異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

212、カース、十五歳

公開日時: 2022年10月10日(月) 10:37
文字数:2,761

ヴァルの日。私は領都の自宅で目を覚ました。たいてい私の方が先に目を覚ますのに、今日はアレクの方が早かったらしい。学校に行く、また二週間後を楽しみにしてる、との置き手紙があった。


さて、今週は楽園で作業をして来週はタンドリア領に行くとしよう。次にアレクに会えるのは再来週のケルニャの日か。長いよなぁ。





さてさて、今日も今日とて楽園で似たような日々を送ろう。延々と基礎の杭打ちを続ける。今週いっぱいかかっても北側すら終わらないだろう。別に急いでないからいいけど。時折掘っ建て小屋の奴らが通りかかり声をかけてくれる。そんなのでも意外とやる気が出るんだよな。




そしてもう週末。今日も私は一人で目を覚ました。豪邸に一人。大きなベッドに一人だ。一人で朝食を済ませて玄関から外に出る。


すると、そこに。


「コーちゃん! カムイ!」


玄関の両サイドに設置してある汚れ銀のコーちゃん用湯船とカムイの小屋。そこに、二人が居たのだ!


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


心配させやがって!

どこに行ってたんだよ!


「ガウガウ」

「ピュイピュイ」


修行だって? コーちゃんはカムイの世話?

ああ、よく見たらカムイは傷だらけじゃないか。毛もかなり汚いし。よし、ならば朝から風呂に入ろう。きれいに洗ってやるからな!


「ガウガウ」




しっかり洗ってから私とカムイは湯船に並んで浸かっている。こいつが浸かるとお湯がかなり無くなってしまうけれど。


それでカムイ。なんで修行なんかしてたんだ?


「ガウガウ」


あのジジイに負けたから? そりゃ仕方ないさ。アッカーマン先生だぞ? フェルナンド先生を相手にするようなもんだ。


「ガウガウ」


え? フェルナンド先生にも負けたくない? だから修行中?

まさかまた行くのか? 一体どこに?


「ガウガウ」


はあ!? 山岳地帯だって!? 無茶するなよ!


「ガウガウ」


そのうちまた行くの? まあ、いいけどさ。行くのはいいけどちゃんと言っておいてくれよ。心配してたんだぞ?


「ガウガウ」


分かってくれたらいいさ。アッカーマン先生に負けたのがショックだったんだよな。仇はとったよ。不本意ながらな……


「ピュイピュイ」


あ、コーちゃんが風呂場にやって来た。コーちゃんどうした?


「ピュイピュイ」


あ! 今日は私の誕生日か! ついに十五歳になったか! だから帰ってきてくれたの?


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


私ですら忘れてたのに、コーちゃん達は覚えててくれたとは……嬉しすぎる……


よし、ならば!

今日は仕事なんかやめだ!

そこらの冒険者を誘ってパーティーだ! バーベキューだ!




掘っ建て小屋エリアにやって来た。起きてる奴はいるかな?


「おーい、起きてる奴はいないかー?」


「あぁん? 誰だよ朝っぱらか……魔王!?」


「おお、おはよう。いきなりだけどパーティーやるぞ! ヒュドラやワイバーンの肉を食わせてやるから酒を用意してくれよ。」


「あ? 朝からパーティー? ヒュドラ? ワイバーン?」


「寝ぼけてんな? 全員起こせよ。俺は肉を焼いて待ってるからよ。」


よーし、コーちゃんにカムイ。たくさん焼いてあげるからねー。どんどん食べてねー!


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


よーし、いきなりヒュドラを焼いちゃうぞー! 残り少ないんだよな。でも気にしなーい! 今日で全部食べても構わないぞ。そして調味料も大放出。王都で買ったソース類、ワサビ、ペプレ、岩塩に魚醤。よりどりみどりだ。


「おお、朝からいい匂いじゃねぇか」

「食っていいのか?」

「これ何の肉だ? 見たことねぇぞ?」

「おう魔王、こいつを飲んでくれや」


十人ほどの冒険者がやって来た。えらい少ないな。


「どんどん食ってくれ。今焼いてるのはヒュドラだぜ? 残り少ないから早いもの勝ちな。お、酒か。ありがたく貰うわ。」


「魔王は気前がいいってウワサはマジか!」

「なっ! 言ってた通りだろ?」

「ゴチになるぜー!」

「スペチアーレが好きなんだろ? 聞いてるぜ!」


なんと話が早い。みんなでワイワイと飲む酒は最高だな。コーちゃんもカムイも帰ってきたし。明後日のタンドリア領もこれで安心して行けるな。


「ピュイピュイ」


え? もうお薬が欲しい? しかもあいつが持ってるって? コーちゃんたら鼻が効くんだね。朝からお薬とは悪い子だ。


「すまんな、そこの兄さん。『音速天国』持ってないか?」


「ああ、あるぜ。なんだよ、魔王は薬も好きなのか?」


「いや、俺じゃない。うちの蛇ちゃんの好物なんだよ。無理のない量を売ってくれないか?」


「ほお、つぶらな瞳をした蛇ちゃんなのに薬が好きなのか。変わってんな。まあここまでして貰ってんだ。魔王から金はとれねぇさ」

「ちょっと! 今夜の分まであげないでよ!」


ほう? この冒険者カップルは夜のお楽しみに使っているのか。悪い奴らめ。


「あー、兄さん。残り少ないんなら無理しなくてもいいんだが……」


「水くせぇこと言うなよ。俺らがここでどんだけ世話になってると思ってんだ。それにジェシカ、魔王に恩を売る機会なんて普通ないぞ?」

「それもそうね。なら魔王ちゃん、夜が寂しくなったら呼んでくれていいわ。たっぷりサービスするよ?」


「お、おいジェシカ。お前本気で言ってんのか?」

「バカお言いでないよ。魔王がアタシなんか相手にすると思ってんのかい?」


「お前はきれいだよ。エロイーズさんにだって負けるもんか」

「ジェロムったら。ねぇ、小屋に戻ろうよぉ?」


「ああ、俺も今そう思ってたところだ。もう我慢できない」

「ジェロム、早くぅ……」


男は薬を二つまみ程度置いて小屋へと行ってしまった。おそらくだが、普段私とアレクってあんな風に見えてるんだろうな……胸焼けがするバカップルっぷりじゃないか…… まだ午前中だってのに。


そしてコーちゃんはご機嫌だ。薬、酒、肉、の順番でぐるぐると味わっていた。小学校の給食を思い出すな。牛乳、パン、おかず、の順番で食べてたんだよな。


「ガウガウ」


カムイは早く焼けって? 生でも食うくせに。よし、ヒュドラ肉の最後の塊だ。これをこんがりと焼いて食わせてやるぜ。


それにしてもやはり鉄板焼きはミスリルに限る。脂を引かなくても焦げ付かないし、芯までしっかり火が通っている。よし、ここからは海の幸も行くぜ! あ、ヒュドラも海の幸か。また食べたいけど出会いたくないものだ。


「おう魔王、こいつはどうやって食べたらいいんだ? 割るのか?」


栄螺サカエニナのつぼ焼きだ。珍しいもんな。


「ああ、こいつはな。こんな針を中に突っ込んで、グリッと回して中身を抜くのさ。」


「おっ? こうか。へぇ、奇妙な形してんな。このまま食っていいのか?」


「おう。下の方は苦いけど、食う食わんは好きにしたらいいさ。」


ちなみに私は食べない。前世でも食べなかった。


「おっ! 意外に旨いぜ!」

「俺ぁ下のはダメだわ!」

「いい歯応えしてんぜ!」

「エールに合うじゃねーか! やるなぁ魔王!」


ふふふ、好評だ。さあさあパーティーはこれからだ。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート