ヴァルの日。私は領都の自宅で目を覚ました。たいてい私の方が先に目を覚ますのに、今日はアレクの方が早かったらしい。学校に行く、また二週間後を楽しみにしてる、との置き手紙があった。
さて、今週は楽園で作業をして来週はタンドリア領に行くとしよう。次にアレクに会えるのは再来週のケルニャの日か。長いよなぁ。
さてさて、今日も今日とて楽園で似たような日々を送ろう。延々と基礎の杭打ちを続ける。今週いっぱいかかっても北側すら終わらないだろう。別に急いでないからいいけど。時折掘っ建て小屋の奴らが通りかかり声をかけてくれる。そんなのでも意外とやる気が出るんだよな。
そしてもう週末。今日も私は一人で目を覚ました。豪邸に一人。大きなベッドに一人だ。一人で朝食を済ませて玄関から外に出る。
すると、そこに。
「コーちゃん! カムイ!」
玄関の両サイドに設置してある汚れ銀のコーちゃん用湯船とカムイの小屋。そこに、二人が居たのだ!
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
心配させやがって!
どこに行ってたんだよ!
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
修行だって? コーちゃんはカムイの世話?
ああ、よく見たらカムイは傷だらけじゃないか。毛もかなり汚いし。よし、ならば朝から風呂に入ろう。きれいに洗ってやるからな!
「ガウガウ」
しっかり洗ってから私とカムイは湯船に並んで浸かっている。こいつが浸かるとお湯がかなり無くなってしまうけれど。
それでカムイ。なんで修行なんかしてたんだ?
「ガウガウ」
あのジジイに負けたから? そりゃ仕方ないさ。アッカーマン先生だぞ? フェルナンド先生を相手にするようなもんだ。
「ガウガウ」
え? フェルナンド先生にも負けたくない? だから修行中?
まさかまた行くのか? 一体どこに?
「ガウガウ」
はあ!? 山岳地帯だって!? 無茶するなよ!
「ガウガウ」
そのうちまた行くの? まあ、いいけどさ。行くのはいいけどちゃんと言っておいてくれよ。心配してたんだぞ?
「ガウガウ」
分かってくれたらいいさ。アッカーマン先生に負けたのがショックだったんだよな。仇はとったよ。不本意ながらな……
「ピュイピュイ」
あ、コーちゃんが風呂場にやって来た。コーちゃんどうした?
「ピュイピュイ」
あ! 今日は私の誕生日か! ついに十五歳になったか! だから帰ってきてくれたの?
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
私ですら忘れてたのに、コーちゃん達は覚えててくれたとは……嬉しすぎる……
よし、ならば!
今日は仕事なんかやめだ!
そこらの冒険者を誘ってパーティーだ! バーベキューだ!
掘っ建て小屋エリアにやって来た。起きてる奴はいるかな?
「おーい、起きてる奴はいないかー?」
「あぁん? 誰だよ朝っぱらか……魔王!?」
「おお、おはよう。いきなりだけどパーティーやるぞ! ヒュドラやワイバーンの肉を食わせてやるから酒を用意してくれよ。」
「あ? 朝からパーティー? ヒュドラ? ワイバーン?」
「寝ぼけてんな? 全員起こせよ。俺は肉を焼いて待ってるからよ。」
よーし、コーちゃんにカムイ。たくさん焼いてあげるからねー。どんどん食べてねー!
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
よーし、いきなりヒュドラを焼いちゃうぞー! 残り少ないんだよな。でも気にしなーい! 今日で全部食べても構わないぞ。そして調味料も大放出。王都で買ったソース類、ワサビ、ペプレ、岩塩に魚醤。よりどりみどりだ。
「おお、朝からいい匂いじゃねぇか」
「食っていいのか?」
「これ何の肉だ? 見たことねぇぞ?」
「おう魔王、こいつを飲んでくれや」
十人ほどの冒険者がやって来た。えらい少ないな。
「どんどん食ってくれ。今焼いてるのはヒュドラだぜ? 残り少ないから早いもの勝ちな。お、酒か。ありがたく貰うわ。」
「魔王は気前がいいってウワサはマジか!」
「なっ! 言ってた通りだろ?」
「ゴチになるぜー!」
「スペチアーレが好きなんだろ? 聞いてるぜ!」
なんと話が早い。みんなでワイワイと飲む酒は最高だな。コーちゃんもカムイも帰ってきたし。明後日のタンドリア領もこれで安心して行けるな。
「ピュイピュイ」
え? もうお薬が欲しい? しかもあいつが持ってるって? コーちゃんたら鼻が効くんだね。朝からお薬とは悪い子だ。
「すまんな、そこの兄さん。『音速天国』持ってないか?」
「ああ、あるぜ。なんだよ、魔王は薬も好きなのか?」
「いや、俺じゃない。うちの蛇ちゃんの好物なんだよ。無理のない量を売ってくれないか?」
「ほお、つぶらな瞳をした蛇ちゃんなのに薬が好きなのか。変わってんな。まあここまでして貰ってんだ。魔王から金はとれねぇさ」
「ちょっと! 今夜の分まであげないでよ!」
ほう? この冒険者カップルは夜のお楽しみに使っているのか。悪い奴らめ。
「あー、兄さん。残り少ないんなら無理しなくてもいいんだが……」
「水くせぇこと言うなよ。俺らがここでどんだけ世話になってると思ってんだ。それにジェシカ、魔王に恩を売る機会なんて普通ないぞ?」
「それもそうね。なら魔王ちゃん、夜が寂しくなったら呼んでくれていいわ。たっぷりサービスするよ?」
「お、おいジェシカ。お前本気で言ってんのか?」
「バカお言いでないよ。魔王がアタシなんか相手にすると思ってんのかい?」
「お前はきれいだよ。エロイーズさんにだって負けるもんか」
「ジェロムったら。ねぇ、小屋に戻ろうよぉ?」
「ああ、俺も今そう思ってたところだ。もう我慢できない」
「ジェロム、早くぅ……」
男は薬を二つまみ程度置いて小屋へと行ってしまった。おそらくだが、普段私とアレクってあんな風に見えてるんだろうな……胸焼けがするバカップルっぷりじゃないか…… まだ午前中だってのに。
そしてコーちゃんはご機嫌だ。薬、酒、肉、の順番でぐるぐると味わっていた。小学校の給食を思い出すな。牛乳、パン、おかず、の順番で食べてたんだよな。
「ガウガウ」
カムイは早く焼けって? 生でも食うくせに。よし、ヒュドラ肉の最後の塊だ。これをこんがりと焼いて食わせてやるぜ。
それにしてもやはり鉄板焼きはミスリルに限る。脂を引かなくても焦げ付かないし、芯までしっかり火が通っている。よし、ここからは海の幸も行くぜ! あ、ヒュドラも海の幸か。また食べたいけど出会いたくないものだ。
「おう魔王、こいつはどうやって食べたらいいんだ? 割るのか?」
栄螺のつぼ焼きだ。珍しいもんな。
「ああ、こいつはな。こんな針を中に突っ込んで、グリッと回して中身を抜くのさ。」
「おっ? こうか。へぇ、奇妙な形してんな。このまま食っていいのか?」
「おう。下の方は苦いけど、食う食わんは好きにしたらいいさ。」
ちなみに私は食べない。前世でも食べなかった。
「おっ! 意外に旨いぜ!」
「俺ぁ下のはダメだわ!」
「いい歯応えしてんぜ!」
「エールに合うじゃねーか! やるなぁ魔王!」
ふふふ、好評だ。さあさあパーティーはこれからだ。
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