王妃一行が帰った後、庭でそのままティーパーティーとなった。おばあちゃんも伯母さんも、そして使用人のみんなも相当疲れたことだろう。おばあちゃんの一言でみんな集まって庭でわいわい楽しんでいる。その間をラグナが紅茶を注いでまわっている。今日の初仕事だな。
私達とおばあちゃん、伯母さんは同じテーブルに集まりお喋りをしている。
「すごいものをいただいたわね。それはオリハルコンと言ってね、勇者の血を引く王族にしか錬成できないと言われている金属よ。」
ほぇ〜言われないと銀の指輪にしか見えないよな。ファンタジー的にオリハルコンと言えば永久不滅、神の金属ってイメージだけど、王族なら作れるのか。すごいもんだな。
「その程度の量だと指輪以外に使い道はないのだけど、いただけることが名誉なの。」
確かに主婦が普段身につけていそうな薄くて飾り気のない指輪だもんな。見る人が見れば価値が分かるタイプなのかな。手綱を付けられるわ指輪を嵌められるわ散々だな。でも全然悪い気分ではない。
この国には結婚の証に指輪を交換する文化なんてないから、何指につけても構わない。だが……指輪として使用するよりも……
ちなみにアレクの薬指にはその時に指輪を贈るつもりだったりする。
「すっかり首に鈴を付けられちゃったわね。」
「え? どういう意味?」
サンドラちゃんの発言に聞き返すスティード君。
「この指輪を付けていると、ある探知魔法で居場所が簡単に分かってしまうのよ。私のような非力な人間にとっては重宝するわね。」
「あぁ、サンドラちゃんの安全保障をお願いしたからかな。さすが陛下だね。」
ちなみにこの逸話の元ネタは猫の首に鈴を付けるネズミではない。オーガの首に鈴を付けるゴブリンだったりする。似たような話なんていくらでもあるもんだよな。ところでサンドラちゃんは前日に申請すれば騎士の護衛まで付けることができるようだ。国王との約束が有名無実とならなくて何よりだ。
居場所を探知されるのが嫌なら魔力庫にでも収納しておけばいいだけなので、やはり貰って損はない。売ってもいいしね。とことん私達に気を使ってくれる国王だな。関所破りをする時だけは気をつけよう。
ところで、おじいちゃんや伯父さんが家に王妃が来たって知ったらびっくりするだろうな。来ると分かっていれば一家全員で歓待って話になっただろうし。今夜の夕食が楽しみになってきた。それまでは何して遊ぼうか。
「ピュイピュイ」
え? これが欲しいの? コーちゃんが欲しがるとは珍しい。もちろんあげるとも。さすがに首にはサイズが合わないか……金操で無理矢理広げてみる。さすがにオリハルコンの指輪はミスリルよりもかなり硬い。コーちゃん少し待ってね。
「カース何やってるの?」
「コーちゃんがこの指輪を欲しがってるからサイズを調節してるんだよ。コーちゃんの首に合うようにね。」
だからってあまり力を入れすぎると弾けてしまいそうだしな。慎重に慎重に、コーちゃんのサイズに合わせよう。尻尾に付けたら無くしそうだしね。
難しいな。こうなったらミスリルの要領だ。指輪自体に魔力を込めまくって……温度も上げて……内側から均等に力を入れる……
いつの間にか庭にいる全員が私に注目している。ついついコーちゃんに請われてやってしまったが、これって不敬か? いや、構いはしない。コーちゃんは私、私はコーちゃんなのだから。精霊とオリハルコン、きっと縁起のいい組み合わせに違いない。
それにしても硬いな。どんだけ魔力を食う気だよ。汚銀と違って吸収してるって感じがない。食ってるって感じなんだよな。生意気な金属め。
ようやく少し広がったぞ。目算で三ミリ。まだまだだな、後八ミリぐらい……
温度も超高温のはず、鉄なら蒸発してるんじゃないか? なのに見た目には赤くもなってない。これがオリハルコンか……
こうなったら意地だな。とことんやってやる。点火に金操、錬魔循環に魔力放出。ゴリ押し中のゴリ押しだ!
できた!
「ピュピュイピュイピュ!」
直径およそ三センチ! コーちゃんの首のサイズだ! 喜んでくれているなぁ。頑張ってよかった。
コーちゃんて出会った頃からサイズが変わってないんだよな。あんなに大食いなのに。
お、おいコーちゃん、まだかなり熱いから触っちゃだめだよ。冷えるまで待っててね。
「ピュイッ!」
え!? 待ってよ! 危ない!
コーちゃんは何千度あるかも分からない高温の指輪、いやもう首輪か、に首を突っ込んだ。穴があるから入るんだと言わんばかりだ。
「ピュイーピュピュイー」
熱くて気持ちいい? 肌が焼ける感じが最高? お湯は好きじゃないくせに。
オリハルコンの首輪はコーちゃんの皮膚を焼き付けて、まるで一体化したかのように見えている。コーちゃんの首周りに一筋の光輝くラインが煌めいている。かなりオシャレだな。まるでオリハルコンのピアス? インプラント? どちらにしてもコーちゃんにしかできないワンオフ物だな。
「ピュイピュイピピッピ」
ふふ、喜んでくれて私も嬉しい。同命の首輪と合わせてコーちゃんの首回りを彩るアクセサリーの出来上がりだ。
「オリハルコンを加工できるのは王族だけって聞いたばかりなのに、カースったら。」
「加工はできるんじゃない? 錬成が王族にしかできないんだよね? 実はこっそり鋳潰して弾にしようかとも思ってたんだけど、珍しくコーちゃんが欲しがるからさ。仕方ないよね。」
「せっかくカースに鈴を付けたと思ったらそれって、王妃殿下もガッカリなされることでしょうね。」
「あはは、ごめんなさいおばあちゃん。コーちゃんが欲しがったもので。」
そうなんだ。コーちゃんが欲しがったんだから仕方ないんだ。私は悪くない。
まあ各種許可証であれこれ首輪をされたようなものだし構わないだろう。公式行事で付けられなくなってしまったのでその時はコーちゃんに同席してもらおうか。
戦利品は……
・都市型結界魔方陣の実装許可証。有効期限は現国王が存命する限り。
・国王直筆による金貸し許可証。文面はクタナツ代官や辺境伯からもらったものと同じ。
・楽園の免税許可証。これってタックスヘイブンだよな?
・国王直属の身分証明書。まだ貰ってはないが、ローランド王国と国交がある国で動く際には便利だろう。直属ってのが気にはなるが下っ端扱いされるよりは良いだろう。
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