異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

12、アレクサンドル家から来た男

公開日時: 2021年7月3日(土) 10:01
文字数:3,699

二週間ぶりの領都。昼食も食べたし放課後まではまだ時間がある。仕立て屋でもあちこち覗いてみようかな。




う〜ん、領都で開店しているからって腕がいいとか目利きってわけでもないらしい。ケイダスコットンでシャツの仕立てができるか聞いたら、「子供が何言ってんだ?」「お母さんを連れておいで」「大きくなってお金を貯めたらまたおいで」などと言われる始末だった。私も特に反論はせず素直に店を出たのだが。素直に仕入れられないって言えばいいのに。


思い切って一番高級そうな店にも入ってみた。


「いらっしゃいませ」


「こんにちは。この券でケイダスコットンのシャツを四着作って欲しいんですが可能でしょうか。」


「なるほど、仕立て券をご利用ですね」


「素材は持ち込みではありません。デザインはこんな感じです。仕入れからお願いしたいと思っております。魔石はあれこれ揃っております。」


「変わったデザインですが可能でしょう。四着となりますと、一ヶ月半ほど見ていただければよいかと。ただし仕入れの都合上前金で金貨三百枚いただきますが、よろしいですか?」


シャツの素材だけで金貨三百枚。とんでもなく高級だね。


「いいですよ。カード払いでお願いします。」


「確かにいただきました。ではサイズを頂戴いたします」


しまった。そのことを忘れていた。


「四着というのが僕ともう一人で二着ずつなんです。今度連れてきますので、今日のところは僕だけお願いします。」


「そうでしたか。本来ならば金貨がもう四十枚必要ですが、それは仕立て券の範囲ですから結構です。またのご来店をお待ちしております」


「申し遅れました。僕は貴族特区三の五、カース・ド・マーティンです。」


普通貴族は住所など言わないし使わない。名前だけでみんな知っているからだ。しかし私は二年前に自宅を購入したと言っても近所付き合いもしてないし、貴族関係の集まりにも顔を出してない。さすがに空き家とは思われてないだろうが、前の住人のせいで積極的に関わろうともされてないはずだ。とても快適だったりする。


そんな状態だから私が今回のような大きい買い物をした際には住所と名前を言わなければ届けてもらえなかったりする。もっとも今回名乗ったのは信用のためだ。仕立て券を持っているだけで充分ではあるだろうが、念のためだったりする。完成が楽しみだ。


 


さて、校門前にてアレクを待つ。いつもの感じだともう十数分で出てきそうだ。何人か私に注目した生徒もいるようだが、この前のパーティーにでも来ていたのかな?




「君は二週間前にダマネフ伯爵家のパーティーに出席していたかい? アレックスと居たそうだね?」


その中から数人の取り巻きを連れたイケメン金髪の男が声をかけてきた。


「ええ、いましたよ。」


「私はアナクレイル・ド・アレクサンドル。アレックスの本家筋にあたる。」


「カース・ド・マーティンです。」


「それで君はどういうつもりなんだい?」


何言ってんだこいつ?


「どうとは?」


「下級貴族の分際でアレックスにまとわりついて何が目当てか聞いているんだ。」


「惚れられたと思ったらいつの間にか私も好きになってしまっただけですよ。文句は本人とご両親に言うといいですよ。」


「ちょっと魔法が使える程度で大きな口を叩くじゃないか。さすが野蛮なクタナツ者だな。余興は凄かったらしいがその程度で強いつもりなのかな?」


えらく絡んでくるな。面倒くさい奴。年上っぽいけど兄貴じゃないよな? アレクサンドル本家筋って言ってたし? 自分の妹でもないんなら放っておけよ。


「さあ? 強いか弱いかなんてどうでもいいんじゃないですか?」


「おや? クタナツ者が強さに拘らないと言うのかい? それは驚いた。でもそんな弱腰な人間にアレックスは任せられないな。」


やっぱりこの手の人間に口では勝てそうにないな。どうやったら口先で丸め込めるんだ?


「なら本人とご両親にそう報告するといいですよ。それともアレクが欲しいんですか?」


親戚の女の子をわざわざ狙うなよ。そりゃアレクの可愛らしさなら無理もないけどさ。


「違う! 同じアレクサンドル一門として身内が下級貴族風情と付き合いがあるのが許せないだけだ。君も男なら実力で証明したまえ!」


おっ、それは手っ取り早い。願ってもないチャンス。


「どうしましょう? 決闘じゃないならいいですよ。」


「ふふん、やはりただの臆病者か。アレックスはこんな子供のどこがいいのやら。付いて来たまえ。魔法学校の実力を見せてあげよう。それから逃げても遅くはないさ。」


そう言っておいてここにやって来るアレクと引き離すのが目的なんじゃないのか? しかしそうはいかない。


「カース、待たせたわね。」


アレクも数人の取り巻きを連れて登場だ。前回見たような顔もある。


「やあ、意外と早かったね。待ってないよ。」


私が『発信』の魔法を使って急かしたからだ。普段は到着を知らせるだけだが、今回のような時に備えていくつかバリエーションは考えてあるのだ。


「アナクレイル兄様、お久しぶりです。私のカースがどうかしましたか?」


「君もアレクサンドル一門に身を置く者なら分かるだろう。一時のお遊びでもこのような下級貴族と付き合いがあるのはよくない。弁えたまえ。」


「それは兄様には関係ない話ですわ。いくら兄様の方が本家に近いとしても。」


「そもそも彼のような臆病者に君を任せるわけにはいかない。今からちょうど実力を証明してもらうところだ。」


もう確定かよ! まあやるけど。取り巻き同士は困ってるな。身分的には兄ちゃんの方が上らしいが、アレクだってそこまで違うわけでもない。巻き込まないで欲しいってのが本音だろうな。


「アレク、皆さんには先に帰ってもらったら? せっかくの放課後をこんなことで浪費させるのは悪いからね。青春の無駄遣いだよ。」


「そうね。じゃあみんな、また来週ね。明日のパーティーには顔を出すかも知れないわ。」


アレクの取り巻き君達はそそくさと帰っていったが、兄ちゃん側はそうでもないようだ。むしろ邪魔者がいなくなって助かったって顔だ。


「では訓練場に行こうか。魔法学校内に入れるんだ、光栄に思うといい。」


思えば魔法使いとこうして対戦するのは初めてか? 勉強になればいいが。


中々広い庭だ。円形の標的に人型の標的。大きく硬そうな金属の立方体など、面白そうなものが置いてあるではないか。


「さて、あちらに円が二つ見えるな? あの円に立って交互に魔法を撃つ。相手を円から出した方の勝ちだ。」


「いいですよ。で、何を賭けるんですか?」


「君が負けたら二度とアレックスに近づかないことだ。」


「その条件はやめた方がいいですよ。なぜならそれに見合う対価は白金貨十枚でも足りません。僕が勝ったら白金貨百枚要求しますよ? 払えますか?」


「ばかなことを言うな! そう言えば賭けを取り下げるとでも思っているのか!」


「なら違う条件にしたらどうですか? 僕が二度と領都に来ないとか、領都の家を取り上げるとか。」


「口だけは達者だな。いいだろう。どんなあばら家か知らんが家屋没収と領都へ立入禁止だ。」


「ならこちらも白金貨一枚でいいですよ。お相手はどなたですか?」


「もちろん私だ。名門貴族に連綿と受け継がれる魂を教えてやる。位置につきたまえ。」


「その前に約束です。僕が負けたら領都へ立入禁止で家屋没収。勝ったらあなたから白金貨一枚をいただきます。いいですね?」


「当たり前だ、っくぉ……契約魔法か……味な真似をするじゃないか。勝負の前に魔力を無駄遣いしたなんて言い訳するなよ?」


ふうー。いつもながらここまでが長い!


「さあ、先攻は譲ろう。せいぜい全力で撃って来たまえ。」


全力を出したらこの学校が消し飛ぶぞ?

私はこれ見よがしに詠唱をし、目の前に水球を作りあげる。その完成を待たず別に打ち出したホーミング風球が奴を後ろから襲う。あえなく前方に倒れ込んで終了。油断しすぎだろ。


「では白金貨一枚払ってください。再戦は受け付けておりますよ。」


「くっ、卑怯な! それがクタナツのやり方か!」


「知りませんよ。逃げても無駄なんだから早く払ってください。まさか持ってないんですか? 貧乏なんですか?」


「手持ちに白金貨一枚なんてあるはずないだろう! 今度払う!」


「貧乏なんですね。じゃあ僕に白金貨一枚の借金です。今度払う約束でいいですね?」


「ああ、っうっくぅそっ」


「では改めまして僕は金貸しカース、利息はトイチの複利。十日ごとに少しでも返済しないと一日遅れるごとに関節が一つずつ固まります。ちなみに僕を殺せば契約魔法は解けますよ。たぶんね。」


「再戦は受け付けると言ったな? 明日またここへ来てもらおうか。まさか嫌とは言うまいな?」


「同じ条件で賭けるならいいですよ。相手や対戦方法の変更は明日その場で相談次第ですね。」


「ふふっ明日の昼十二時だ。来なかったら手配をかけるからな。」




やれやれ。儲かったけど面倒だったな。なんで上級貴族って奴は弱いくせに自分の勝ちを疑わないかねー。勝負になった時点で自分が勝って当然って顔してやがる。やれやれだ。

自宅でアレクに癒してもらおう。今夜はコーちゃんも一緒だし。いつも鞄の中で大人しくしている感心な子だ。

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