オディロンは思い出す。
進路を決めきれず悩んでいた一年前を。
「ねぇオディロン、貴方は進路決めた?」
「ああ、ベレンちゃん。珍しい話題だね。決めてないよ。実は悩んでいてね。君は?」
「実は私も。まあ悩んでるわけではないけど困ってるの。それであちこち話しかけてヒントを探してるってわけ。」
「それこそ珍しいね。何に困ってるんだい? 将来有望だろうに。」
「それよ。まさに将来よ。もし貴方が卒業してから私と結婚しないといけなくなったらどう思う? 正確には婚約だけど。」
これにはクラスの男子が静かに騒めき聞き耳を立て始める。
「それは困るよ。僕にだって心に決めた女がいるんだから。てことは君も?」
「そんなところ。心に決めた男はいないけどね。勝手に婚約者を決められてしまったの。
そりゃあ私も貴族だからある程度は覚悟していたわ。でも相手が王都の盆暗貴族だと分かったからにはそれは無理。だからもう家を出る気でいるの。でもね、困っているのはその後の生活手段なのよ。
甘ったれた貴族でも生きていける方法なんて冒険者か娼婦ぐらいじゃない? どっちにしようか悩んでるってわけ。」
さらに教室が騒つく。もはや静かではない。
「それって相談の意味ないよね? ヒントになることもないだろうし。
ちなみに僕が悩んでいるのはお金だよ。お金を稼がないといけないんだ。」
「それなら話は早いわ。私と冒険者をやりなさい。バランスのいいパーティーで安定した稼ぎになるわよ。」
「いきなりだね。ベレンちゃんならソロでもいいだろうになぜ僕を?」
「新人がソロで生きていけるわけないでしょう。冒険者は強ければいいってものじゃないじゃない?ソロでやるぐらいなら娼婦になるわ。」
「極端だね。他にも選択肢はありそうだけど。まあ一緒に冒険者をやるのはいいさ、君と組むなら勝算が高いからね。問題はダキテーヌ家だよ? ベレンちゃんに協力して君んちから睨まれるのは嫌だよ?」
「あら、レディが困っているのに冷たいわね。命をかけて僕が守る! ぐらい言ってくれてもいいのよ?」
「嫌だよ。命をかける|女(ひと》はいるから。というわけで一緒に冒険者をやるのは僕にとってもいい話だ。ダキテーヌ家の問題が僕に及ばないなら喜んでこの話を受けよう。」
「その言葉、確かに聞いたわよ。明日が楽しみね。」
そして翌日、ベレンガリアは勘当された。
家で魔法を使い部屋を焼き尽くしたとか、父親の髪を焼き尽くしたとか。卒業まで残り半年足らず、一体どうやって暮らしていくのか。学費は通常一年分前払いなので問題ないとしても……
春からベレンガリアの冒険者人生が始まるのか、と思ったら実はすでに始まっていた。
家を飛び出したその足でギルドに行き登録。
そのままおすすめの宿で一泊。以来そこを拠点に小銭を稼ぎつつ学校に通いそして卒業。
ちなみにベレンガリアの両親は卒業式に来なかった。
そしてオディロンは思い出す。
冒険者登録に始まり入口に立って通り過ぎる先輩への挨拶、初依頼、初納品、初達成。
そして初報酬。
厳しいが理不尽でない先輩、関わろうとしない先輩、因縁をつけてくる同年代。まだ半年しか経っていないが、濃い時間を過ごしていると言える。
果たしたオディロンはこのまま無事に金貨百枚を貯めることはできるのか?
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