そろそろ帰ろう。一応依頼を見ておこう。
依頼なんて受けたこともないし、受ける気もないけどこれも勉強だ。
「カース。」
「あっオディ兄! 帰ってきたの?」
「あぁ、ついさっきね。どうだい? たまにはこっちの食事に付き合わないか? ベレンちゃんがカースにお礼をしたくて堪らないそうだ。」
「そうだね。たまにはいいよね。じゃあ一回帰って夕食いらないって言ってくるよ。どこに行けばいい?」
「もう少し時間がかかりそうだから、ここにしようか。」
私は急いで自宅に帰り、その旨を伝えてギルドに戻る。かなり自由に行動させてらもらってありがたい限りだ。
およそ二十分後、私はギルドに戻った。
ん? 雰囲気が悪いな。何やら揉め事か?
「よく自分の兄を殺した男の息子とパーティー組んでられるよなー。もしかして腰抜けか?」
「やりすぎて腰抜けなんだろうぜ?」
「ひゃっひゃっひゃあ! じゃあ俺も協力してやるぜぇー」
「俺の腰も抜いてくれやー」
なんだこいつら?
無駄に身なりがいいぞ?
私も冒険者らしからぬ服装だが、こいつらほど貴族丸出しではない。
何でこんなあからさまに貴族って服装でここにいるんだ?
まあ関係ないけど。誰かがこいつらに野次を飛ばしたら私も乗ってみよう。
ん? こいつらベレンガリアさんに絡んでるのか? そんなに腕が立つ奴らなのか?
「オディ兄、何やってんの? 僕、お腹へったよ。」
「ほら、ベレンちゃん。カースもこう言ってることだし、行こうよ。」
「ええ、そうね。耳が腐らないうちに行きましょうか。」
「逃げるのかー! やっぱり腰抜けかよ!」
「親父も逃亡したもんな! 情けない一家!」
「今夜のお相手はそんなガキかよー!」
「いいなー俺も相手してくれよ?」
うわー、こいつら正気かよ。
親と家を侮辱するって決闘案件だぞ。何か目的があるのか?
勘当されてはいるが、ベレンガリアさんもキレそうだ。事情も分からず口を挟んでよいものか。どうでもいいや。私は子供だからやりたいようにやろう。
「ねぇねぇお兄さん達ってカッコいいよね。やっぱり貴族なの?」
「ふん、お前のようなガキにも分かってしまうか。如何にもその通り! アジャーニ公爵家に連なる名門スカリョーネ子爵家にその人ありと謳われた蒼槍騎士ドンズマーリに仕えた三剣人こそ我らが祖!」
「ええ!? あの英雄ドンズマーリ様!?」
誰だよ! 知るわけない。どうせ下っ端だろ。
「ふふん、そうよ。恐れ入ったか」
得意げな顔をしていやがる。他の奴らも同様だ。
「すごい! カッコいい! 憧れます! どうやったらお兄さん達みたいに強くカッコよくなれますか!?」
「ふふふ、それは弛まぬ鍛錬、そして才能よ」
「地べたを這いずり回る平民は才能もなく努力さえできん」
「つまり生まれ、我らのように高貴な存在たるには連綿と伝わる血筋こそが肝要よ」
「お前も努力次第では我らのように成れるかも知れん。そのうち胸を貸してやろうぞ」
そのセリフが聞きたかった。
「ありがとうございます! 頑張ります! そんな強くてカッコよくて優しいお兄さんに稽古をつけてもらっていいですか?」
「いいだろう。子供のくせに良い向上心を持っているじゃないか」
こいつらって格下には優しいのか?
「ありがとうございます! じゃあこんな機会二度とないと思いますので、金貨一枚賭けませんか?」
「ほう、やる気だな。いいぞ。ところでベレンガリア! お前は賭けないのか?」
「賭けていいの? アンタに受けられるの?」
「当たり前だ! 好きなだけ賭けるがいい!」
「じゃあカース君に金貨百枚賭けたら受ける? まあ私の全財産は金貨三十枚ぐらいしかないから負けたらアンタの奴隷でいい?」
「ほぅ、思い切ったな。いいだろう、受けてやる!」
こいつベレンガリアさんみたいな子供を奴隷にして嬉しいのか? 怒りでトチ狂って無茶な賭けをしたとでも思ってるんだろうな。
「すごい! 金貨百枚も賭けるなんてお兄さんって豪快なんですね! かっこいい! じゃあ約束ですね。僕達二人の模擬戦にお兄さんとベレンガリアさんの間で金貨百枚、僕とお兄さんの間で金貨一枚を賭けるってことでいいですか? ベレンガリアさんも?」
「いいわよ。っあくっ!」
「ああ、いいぞっぼゅ! まさか今の魔力は……」
「もちろん契約魔法ですよ。言い忘れてましたけど、俺は『金貸しカース』。もし金貨百枚持ってなかったら貸してやるから心配するな貧乏貴族よぉ。」
「貴様騙したな!」
「ド平民が!」
「恥を知れ!」
「豚の餌にしてくれる!」
「訓練場に行くぞ。怖いなら逃げてもいいぞ。腰抜け共。」
あー、いつもながらここまでが長いんだよな。約束をしてもらわないと何もできないもんな。
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