執事の目つきは盗人を見るそれだった。
「ああ? 言いがかりはよせよ! こっちの目録にぁそんなもん書いてねぇぞ! そして今確認した通りきっちりあるじゃねぇか!」
リーダーの言う通りだ。私は収納した物をそのまま出したのだから。
「見せてください。」
執事は自分の手元の目録とリーダーの目録を照らし合わせている。
「なるほど。目録通りですね。あなた方の瑕疵でないことは分かりました。しかし現実に一樽足りないのは明白。この分では今後の輸送を別の商会に依頼することになりそうですね。」
「お、おい! そりゃあねえだろ! そ、そうだ! これだ! この書状を渡すよう言われてたんだ!」
リーダーが執事に何やら手紙を渡しているが……
「なるほど……盗人はそちらの子供でしたか。身分を盾にあの上物を脅し取ったと。」
「はぁ? 俺が盗人だと!?」
せっかく敬語キャラで礼儀正しく応対してたのに。何だそれ?
「この書状には船を救ってくれたお礼に所望されたので差し出したとあります。海賊に奪われるのもコソ泥に盗まれるのも、品物が届かないことに変わりはありません。大人しく返却するなら今回ばかりは許してあげましょう。」
さすがにこの対応はあんまりだな。いくら私がお人好しでもキレるぞ?
『燎原の火』
「なっ、何を!?」
半径二十メイル、空き地を囲うように炎の壁で覆う。森が焼けようが知ったことか!
「現実が見えてないようだから教えてやる。俺は積荷が全て奪われた後でゆっくり海賊から取り返してもよかった。それなら全て俺の物になるからな。もちろん法的にも。だが、うちのフォーチュンスネイクがそれでは船員が可哀想だからと助けを求めたんだ。」
「ピュイピュイ」
「そして海賊を撃退したのが、このフェンリル狼だ。」
「ガウガウ」
「その対価としてたった一樽の酒を求めたのがこのフォーチュンスネイクだ。そんな俺達を盗人呼ばわりするのか?」
「なっ、なんですか……そのような蛇が酒を欲しがるなんて……」
「話を逸らすな。俺達を盗人呼ばわりするのかと聞いている。あぁ、その書状に俺のことは書いてないのか? これでも魔王って呼ばれてちっとは有名なんだけどな。」
「た、確かに書いてありましたけど……しかし、魔王だなんてふざけた名前など、聞いたこともありません!」
それはそれで悲しいな。もしかして……
「アンタは普段街に行かないのか? ずっと男爵の世話をしてんのか?」
「当たり前です! 私は男爵様がここに領地を賜った時からお仕えしているのですから!」
でもどうせ放蕩三男や剣鬼の名は知ってるんだろ?
「これ以上アンタと話しても無駄なようだ。さっさと帰って男爵に事実を伝えて判断してもらえ。ちなみに、俺の魔力はこんなもんじゃない。その気になればムリーマ山脈を丸ごと焼き尽くすことだってできるからな。」
これは半分本当。全魔力を費やせば出来そうな気がする。
「あ……ぐ……」
「おっと、悪い悪い。火を消さないとな。」
『水操』
先ほどの魔法から延焼した箇所をきっちりと消しておく。山火事は怖いからな。
「ほれ、行っていいぞ。男爵によろしくな。」
「あ……は……い……」
さてと。こいつはどのぐらいの時間で戻ってくるのやら。その間、私達は酒盛りの続きだな。
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