ソルダーヌちゃんは黙って考え込んでいる。私なら各自での自由行動にしてあげたいな。好きに動けばいいんだよ。
「みんな、逆に上屋敷に行きたいって人はいる?」
およそ三割が挙手した。
「騎士団の助けは期待できない。そうなると私達だけで生き残るべく動かなければならないわ。そこでエイミー。今の私達に最も必要なものって何だと思う?」
「私はソルダーヌ様さえ生き残っていただければ、それが何よりです。」
極端だな。
「イエールは? どう思う?」
「食料でしょうか? カースさんが居てくれる限り安全面での心配は要らないと思いますので。」
えらく信頼してくれてるんだな。
「そうね。私もそう思うわ。だから上屋敷なのよ。学校で調達できる食料は最早期待できない。私達の魔力庫に残ってる物なんてせいぜいお菓子や甘い物ぐらいじゃない。すぐ無くなって終わりよ。それでもここに居る?」
反対派は黙り込んでしまった。上屋敷の内部の状態ってどうだったっけ? 食料があるかどうかなんてソルダーヌちゃんでないと分からないだろうな。
「それならいいわね? 行くわよ! みんな! 着いたらお腹いっぱい食べるわよ!」
おっ、途端に士気が上がったぞ。これもある種の飴と鞭か。無理矢理行動させるのではなく、問題をしっかり認識させてから行動を促したのか。やるぅー。
さて、私達は現在二列縦隊で屋上から正門に向かっている。先頭は私とアレク、ソルダーヌちゃんは中心辺り、最後尾はパスカル君達が買って出てくれた。
新手でも来ない限り校舎内は大丈夫とは思うが……こんな時こそ出会いたくない相手と出会うものだ。
「貴様ら、辺境派か! ゾロゾロとどこに向かっている!」
「こちら側は我々アリョマリー派の縄張りだ!」
「通して欲しくばソルダーヌが頭を下げろ!」
「へぇ? あなたってソルを呼び捨てに出来るほどのお家柄なのね? 名乗ってご覧なさい。聞いてあげるから。」
「むっ! 何だ貴様! 我々はメギザンデ様の忠臣だぞ!」
「名乗れって言ってるのよ? 分からない? 自分の名前で威張れないの?」
おお、アレクの上級貴族オーラが炸裂しているぞ! かっこいいぜ! 相手は気圧されている。
「じゃあ私から名乗ってあげるわ。我が名はアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル。分家だからと下に見てると後悔するわよ?」
「くっ、アレクサンドル家か! 何年か前に上屋敷を失ったくせに!」
「いくら同じトライAだからって分家が大きい顔するなよ!」
「メギザンデ様に逆らうつもりか!」
どうでもいいけど、今どきトライAと言う奴って少数派なんだよな。もう世間一般ではクワトロAが普通なのに。そんなにアジャーニ家の台頭が気に入らないのだろうか。どうでもいいけど。
「この非常時にこれ以上話してる時間はないわ。通すか通さないのか、性根を据えて答えなさい!」
アレクの一喝。奴らはすごすごと引き下がった。言葉で解決できるアレクは素晴らしい。
「カッコよかったよ。さすがアレクだね。安心して見てられたよ。」
「だってあんな奴らがソルを呼び捨てにするんだもの。腹が立ってしまったの。」
やはりアレクにとってソルダーヌちゃんは大事な友人なんだな。私を共有しようとするほどに。仕方ない、少しだけ前向きに考えようか。
ようやく玄関から外に出られそうという時にボスが出やがった……
「あら? 辺境派のみなさん。どちらにお逃げになるんですの?」
「辺境伯家上屋敷よ。付いて来たいならソルに頼むといいわ。」
「あら? アレクサンドル分家の分際で大きな口を叩きますの。頼みの本家はあの有様ですがどうしますの?」
「用がないなら行くわよ。それとも私の前に立ち塞がるつもり?」
「そちらの魔王の姉には最愛の姉を二人も殺されてますの。貴族の名誉にかけてこのままでは置けませんの。」
「それならカースじゃなくてエリザベスさんに決闘を挑めばいいじゃない。それに貴族の名誉ですって? 笑わせるわね。負けて死んだ者は最早貴族ではないわ。どんな手を使ってでも勝った者、生き残った者を貴族と言うのよ? 知らないとは言わせないわ。」
「くっ、部外者がペラペラと……」
「用がないならもう行くわ。文句はこのアレクサンドリーネに言ってきなさい。」
「せいぜい逃げるがいいですの。一度出て行ったらもうここに辺境派の居場所はありませんの!」
メギ何とかちゃんはアレクに道を譲りながらも強気だ。また、そのセリフを聞いた何人かは絶望的な顔をしていた。学校と上屋敷。広いのはもちろん学校だ。ならば守りやすいのは? たぶん上屋敷だろう。この人数だし辺境伯家の生き残りと協力すれば上手くいきそうなものだよな。
不愉快そうな顔つきで、通り過ぎる私達の行列を睨む彼女。途中でソルダーヌちゃんと一言二言話したようだが。果たして生き残るのはどちらの派閥なのだろうか。それより学校内には他にもグループがあるよな? 私が心配することではないが、協力すればいいのに。
さて、いよいよ校門だ。ファイヤーウォール解除。そして『水球』熱くて通れないからな。
「じゃあアレク、先頭を走ってくれる?」
道をよく覚えてないんだよな。飛んで移動したものだから。
「ええ、全員しっかり私の後をついて来るのよ! 前を見失わないように!」
自然に場を仕切るアレク。みんな素直に頷いている。
そして走り出すアレク。私は久々登場の鉄スノボで空から周囲をチェック。近寄る敵は皆殺しだ。
走り始めて十分前後、 半分を過ぎたか。先頭のアレクが襲われることはないが、列の中程、ソルダーヌちゃんがいる辺りに白い奴らはやって来る。全部狙撃で仕留めるけどね。
そしてさらに十分後、ようやく辺境伯家上屋敷が見えてきた。もう一踏ん張りだ。みんな頑張って。ここまでに遭遇した白い奴らはおよそ百。その数なら私が護衛しなくても問題なかったようだ。
さて、ようやく着いたな。
なにっ!?
最後の最後で問題発生。
辺境伯家の正門が氷で閉ざされていた……
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