そして翌日、ケルニャの日。今日の放課後はアレクに会える。待望の冬休みが始まるのだ。もう王都に用はない、かと思ったのだが……
サンドラちゃんやソルダーヌちゃん、それからウリエン兄上やエリザベス姉上に会ってないな。でもサンドラちゃんもソルダーヌちゃんも今日は平日だから今頃は授業中だろうな。兄上だって仕事中だろうし。とりあえず兄上宅に行ってみるか。あれだけたくさん奥さんがいるんだから誰かいるだろう。
ゼマティス家でのやや遅い朝食を終えて伯母さんに挨拶をする。
「伯母様、今回もお世話になりました。伯父様やガスパール兄さんにもよろしくお伝えください。」
「待ってるから、またいつでも来てちょうだいね。本当に。」
「たぶん春ごろ来ると思います。どうかそれまでお元気で。」
「ええ。楽しみに待ってるわ。それからこれ、お義母様への手紙。もし会ったら渡してくれるかしら?」
「お任せください。おじいちゃん達がフランティア、領都に来る日が楽しみです。」
春か……旅に出る前に身分証なんかを受け取りに来ないといけないもんな。
実際に使うかどうかはともかく、東の国や南の大陸ではかなり有効って話だし。
「そしてこっちはイザベルさんへ。頼むわね。」
何気に伯母さんと母上って仲が良さそうなんだよな。気が合うんだろうか。
「ええ。では、また来ます。」
ゼマティス家を出た私が向かうのは兄上の家だ。特にお土産も何もないけど顔だけ出しておくのは悪くないだろう。私の甥っ子や姪っ子が何人か生まれてそうな気がするし。
到着。呼び鈴の魔道具を押す。これって便利だよなぁ。
お局風のメイドさんが出てきた。適当に挨拶をし中へと案内される。奥様はいらっしゃいます、とは言われたが、どの奥様なのだろうか……
見覚えのある部屋に通された。確かこの部屋は……
「カース。よく来た。コーネリアスも。久しぶりだが元気そう。」
王太子の元二女ティタニアーナだったか。そして見て分かる体型の変化……
「ティタ姉上もお元気そうで何よりです。ついにお子様の誕生ですか。」
「ピュイピュイ」
「出産までもう二ヶ月といったところ。ウリエンの子はこれで二人目。一人目はオウタニッサが女の子を生んだ。」
おお、アジャー二家のオウタニッサ。マルセルの姉だったな。
「それはおめでとうございます。今日はオウタニッサさんやその子はこちらには?」
「出かけている。オウタニッサの姉の嫁ぎ先、ダイナスト・アッカーマンの道場へと。あそこにも歳の近い子供がいるから。」
「ああ、オウタニッサさんのお姉さん、クラリッサさんでしたっけ。男の子はコタール君ですよね。みんな元気で何よりですね。」
アッカーマン先生は死んでしまったが、次の世代はどんどん生まれている。私もいつかアレクとの間に子供を授かることになるのだろうか……楽しみなような怖いような。
「その通り。カースはよく知っている。ただそのせいでエリザベスが最近荒れている。」
「え? 姉上がですか? どうしたことで?」
「エリザベスは第一夫人。ウリエンの夜の割り当てを全て管理する権限がある。つまり自分の分を多くするのも他の妻の分を少なくするのもエリザベス次第。それなのにエリザベスは未だに妊娠していない。しかも最近アンリエットの妊娠も確認できた。」
なんと……割り当てとか、最近やたら耳にするようになったが……面倒くさ!
やはりハーレムなんか作るもんじゃないな。兄上は兄上で本当は心の奥底に秘めた好きな人がいるような口ぶりだったが。実際はどう思ってることか……父上ならハーレム大歓迎ってとこかな?
それより、姉上が荒れてるのか……ならば近寄るべきではないな。どうせもうすぐ領都に帰るんだし。
「カース! アンタいつ来たの!」
そう思っていたら姉上が乱入してきた。なぜ私がいることが分かったんだ?
「やあ姉上。元気そうだね。王都には一昨日来たよ。今から帰るから挨拶しておこうと思ってさ。」
「おととい!? 嘘言ってんじゃないわよ! ディオン侯爵家の件! バレバレよ!」
えーい、済んだことを蒸し返すんじゃない!
「さあ? 文句は母上に言ってよ。フランツウッド王子もキアラにマジみたいだし、姉上もキアラを守ってやってよね。」
魔力的にはキアラの方が強そうだが、この姉上はエゲツない手ならいくらでも使いそうだからな。応援を頼まない手はない。
「そう、母上の指示なのね……それにそんな状況なら……キアラにも気をつけておくわ。」
よし。いくらド腐れ虐殺クソエリザベスなんて呼ばれてても妹はかわいいよな。もうすぐ私は旅に出ることだし、王都でのことは姉上に丸投げだ。やはり魔法学院より旅だよな。
「じゃあ僕は帰るね。兄上によろしく!」
「待ちなさい! せっかく来たんだし、アンタの知る限りの情報を話していきなさい!」
「知る限りって言われても困るよ。何か知りたいことでもあるの?」
例えばベレンガリアさんのことなんか興味ないだろうし。
「父上と母上よ! 平民になったのは聞いてるけど、どうなのよ! 元気なんでしょうね!?」
「元気だよ。父上はちょっと怪我をしたりもしたけど、母上がバッチリ治したからね。問題ないよ。」
「ちょっと! 怪我ってどういうことよ! 詳しく話しなさいよ!」
ついでだからダミアン達が死にかけたことも含めて話しておこう。
「なるほどね。父上が無事で何よりだわ。それはそうと母上に手紙を書くからちょっと待ってなさい!」
そう言って姉上はドタバタとティタニアーナの部屋から出て行った。
「エリザベスが楽しそう。やはりカースはいい弟。」
「いえ、大したことでは。あんな至らない姉が第一夫人ではご心配でしょうが、よろしく盛り立ててやってください。」
それからティタニアーナと世間話をしていたら姉上が帰ってきた。
「これよ! 頼んだわよ! アンタ絶対中を見るんじゃないわよ!」
「見ないって。」
人の手紙なんか興味ないっての。むしろ見るなと言われた方が見たくなるだろうに。
「じゃあカース。また来るといい。ウリエンにはよろしく言っておく。」
「アンタも魔法学院に行けばいいのよ! 体には気をつけるのよ!」
「じゃあまた。たぶん春ごろに来ると思うから。」
「ピュイピュイ」
春か……
旅立ちの時……それとも魔法学院か……
やっぱ旅だろうな……
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