抱き合ったままどのぐらいの時間が経ったのだろうか。このお湯は冷めないし、なぜか湯当たりをすることもない。いつまでも入っていたくなる。ガンガン魔力は減っているが多少は回復もしている。大きく作ったことで回復効果も大きくなったのだろう。
「そろそろ戻ろうか。最後に高度を上げてみるよ。どこまで遠くが見えるんだろうね。」
「東の国とか西のサヌミチアニとか見えるかしら。」
北のノルド海と東のオースター海は見えている。
「やっぱり世界は丸いんだね。」
「そうなのね……考えたこともなかったわ。東の国や南の大陸があるなら……その先もあるはずなのよね。一体どうなってるのかしら。」
「北の山岳地帯のさらに北も気になるよね。アレクが魔法学校を卒業したら長い旅に出てみようか。南の大陸や東の国、全部行ってみよう。それまでにもっと魔力を増やしてどこまでも行けるようになっておくから。」
「最高だわ。 私、本当にどこまでも付いて行くわ。頑張るから。魔法学校で誰にも負けないから!」
まるで卒業まで会わないかのように言ってしまった。そんなことは全然ないのに。でも思い付きにしてはいいアイデアだ。きっと楽しい旅になるだろう。絶対行こう。
「そろそろ降りようかな。あんまり高度を上げると苦しくなるからね。」
「うん。最高だったわ。いつもありがとう。」
『何用だ……』
今回も幻聴か? 早く降りよう。
「カース、今のって?」
「もしかしてアレクも聞こえたの?」
え!? 幻聴じゃない!?
『何用だと聞いている……』
聞こえる……マジか。何の魔力も感じないのに?
姿も見えないし魔力も感じない。こうなったら……
「こんにちは。僕はカース、この子はアレクサンドリーネと言います。」
普通に挨拶をしてみる。攻撃するのはまずいと見た。
『人間がどうやってここまで来た……』
「浮身という魔法で浮いて来ました。」
『何が目的だ……』
「最愛の女性と共に風呂と景色を楽しむことです。」
『これより上空は危険だ……』
「はい。存じております。そろそろ降りようとしていたところです。お邪魔しました。」
『其方からは精霊の匂いがする……』
「はい、精霊の友達がいます。蛇みたいな子です。」
『我は天空の精霊ゆえ……大地の精霊とは関わりがない……』
「はあ、そうですか。」
コーちゃんは大地の精霊なのか?
そして見えないこいつは天空の精霊? もうわけ分からん。会話ができるのはすごいな。
『其方の魔力は濃厚で美味……大地の精霊が寄り付くのも当然だ……』
「あぁ、どうも。」
コーちゃんもおいしいって言ってくれるもんな。やはり魔力には味があるのか。
『其方の魔力を我にくれ……代わりに祝福を与えよう……』
「量によりますよ。全部吸われたら落ちて死んでしまうので。そして祝福って何ですか?」
『半分でよい……祝福は好きに選ぶがよい……天空に関することをの……』
広過ぎて分からん。天空に関する祝福って宇宙風呂とか?
「最大魔力が減らないんならいいですよ。宇宙空間に出られる祝福とかどうですか?」
『それは減らぬ……其方の言う宇宙とは天空ではない……違う祝福を言え……』
こんな時は欲をかくとロクなことがないはずだ。ショボいぐらいがいいと思う。
「雷に打たれないとかどうですか?」
『いいだろう……では魔力をいただくぞ……』
残り六割から半分吸われたので残り三割。帰るには問題ない。
『これで其方は雷に打たれることはなくなった……魔力が上がったらまた来るがいい……』
「どーも。いい祝福を思い付いたらまた来ます。じゃあまた。」
降りよう。あー怖かった。何だよ精霊って!
見えないのに声だけって怖すぎだろ! やたら重苦しい声だし。侵入者には死あるのみ……とか言われなくてよかった。
「カ、カース……さっきの夢、じゃないわよね……?」
「二人で聞いたから夢じゃないよね。それにしてもコーちゃんの同類にしては違いすぎるよね。」
「天空の精霊って言ってたから、空と大気の神オーテノス様の眷属かも知れないわ。そんな精霊から祝福を貰うなんてやっぱりカースは凄いわ!」
そういやこの世界は神様がいるんだよな。実際に声も聞こえるし、祝福を貰った者もいる。ならばその眷属から祝福を貰うのはそこまで不思議なことではないのかも知れない。
雷に打たれない祝福がどの程度のものか降りたら実験だな。
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