私とスパラッシュさんは大声を出しながら城門を叩く!
「緊急です! 開門願います!」
「何事だ! 夜間は開門できん!」
城壁の上から騎士が声をかけてきた。
「緊急です! メイヨール卿かどなたか責任者を呼んでください! 私はカース! アラン・ド・マーティンの三男です!」
「しばし待たれい!」
これなら問題なく話が進みそうだ。
「カース君か? こんな時間にどうしたんだい!?」
「おじさん! ヤコビニ派の首魁を捕らえて来ましたので引き渡します! 首実検してやってください。」
スティード君のパパだ。
「何ぃ!? 本当に!? 賞金をかけたばかりだぞ! ま、まあいい、調べれば分かることだ。城門は開けられないから上がってきてくれるかい?」
そして私は城壁の上に奴らを降ろした。
「こちらのスパラッシュさんの活躍が大きいんです。しっかり聞いてあげてください。」
「六等星スパラッシュ・ハントラでごぜぇやす。たまたまあっしの情報網に引っかかりやしたもんで、カース坊ちゃんの力でドナハマナ伯爵領はラフォートまで行って参りやした。捕らえたのはヤコビニ本人、二男と四男。そして蟻事件の時の偽勇者でさぁ。あの時の奴かは分かりやせんが、そこは騎士団にお任せいたしやす。」
「あい分かった。取り調べ後、賞金の引き渡しとなる。楽しみにしておくがいい。カース君もご苦労だった。まさかこんなに早くヤコビニを捕らえるだなんて……」
ふふふ、これで白金貨五枚か。金貸しの資金としては充分過ぎる。むしろ働く必要すらないな。細々と金貸しをやりながら気ままに生きよう。アレクと旅に出る日も楽しみだ。今回は目立たないようコーちゃんを置いてきてしまったからな。旅に出る時は絶対一緒に行こう。
それにしても速攻でカタをつけたせいか凄腕の用心棒とかが出て来なくてよかった。偽勇者の防御の堅さには驚いたが。なぜ鉄をも溶かす私の火球をくらって『熱い!』で済むんだよ! 偽勇者のくせに!
スパラッシュさんがどうやって奴らを制圧したかは今度じっくり聞かせてもらおう。手際が良過ぎるだろ。敵だらけの中でどうやって見つけてどうやって生け捕りにしたんだ?
さて、今日は学校をサボってしまったし、母上にも何も言わずに出てしまったからな。急いで帰ろう。
「ただいまー! 遅くなってごめんね。」
「おかえり。どこに行ってたの? 少し心配したわよ。昨日ギルドに行くって言ってからそれっきりなんだから。」
「ごめんね。父上は?」
「昨日から帰ってきてないわ。カースと同じね。」
「そっか。なら父上には言わなくても分かるかな。さっきラフォートから帰ってきたんだよ。スパラッシュさんとヤコビニを捕まえてきたの。」
「え? 何ですって? ヤコビニ?」
「そうそう。スパラッシュさんが情報を掴んだらしくてね、一緒に取っ捕まえてきた。賞金が欲しくてね。」
「相変わらず驚かせてくれるのね……あれだけ辺境を苦しめたヤコビニ派もお終いなのね。」
明日アレクにも話してあげよう。きっと驚いてくれるだろう。あっ、循環阻止の首輪を回収するのを忘れてた。またでいいか。
その頃、代官府では代官と騎士長が話し合っていた。
「ヤコビニ本人に間違いないようだな。たった二人でラフォートまで行って捕らえてくるとは……カース君の行動力も恐ろしいが、あの冒険者の情報網、そして手腕も恐ろしいな。彼だからそうなのか、クタナツ冒険者なら当然なのか……」
「カース君は賞金、冒険者は名誉と村を求めているそうです。どのように発表するかは二人とよく相談してからがよいでしょう。」
そしてヤコビニ達は薬物と尋問魔法により洗いざらい自白させられていることだろう。今までたくさんの尻尾を切り捨ててきたのだろうが、ついに自分の番が来たということだ。
取り調べの結果、様々な事実が発覚した。
・偽勇者は自分を勇者と思い込んでいる半ば狂人だった。腕と頭は確かなので強力な鎧を与えて重宝していた。
・蟻事件や百二十人殺しも偽勇者主導による。搦手から攻めるのが得意だが、自分の手で騎士を五人は仕留めた。
・ムリス逐電事件の金貸しとは別人。その金貸しシンバリーは王都を拠点にしている闇ギルドの人間。
・何年か前の大襲撃は実験中の失敗。魔物達を統率して大軍団を作る目的だった。『パラシティウムダケ』の性質に目をつけたのはよいが、扱いきれず試行錯誤を繰り返しているうちに外に漏れた。
・実験場所はグリードグラス草原とヘルデザ砂漠の間ぐらい。オースター海に面した岩山の洞窟内を改造して使っていた。
・キメラブラ、若木大発生の件は偶然。クヌゥギもラフレシアンヒドラも実験には使っていない。なぜそうなったのか分からない。
・そもそもの目的は辺境を丸ごと乗っ取り新しい国を起こすこと。辺境の魔物達を統率すればそれが可能になるはずだった。
・貴族が平民をどう扱おうが自由。我々の娯楽のために標的になれたのだから名誉なこと。何の価値もない平民の人生で偉大な貴族の役に立てたのだから喜ぶべき。
・長男マクシミリアンがいる。やつならきっと自分の意志を継いでくれる。こんな野蛮な辺境など一飲みにしてくれる。
一方、偽勇者が自白した内容は。
・自分はムラサキ・イチローだ。
・自分に任せれば魔境の開拓など瞬く間に終わるのに、そうしない奴らは無能だ。
・クタナツ騎士団は最強だと聞いていたのに弱かった。でも五人斬った時点で疲れたので残りは勘弁してやった。
・転進したらまんまとついて来たのでことごとく罠にかけてやった。所詮騎士なんてあんなもんだ。
・あのガキは何者だ、勇者である自分より強いなんて有り得ない。きっと魔王だ、早く殺さなければ王国に厄災をもたらす。
・自分を自由にしたらやってやる。油断しなければ魔王なんかに負けない。自分は最強の勇者だ。何なら代官に仕えてもいい。
「世の中には色んな人間がいるものだな。勇者に憧れる者はたくさんいるが、まさか成り切ってしまう者がいるとはな。いや、成り切れてはないのか。実力的に無理なものは無理か。」
「御意。ヤコビニと偽勇者、嫌な組み合わせでしたな。しかしこれで辺境もすっきりしたことですし、草原の街の建設に弾みがつきますな。サヌミチアニは辺境伯が奪還してくれることでしょう。」
「うむ、王都の闇ギルドの件が残ったが、あちらのことはあちらに任せよう。無論、賞金はかけるがな。残った家族の賞金もそのままだ。このまま根絶やしにしてくれる。」
「御意。それがよろしいかと。それにしても……カースが魔王ですか。魔女の息子が魔王とは、言い得て妙ですな。魔女殿から聞きましたが、彼は勇者が大好きだそうです。皮肉なものですな。」
「意外と正しいのかも知れんぞ? 辺境伯の時も今回も、彼に狙われたら助からないことが分かってしまった。剣鬼殿に狙われても同じかも知れんがな。騎士長、卿はいずれ彼の義理の父となるのだろうか……」
「……はは、そうなる可能性が高いかと……娘がいてよかったですよ。あれほどの男を他の街に取られなくて……」
代官と騎士長の眠れない夜はまだ続く。
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