昼まではまだ時間があるのでギルドに顔を出してみよう。今の時間って人が少ないんだよなー。
そう思っていたら意外と多い。さっさと仕事に行けばいいのに。無駄話してんじゃねーよ。
「マジだってよ?」
「おお、ハイネルンの連中が見たらしいぜ?」
「マジかよ! ヤバイな!」
「だからって魔王はねぇだろ?」
「じゃあ誰があんなクソでけぇ岩を動かせるってんだ?」
おっ、さてはあそこの話題か?
「おはようございます。何の話ですか? もしかしてノワールフォレストの森、南端部のちょい東ですか?」
「おお、オメーか。しばらく見てなかったな。そうよ、そこだよ。何か知ってんのか?」
「いやー、知ってはいるんですけど……巨岩が二キロル四方に並んでるって話ですよね?」
「いや、確か……そうらしいぜ。詳しいじゃねーか。」
「しかも入口がなくて登るか飛ぶ以外に入る方法がないんですよね?」
「おお、岩だから高さはあるが登るのは簡単だったらしいぜ。」
なるほど、二週間ちょい前か。コンクリ仕上げをする前に見られたか。そりゃまあ、いつかは発見されるよな。
「四隅に特大の巨岩が置いてありますけど、そこに刻まれた紋章は見られたようですか?」
「いや、聞いてないぜ。西側の真ん中辺りから登ったらしいからよ。」
「うーん、そうですか。じゃあもしそこに行かれることがあったら北東と北西の巨岩に彫られた紋章を見るといいですよ。」
「えらい詳しいじゃねーか。教えろよ。」
「もうしばらく内緒です。ただ平日は入らない方がいいですよ。週末なら入っても大丈夫です。もちろん魔王はいません。」
ふーむ。侵入者対策ってどうすればいいんだ? 私がいない間に入られるのはいいけど、ゴミとか捨てられてたらブチ切れそうだ。
領有権も気になるし、やはり困った時は母上に相談だな。
カースが帰った後のギルドでは……
「よお、あいつだよな? スパラッシュさんが可愛がってたガキ」
「おおカースだろ。坊ちゃん坊ちゃんって呼んでたよな」
「何であんなガキが?」
「ありゃ魔女のガキだぞ。オディロンに擦り付けをやったパーティーが灰も残らず草原ごと焼き尽くされた噂ぐらい知ってんだろ」
「おお、つまり魔女のコネか?」
「いや、どっちかっつーとオヤジのコネじゃねーか? あそこのオヤジとスパラッシュさんは仲が良かったからよぉ」
「すっきりしねーなぁ。オディロンはいいさ。奴隷女に金貨百枚出して結婚するたぁ剛毅なもんだ!あいつはその弟だろ?」
「弟だな。それがどうした?」
「スパラッシュさんの最後の仕事、あいつと一緒だったらしいじゃねーか! どうしてだよ!」
「知るかよ。今頃何言ってんだ?」
「あのガキの顔を見たら思い出しただけだ!」
「それよりよぉ、さっきの情報どう思う?」
「あ? 紋章がどうとか、平日がどうとかってやつか?」
「それよ。俺ぁ今すげーバカなことを考えてるぜ。カースがそれを知ってる理由をな」
「何だよ、言えよ」
「バカらし過ぎて言えねー。あいつが言わなかった理由が分かったかも知んねーけど。それだけにバカらし過ぎて言えねー」
カースは未だにクタナツ最年少冒険者だ。しかしそれなりに付き合いはあるので絡まれることはまずない。カースを知らない年上の新人や他所者なら話は別かも知れない。
私が自宅に帰ったのはちょうど昼食前だ。いいタイミング。
おお! ご馳走だ! 小さい頃、経絡魔体循環を受けた後に食べたようなご馳走だ!
「すごい! 母上の手作り!?」
「そうよ。カースが食べたいって言うから張り切っちゃった。」
「最高に美味しそう! いただきます!」
相談なんか吹っ飛んでしまった。色んな美味しい料理を食べたけど、やっぱり本物のお袋の味は唯一無二だ。旨さの次元が違うかのようだ。一心不乱に食べてしまうね。
「最高に美味しかったよ。やっぱり母上の料理ってすごいね!」
「うふふ。今日はどうしたの? 珍しいわね。」
「いやー、最近全然家で食べてなかったから飢えてたんだよ。ところで相談なんだけど、ノワールフォレストの森とかに家を建てたら領有権とか税金とかってどうなるのかな?」
「また……変なことを始めたのね……どうにもならないわよ。草原の街より北は誰の領地でもないの。だから上級貴族は必死に開拓をして領地を得ようとしているの。もしカースが魔境に家を建てたら、そこはカースの領地ね。もちろん役人が取り立てに来たら広さに応じて税金を払うことになるわね。」
「なるほど。ちなみに広さが四平方キロルだったら税金っていくらぐらいになりそう?」
「クタナツの半分じゃない! 広過ぎて分からないわよ! 本当の領地じゃない!」
「あはは、家を建てようと思ったら周りを囲わないと危ないかなーと思って広めに囲ってみたんだよね。そのうち招待するからね!」
「ノワールフォレストの森なら役人が行くこともないでしょうけど……本当に何やってるのよ……」
「内緒ね。アレクにも内緒にしてるんだから。で、家なんだけど豪邸を建てるならどこに頼むのがいいかな?」
「はぁ……本当にもう……私の知る限りだと王都、ピエレマイソン商会ね。領都にもいい商会はあるでしょうけど知らないのよ。」
「なるほど、ありがとう。王都には夏休みに行こうと思ってたんだよね。だから今回は領都で探してみるね。まだまだ家を建てる段階じゃないしね。」
それから私達はたくさんの話をした。
キアラが優等生になったこと。
アレクが怪我をしたこと。
ベレンガリアさんが押しかけてくること。
アレクサンドル家の兄ちゃんと教官をボコったこと。
オディ兄のパーティーが解散したこと。
母上との久々の会話はとても楽しかった。
そこにキアラが帰ってきた。
「ただいまー! あーっ! カー兄!」
「おかえり。いい子にしてたかー?」
「してるよー! 今日もいっぱい褒められたんだよー!」
母上によるとキアラが一転して優等生になったため、先生方の『褒め』が止まらないらしい。それが上手く回って『褒め』『頑張る』『褒め』『努力する』『褒め』『結果を出す』の好スパイラルにハマっているらしい。やはり教育に褒めることは大事なんだな。
「カー兄遊ぼー! ベレン姉も!」
私達は三人で夕食まで狼ごっこを楽しんだ。キアラは魔法に頼らず自力で私とベレンガリアさんを追い詰めた。捕まることはなかったが、それもきっといい経験に違いない。
「ところでカース君、今日ってキアラちゃんの誕生日よ? プレゼントの用意はあるかしら?」
しまった……すっかり忘れてた……
何かないか!? 美味しい肉はないし……
ミスリルはさすがに高級すぎる……
愚者は物を贈り、賢者は言葉を贈ると聞く。
よし、本をプレゼントしよう!
雑貨屋に行けば何かあるだろう。急いで行って来よう!
買ってきた。
『勇者ムラサキ・イチロー外伝』
本編に載ってないこぼれ話や魔王討伐後の話が載っているらしい。私も読みたい……
それにしても今日はたまたま帰ってきてよかった。危ないところだった。
キアラの誕生日パーティーにはアッカーマン先生夫妻、オディ兄夫妻も来てくれた。なんだか長いこと会ってなかったような気がする。
大いに盛り上がり楽しく過ごしたのだが、父上と母上とベレンガリアさん、先生夫妻、オディ兄夫妻と各地でイチャイチャが始まった。主役はキアラじゃないんかい!
キアラはというと早々と寝てしまっていた。いいんだ……私にはコーちゃんがいるから……
ねーコーちゃん? 「ピュイピュイ」
癒されるぜ……
酒が飲みたい……
読み終わったら、ポイントを付けましょう!