異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

221、騎士長セロニアス・ド・ブランシャール

公開日時: 2022年1月31日(月) 15:11
文字数:2,628

パイロの日。せっかくの休みだろうにおじいちゃんには申し訳ないな。私を連れて王城に向かっている。アレクとコーちゃん、そしてカムイも一緒だ。おじいちゃん曰く、力を見せておくのも悪くないそうだ。


そして城門を通り抜け、前回とは違う方面に向かっている。ここはどこだろう?


「さあ着いたぞ。こっちじゃ。」


おじいちゃんに連れられて向かっているのは騎士団の詰所っぽい、いや大きさからして本部かな?


すれ違う騎士達が次々と横に避けて敬礼をする。さすがおじいちゃん。私はどうしようもないので、平静を装って後ろを歩くのみだ。


やがて奥まった部屋に到着した。いかにも高そうな扉だ。ツカツカと入るおじいちゃん。


「孫を連れて来たぞ。」


「お前はいつも急だな。まあ座れ。」


「うちの自慢の孫達じゃ。」


「カース・ド・マーティンです。」

「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルでございます。騎士長ブランシャール卿のご高名はかねがね伺っております。」


ぬおっ、騎士長だって? さすがアレク。よく知ってるな。


「ようこそ。私もクタナツとは縁が深い。セロニアス・ド・ブランシャールだ。アントン、アントニウスとは昔から切磋琢磨し合う仲でな。」


「さて、セリーよ。陛下とのお約束通りカースは出頭した。この場合の罪状はどう聞いておる?」


「金貨百枚でいいそうだ。ただし後日王宮に出向いてもらう必要がある。」


「分かりました。お支払いいたします。」


「待て待てカースや。先日の偽勇者の賞金がある。あれで払っておくわい。」


「ありがとうございますおじいちゃん!」


それからは雑談タイムだった。魔蠍どころか闇ギルド、暗殺ギルドなど、スラムが丸ごと弾圧の対象となっており、かなりの人数が奴隷落ちとなり鉱山に送られたらしい。本当に全滅したのか? そして毒の出所はついに分からなかったとか。あの時姉上を刺した残りの二人については、フェルナンド先生も探してくれたのだが、見つからなかったらしいし。どうせ死んでるんだろ。先生にもお礼を言いに行かないとな。恥ずかしながら私は姉上から聞くまでは全然気付かなかった。自動防御の感覚からすると私には一人ずつ刺しに来たんだろうな。


闇ギルドと言えばラグナ。そしてもう一人のあいつも生きてたんだな。ゼマティス家で真面目に働いているらしい。昨日もいたはずなのに溶け込みすぎてるのか、さっぱり分からなかった。帰ったら話してみよう。楽園行きが無期延期になってしまったからな。


何にしても大した罪にならなくてよかった。金貨百枚って普通なら奴隷落ちよりキツい罪だけどさ。ムカついて大暴れしようにも、あっさり鎮圧されてしまうだけだもんな。大人しく生きていこう。国王に貰った各種許可証が取り出せないのはまずいかな。不敬罪とか言われたらどうしよう? 


それに魔力のことをおじいちゃんにも伝えておかないとな。また気が重くなってきた。まあバレてるかも知れないけど。


「ところでカース君はもうクタナツへ帰ってしまうのか? 休みを王都で過ごしたりはしないか?」


「急いで帰ることはないですね。こちらのアレクサンドリーネの冬休みに合わせるつもりです。」


「私は領都の魔法学校に通っておりますので、もう一週間ぐらい滞在できるかと思います。」


「どうしたセリーよ。カースに何かあるのか?」


「王国騎士団に欲しいのだ。あの魔法なしの部、決勝戦。その歳でよくあそこまで……あの子、スティードは近衛に行ってしまうだろう。ウリエンも近衛にとられた……君が欲しい!」


じじいに君が欲しいって言われるのはキツいな。


「はっはっは。無茶を言うな。カースは王妃殿下直々のお誘いすら断ったのじゃぞ。旅に出るからとな。」


そうだった。旅にも出られなくなってしまった……参ったな。将来設計もズタズタだな……まあいいや。


「そうなんです。旅に出るかは分からなくなりましたが、クタナツで暮らすつもりなものですから。」


「そうか……私の叔父はクタナツの前騎士長だったのだが、いい所のようだ。羨ましいな……」


前騎士長!? アレクパパの前任か。

そしてまた雑談が盛り上がってしまった。

話はカムイやコーちゃんのことにまで及び、出頭しに来たはずなのに楽しいひと時を過ごしてしまった。




ブランシャール騎士長との面会を終えてゼマティス家へ帰る私達。


「おじいちゃん、王宮へはいつ行くんですか?」


「ふむ、まあお召しがあるだろう。それまでうちでゆるりとしておればよい。どうじゃ? どこかで遊んで帰らぬか?」


「おお! それはいいですね! アレクはどこか希望はある?」


「じゃ、じゃあ賭場なんてどうですか?」


「ふふふ、ばかもの。かわいいお前達を昼から賭場などに行かせられぬわい。まあ闇ギルドが全滅したから健全な王立賭博場ならあるんじゃがの。」


まさかアレクの口から賭場なんて出るとは……

私もたまには手本引きをやりたいな。


「おじいちゃん、その王立賭博場って手本引きはできますか?」


「お、おお、それはできるようじゃが……」


「じゃあ連れてってください。」




楽しかった。もうすぐ夕方か。

私は金貨二枚ぐらい負けた。

アレクは金貨十六枚勝った。

おじいちゃんは……


「なんじゃあの博打は! イカサマじゃイカサマ! 何で四回も連続で四なんじゃ!」


その四回連続の四、胴の人はアレクの読みを外そうとした結果なんだよな……

アレクは当ててたけど。もちろん私は外した。


「しかも! その後はきっちり均等にバラしてきおる! ワシを舐めくさりおって!」


それでもアレクは半分は当てたんだよな。すごかったなぁ。やっぱり手本引きは面白い。アレクに乗っかってれば私も勝てたんだろうけど、それはさすがに面白味に欠けるってものだ。

結局おじいちゃんは金貨五十枚近く負けていた。意外な弱点があるものだ。ムキになって一回に金貨五枚とか賭けるから……

その分食事は美味しいものが用意してあった。王立なのにやり口が闇ギルドと同じってどうなんだ?




『ぼくは、きょうは、おじいちゃんと、いっしょに、とばくじょうに、いきました。ぼくは、にじゅうまんえんまけました。おじいちゃんは、ごひゃくまんえんまけて、いらいらしてました。ぼくのこいびとの、あれくちゃんは、ひゃくろくじゅうまんえんかちました。すごいなあとおもいました。』


もしも前世で児童がこんな日記を書いてきたら私はどうしただろうか。きっと面倒だからスルーしただろうな。孫を賭場に連れていく祖父なんてロクな家庭じゃない。関わるだけ時間の無駄だと判断しただろう……

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