異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

11、城壁建造

公開日時: 2021年7月2日(金) 10:00
文字数:3,060

応接室らしき場所へ案内された私達の前にリスナール君とダマネフ伯爵が現れた。


「お二人とも本日はようこそおいでくださいました。改めてお礼申し上げます。」


「ダマネフ伯、私もカースも楽しませていただきました。今までダンスパーティーなんて見向きもしませんでしたが、今後は少し出てみようかと考えておりますわ。」


「それは重畳。来月はフランティア開拓記念パーティーもありますし、ぜひ参加されるとよろしいかと。」


「それより父上、本日の賞品をお渡ししなくては。」


リスナール君が懐から何かを取り出した。

それをダマネフ伯爵がこちらに渡してくる。


「こちらは辺境の一番亭の宿泊券です。どうぞお納めを。そしてこちらは仕立て券です。カース殿は見たところ、お召し物にかなりの拘りがおありなようだ。これは領都内ならどの仕立て屋でも通用します。素材はご自分持ちですが、仕立て代は無料になります。ぜひご利用ください。」


「ありがとうございます。夏用に新しいシャツでも作ろうかと思います。」


来月もあるのか。楽しくダンスできるのなら参加してもいいな。その辺りはアレクに任せておこう。


「ではこれにてお暇させていただきますわ。良いものをいただきありがとうございました。失礼いたします。」


「また来週学校でお会いするのを楽しみにしております。」


伯爵父子に玄関まで見送られた私達は馬車に乗らずそのまま歩いて帰ることにした。やはりデートは歩きでないとな。


いくら領都でも今夜のアレクほど着飾った上級貴族が街中を歩いているのは珍しいのだろう。注目を集めている。馬車で帰るべきだったかな。さすがに絡んでくる者などいないだろうが。


そんなことを考えながら仲良く歩いていたら隣に馬車が停まった。そこから貴族らしき男の子が顔を出してきた。


「アレクサンドリーネ様、歩きとはどうされたのですか? もしや馬車の手配ミスか何かで?」


「あら、ソノディア君。違うわ。歩きたいから歩いているのよ。」


「しかしアレクサンドリーネ様ほどの方が不用心では……」


「あなたも見たでしょ? 私にはカースがいるの。どこでも安全よ。」


「……それもそうですね。余興と実戦は違う気もしますが……余計なご心配でした。では失礼いたします。」


「ええ、また学校でね。」


やはりアレクはモテモテだな。ソルダーヌちゃんもそんなことを言ってたよな。心配ってほどではないが、今日は私の存在を示せたのもよかったようだ。これでアレクに寄り付く虫が少しは減るだろうか?




自宅に帰った私達は早速お風呂に入る。もちろん湯浴み着を着てだ。


ちなみにマーリンは夕食の必要がない時は帰っているので今夜はこの広い豪邸に二人きりだ。彼女は住み込みメイドではない。掃除や食事が必要な時だけ来てもらっているのだ。マーリンの旦那は庭師らしいので、うちの庭の手入れもお願いする日が来るだろうか。現在は広い庭に何もない、殺風景なだけだからな。コーちゃんの湯船がぽつんと置いてあるのみだ。




「今日は楽しかったね。ダンスって面白いもんだね。来月のパーティーってどうするの?」


風呂ではアレクが私に抱き着いている。色々と感触が艶かしい。


「カースが行きたいのならもちろん行くわよ。でも来月のは辺境伯主催だから堅苦しいわよ? ダンスだって色んな人と踊らないといけないし。」


「そっか。それならやめよう。今日みたいな気軽なやつだけ参加しようよ。」


「私もそれがいいわ。ソルが言ってたけど本来のダンスパーティーはかなり面倒みたいだし。」


しょせん遊びだしな。関係作り、顔つなぎのパーティーなんか出たくもないな。さて、本日出席したアレク狙いの男達は今後どう出るか……


私にあからさまな敵意を見せてはこなかったが、それで終わりといくはずがない。アレクは誰にも渡さんぞ。






アレクといつも通りの週末を過ごし、私はクタナツへと帰る。そしてまたノワールフォレストの森へと移動し建築作業へと取り掛かる。


母上にもしばらく帰らないことは伝えたし、アッカーマン先生にもしばらく休むと伝えてある。今週はコーちゃんも付いて来てくれた。うるさい打ち込み作業がないことを伝えたからだ。今にして思えば『消音』の魔法を使えばよかった。私だってうるさいのを我慢してたんだから。




四日かかって石垣もどきが完成した。高さは五メイル、厚さは二メイルぐらいだろうか。

実際には凹凸を気にせず岩を組み合わせて積み上げただけだ。頑丈さだけは自信があるが。よって今日からはさらに高く頑丈に、なおかつ美しさを目指して増設していく。目標は今の三倍、高さ十五メイル、幅六メイルだ。


前回作ったお手製コンクリが意外とがっちり硬かったのも助かっている。隠し味的に砕いた魔石や私の魔力も混ぜたのがよかったのだろうか。今回も同様のお手製コンクリで石垣を覆い乾く前に岩を配置する。組み合わせも何もなく、既存の石垣の内外にただ大岩を置くだけだ。自重と接触面のコンクリによって固定されただけなので、やや安定性に欠ける。


北側全てに岩を置き終えたらここからは加工が入る。ウォーターカッターの魔法、今後は『水斬』と呼ぶ、で組み合わせのために岩の上側を凹型に切断していく。また、幅を六メイルに合わせるためにはみ出した部分を切り落としたりもする。




あらかた凹加工は済んだ。ここに凸加工をした岩を乗せていき、高さを稼ぐのだ。強度を出すためには複雑に加工した方がいいのかも知れないが技術的に難しい。だからなるべく凹凸で組み合わせたり、平面同士が触れ合うように加工している。大岩を中心に組み上げているので結構スカスカだったりする。しかしまだコンクリを流すわけにはいかない。小さい岩や石ころを内部に入れ込むのが先だ。それに魔石や砂などが全然足りないのだ。岩はいくらでもあるのに。


まあしばらくは気にせず大岩だけを組んでいこう。こうして東西南北全てに大岩を組むのにさらに四日かかった。なんて早い一週間なんだ。道楽のためなのに働き過ぎな気がするぞ。今週末はアレクに会えることだし頑張ろう。曜日を忘れないようにしなければ。


ちなみにコーちゃんは私のコンクリが気に入ったようで体を突っ込んではコンクリ浴を楽しんでいる。前回大岩の隙間に流し込んだ時も海にダイブするかのようにコンクリの海に潜り込んでいる。コーちゃんは楽しい、私は見てて癒される、コンクリの隙間は詰まっていく。良いことづくめだ。もしかしてお手伝いをしてくれているのだろうか。


さて、そのためにも魔石を集めなければならない。何の魔石が良いのか分からないが、イメージ的にはゴーレムが良いのではないだろうか。ファンタジーとしては城壁そのものをゴーレムにしてしまうパターンもあるが、さすがに方法が分からない上に、核となる魔石を抜き取られたりして城壁がさらさらと崩れたら泣けてしまう。地道に作ろう。


週末の領都行きまではひたすらゴーレムの魔石を集めた。ヘルデザ砂漠のど真ん中で土系の魔法を使いまくって寄ってきたゴーレムを片っ端から片付けたのだ。

ついでとばかりに石系ゴーレムや金属系ゴーレムも素材として確保してある。これで城壁が一段と強固になるだろう。私は一体何と戦ってるんだ? でも楽しいからいいのだ。


週末ぅ〜

そうだまたアレクがぁ待っているぅ〜

ただそ〜れだけで嬉しいぃ〜


やりすぎて最高にハイになってしまった。一つ歌でも歌いたい気分だから歌ってみた。コーちゃんも一緒にピュイピュイ言って踊ってくれる。


いつも通り領都に行って遅めの昼ご飯にしよう。そして校門前でアレクを待つのだ。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート