダミアンに感謝しろよ?」
「それはどうでもいい……俺の元配下の子弟がお前を狙っているらしい……」
「へぇ、名前は?」
「知らん……が、確かそのうちの一人はクライドとか呼ばれていた気がする」
あー、いつかのパーティーでドニデニスに言っとけって言ったもんな。あいつらかな? 律儀に伝えたんだ。まあ放置だな。
「分かった。知らせてくれてありがとよ。ダミアンが面白ぇーイベントを開催するからよ、そいつらにも教えてやんな。」
意外だ。こいつ改心しやがったのか。こんなことってあるもんだな。びっくり。
さて、今度こそ昼飯だな。たまには新しい店を開拓したいとこだが。
「おーいドニデニス。どこかおススメの店はないか? 昼飯に行くんだが。」
「……この近くなら……貴族街の端にある『ノーブルーパス』だろう。看板もなくて分かりにくいが、ダミアン兄貴の名前を出したら入れてくれるはずだ……」
ドニデニスは地図を持たせてくれた。またまた意外に綺麗な字を書きやがる。むしろ私よりかなり丁寧な字だ。くそぅ。
辺境伯邸から十分と少し歩いただろうか。看板もない、表札もないこじんまりとした建物を発見した。表札がないのはどの建物も同じだが。
当然呼び鈴もないし、門番もいないのでいきなり入ってみる。門に閂はかかってないようだ。
「いらっしゃいませ。どなたのご紹介でしょうか」
「こんにちは。紹介はドニデニスですが、私はダミアンの友人、カース・ド・マーティンと申します。」
「どうぞこちらへ」
これがノーブルーパス、所謂隠れ家的な名店か。ドキドキするな。いくらするんだろう? ドニデニスのツケでいいか。
「失礼ですが本日のご予算はいかほどにいたしましょう?」
「いかほど? あぁ、予算次第で料理が変わるんですね? ドニデニスにツケておいていただけますか?」
「その通りです。しかし申し訳ありません。当店は現金一括となっております。辺境伯家といえどツケは承っておりません」
「分かりました。では金貨十枚で二人前お願いします。」
「ピュイピュイ」
ツケで贅沢してやろうと思ったのに。
案内されたのは狭い部屋、しかし一方が大きく開いており風雅な庭が見えるようになっている。
そして、五分も待たないうちに料理が運ばれてきた。
コース料理ではない、定食タイプか?
「トビクラーのステーキ、オランデーズソースです」
ほほう、トビクラーは久しぶりだ。美味しそうだな。
「ごゆっくりどうぞ」
トビクラー二人前で金貨十枚は安いかも知れない。サラダに白パン、スープも付いてる。旨い!「ピュピュイ!」
しかしベイルリパースとの違いが分からない。どちらもかなり旨いことに間違いないが。予算をケチったのがよくなかったのか? アレクと来る時には奮発しよう。
「ご馳走様でした。おいしかったです。ところでペイチの実やクイーンオークを食べるにはおいくらぐらい用意したらいいですか?」
「ありがとうございます。ペイチの実はだいたい金貨五枚、クイーンオークは時価ですから何とも申せません。またのお越しをお待ちしております」
あー美味しかった。コカトリスの軟骨も食べたいな。
さて、放課後まではまだ時間がある。ギルドでも行ってみよう。ダミアンがどこまで宣伝しているのか確かめてみないとな。
ギルドに入ってみると……
おっ! 張り紙がしてある! 何々……
『ダミアン杯 領都一子供武闘会 開催!
七月二日 パイロの日 午前九時 コロシアムに集まれ!
優勝者にはアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルとの一日デート。どこまで行けるかは戦いぶりと口説きのテクニック次第! 副賞は大金貨一枚! 金と女を手に入れろ!
参加費、金貨一枚
入場料、銀貨一枚
ルール
一対一のワンデイトーナメント戦。魔法学校で採用されている魔法対戦。それぞれ二十メイル離れた円に立ち、円の外に接地した方が負け。
禁止事項(発覚次第失格、大金貨二枚の罰金)
各種ポーションの使用(当日中)
替え玉、代理行為
競技時間外の妨害、交渉等
競技中の横槍等
当日治癒魔法使いは常駐しておりますが、支払いは各自の負担となります。怪我をする前に降参するのも実力の内です。
参加者には当日契約魔法を受けていただきます。実力で勝負してください。
大会委員長 ダミアン・ド・フランティア』
予想以上にまともだ……
ダミアンのくせにやるな……
年齢制限が書いてないがいいのか?
「お前どうする?」
「出るに決まってんだろ」
「どっち目当てで?」
「両方に決まってんだろ」
「あの女の子知ってるか? クタナツのアレクサンドル家の娘で相当美人だぜ?」
「たまに見るよな。ありゃ上玉だよな。あの女を手に入れりゃあ貴族になるのも夢じゃねえよな」
「それに大金貨一枚だぜ? しばらく遊んで暮らせらぁな」
「口説きのテクニック次第ってお前自信あんのか?」
「バーカ、女なんてヤッちまえばこっちのもんだろ? 薬でも何でも使ってよ?」
「ギャハハ! もう優勝したつもりかよ!」
「うるせーな! どうせ参加すんのは魔法学校のヒョロヒョロどもか貴族学校のウスノロどもだろ? 楽勝じゃねーか!」
ほほう、あの学校の世間の評判はそうなのか。この分だと学校の方でも話題になってそうだ。それにしても明後日か。思ったより早いな。ダミアンの仕事が早いってことか。
さて、アレクのお迎えに行こうかな。明後日かー、ドキドキしてきた。自分が言い出したことなのに、話が大きくなってきたよなー。
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