村長宅に帰り着いた。
「ただ今戻りました。」
「おお、書状は書いておいたぞ。国王殿がどう出るか見ものだわい。」
「はあ、じゃあ渡しておきますね。それより半年前にイグドラシルに登った人がいるそうですが。」
「おお、そんな奴もおったな。お主も登ってみるか?」
「いえ、もう諦めました。ところで、その人の名前は覚えてますか?」
「おお、確か……うぅむ……」
ん? さては覚えてないのか?
「顔とか容姿だけでも……」
「確か……髪の色は金、男にしては長めだったか。儂らエルフから見ても美形と言える優男だったような……」
んん? それってもしかして……
「その人、めちゃくちゃ強くなかったですか? 特に剣が。」
「おお! そうだそうだ。内包する魔力は高い割にロクに魔法が使えん奴だったな。その代わり儂らの魔法が全く通じなかったぞ。」
間違いない、先生だ。
「分かりました。その人はきっと僕の先生です。おそらくは王国一の強者でフェルナンド・モンタギューと言います。通称『剣鬼』と呼ばれる方です。」
「ほお、王国一か。さもあろう。あのような御仁がいたのではお主が勘違いするのも当然よ。」
あ? 何だと?
「勘違いとは?」
「王国と我らが戦争をしてどちらが勝つかの話よ。あの御仁さえおればこの村は容易く全滅。そう考えておろう?」
「え、ええ……」
「それは真っ向から戦った場合であろう? 儂らは全滅するぐらいなら禁術でも何でも使うぞえ?」
なるほど、納得。まだまだ私の知らない禁術とかもありそうだしな。
「ご忠告ありがとうございます。では引き分けってことにしておきましょう。そもそも戦争なんかしたくありませんので。」
「ほっほっほ。平和が一番よのう。そうか、フェルナンド殿だったな。無事ならばよいが……」
無事に決まってるだろ。
「もし、理想的なペースで登ったとすればどのぐらいで天辺まで辿り着くものですか?」
「さてのぉ……儂の時は二十三年だったか……降りた後で知らされたことだがの。」
マジかよ……
そしてさすが村長……登頂したのかよ……
しかし二十三年か……いや、先生ならきっと一、二年で登れるさ! 私も挑戦してみたくなったな。夏休みが終わったら……
「貴重なお話をありがとうございます! 来月また来ようと思いますので、ぜひ詳しくお聞かせいただけると嬉しいです!」
「ほっほっほ。挑戦するか? お主なら死にはせんだろう。せいぜい励むがいい。」
そして村長宅を出て再びマリーの実家へ向かう。
「ねぇ……カース、登る……の?」
「いや、決めてない。まずはお試しで行ける所まで行ってみたいだけだよ。アレクと何年も離れ離れなんて耐えらないよ。」
「うん……私も……」
アレクが沈黙してしまった……どうしたことだ?
「でもね、カース。」
「ん? 何だい?」
「私もカースと離れるのは嫌よ。でもカースが、私のためにやりたいことを我慢するのはもっと嫌。私、カースには自由でいて欲しいの。何ものにも縛られない自由なカースが好きなの。」
うおぉ、ぐっと来るな。なんでアレクはこんなにもいい女なんだ。私の足枷にはなりたくないってことか。
やりたいことを我慢せずに……それなら!
「アレク、ありがとう。決めた! 登るよ! 本気で天辺を目指そう。僕ら四人で!」
「え、カース?」
「確かに僕はイグドラシルに登ってみたくなった。でもアレクとも離れたくない。だから、みんなで登ろう! アレクが卒業してから始める旅の第一弾はここだ!」
「カース! 私に登れるか自信はないけど、頑張るから! ありがとう。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんとカムイは楽勝そうだよな。
「僕も自信なんかないよ。行くだけ行ってみようね!」
前世でロッククライミングの真似事ぐらいはしたことあるが、あの大木を相手に同じ技術で攻略できるものか……いや、むしろ技術より体力だな。イグドラシルの表面はゴツゴツしてるから取っ掛かりは多いだろう。
まあ何にしてもアレクが卒業してからだな。それまでに情報だけはしっかり集めておこう。この村で話を聞くことだけだが……
さて、話してたらマリーの実家に到着したぞ。まだ夕食には早いか。
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