デメテの日。私はすっきりと目覚めていた。
体の痛みはだいぶなくなり、無痛狂心なしでも歩くのに問題はなくなった。欲を言えばアレクに会いに行きたいのだが彼女とて冬休みを前にして暇ではないはずだ。もう一週間我慢することなど何でもない。
「旦那様、リゼット様がお越しです。お通ししてもよろしいでしょうか?」
リリスが入ってきた。ここ数日リリスには心配かけっぱなしだったな。
「ああ、通していいよ。」
「カース様! 具合が悪いと聞いて心配しておりました! その上! 娼館にも行かれたって! 酷いですわ!」
すぐそこにいたのかよ。
「いや、もうだいぶよくなった。娼館には入ってないぞ。クタナツの組合長を送って行っただけだからな。」
「えぇ〜? 何もしてないんですかぁ? それはそれで残念です……」
酷いと言っておきながら残念とは何事だ?
「アレク以外の女に興味はないぞ。」
「分かってますよ……もしかしたら私にもチャンスが訪れたのかと思っただけです……娼館に行くぐらいなら私と……」
なるほど。そういうことか。
「そいつは悪かった。ダミアンと仲良くしてやってくれ。」
「ダミアン様はダミアン様でラグナさんに夢中なんですよね。確かに私には指一本触させないって言いましたけど、あれはあれで複雑ですよ……」
「はは……それはそうと商売の調子はどうよ?」
無理にでも話題変更だ。
「それがですね! 聞いてくださいよ! 絶好調なんです! ほら! ダミアン様が発表された時代が動き出してるって話! あれに乗っかりたい商会が相当ありますよ! そこにウチのマイコレイジ商会とダミアン様の関係ですよ! もうウハウハです!」
「そ、そうか。それはよかった。」
よく分からないが好調なのはいいことだ。
「じゃあカース様! お風呂に入りましょう! お背中流して差し上げますわ!」
「自分が入りたいだけだろ。まあいいけど。」
「ガウガウ」
おっ、カムイも入るか。ここ数日ほったらかしだったもんな。洗ってやろうな。
ふう。やはり風呂はいい。体調の回復もあって、とてもいい気分だ。
「ねえカース様? この湯船に値段つけたらいくらか分かります?」
「さあ? 知らないよ。」
「白金貨二、三枚はいきますよ? マギトレントでこの大きさですよ? 王族並みの贅沢ですわ。」
そりゃそうだな。遥か北、ノワールフォレストの森の奥地まで行かないと手に入らないもんな。しかも魔力庫なしだったら運搬の手間だけでも地獄だわ。
「それはそうと、流すのは背中だけにしておいてくれ。他は自分でやる。その分カムイを洗ってやってくれよ。」
「もぉー! カース様の意地悪!」
これでもリゼットに対する誠意として裸の付き合いをしているつもりなんだけどな。
「ガウガウ」
「カムイも早くしてくれとさ。」
「分かってますよー! さあカムイちゃん、お座り!」
仲良いじゃないか。
リゼットは自分の裸体を私に見せつけるかのようにカムイを洗っているが、私が反応することはない。スタイルいいんだけどな。
「あぁん? お前ら朝から風呂かよ? お盛んだな。」
「おやぁ? ボスとリゼットかいぃ。隅におけないねぇ?」
ダミアンとラグナか。なぜ朝からここにいるんだ?
「もしかして昨夜はうちに泊まってたのか?」
「泊まるってより普通に寝てただけだぜ? なあラグナ?」
「あぁ。ダミアンは自分の部屋で寝てただけさぁ。それじゃあダメなのかいボスぅ?」
「いや、別に構わん。」
リリスにはダミアンのことは放っておくよう言ってるしな。だから私に何も伝えなかったのだろう。全然構わない。さて、上がろうかな。
「なんだよ、もう出んのかよ。もうちっと付き合えよな。」
「オメーのたぷたぷした見苦しい体なんか見たくもないんだよ。お先。」
「キャハハハ! 言われてるねぇダミアン! 特に腹回りの肉を何とかしないとねぇ!」
「ぷぷっ!」
リゼットも笑っている。さて、何か食べたらまた寝るとしよう。この分だと明日か明後日にはバッチリ治っているかな。
それにしても無茶をしてしまったものだ。まさか身体強化の魔法にここまで副作用があったとは……違うな、私が後先考えずに魔力を込めまくったからだな……
でもこれを繰り返していけば強い肉体が作れそうな気もするな。がんばろ。
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