護衛のジャンヌを引き連れ会場へと戻る。秘書はリゼットについておくようだ。
「なあ護衛さん。俺を疑ってるよな? 会長に何か怪しいものでも飲ませたんじゃないかってな?」
「いえ、そんなことはありません。ただ、真実が知りたいだけです。」
しかしその目は犯罪者を疑う目つきなんだけどね。
「そもそも、いきなり来たのもリゼットの意思だよな? ついでに言うと隠しておいた酒をわざわざ見つけて止める間もなく飲んだのはリゼットだからな。後で本人から確認するといい。」
「そうです。会長が突然身支度を始めたと思ったら行先が辺境伯家とは、驚きでした。もちろん会長の口からも確認は取るつもりです。」
「そうしてくれ……」
全く……さて、着いた。飲み直しだ。
「カースおかえり。わざわざありがとう。」
「いいよ。代わりにリゼットの護衛が来たよ。リゼットが何を飲んだのか確認したいんだって。」
「あらそう? ちなみにダミアン様とラグナも飲んで吐いて倒れたわよ。」
あいつら……
「はは……まああいつらのことは放っておくとして。ジャンヌだったか、これは俺専用の魔力ポーションみたいなもんだ。他者が飲むと拒絶反応らしきものが出るらしい。スペチアーレ男爵が飲んでもだめだった。」
「は? これが、ですか?」
「言っとくけど飲むなよ? 俺からすると無味無臭なのに他者が飲むと吐いて倒れるんだからさ。」
我ながら意味不明だな。少しだけ汲んで匂わせてやるけど。
「確かに……匂いはしませんね。」
「それは持って帰っていい。秘書とリゼットによろしくな。そろそろ注文してたやつも出来る頃だろうしな。」
「分かりました。この場は引きましょう。では、これにて。」
そう言ってジャンヌは会場から出て行った。全く、私の親切を何だと思ってるんだ。
「カース、大変だったようね。ありがとう。」
「いやいや、全然たいしたことなかったよ。さあ飲もうよ。」
そう言えば今夜のアレクは酔ってるように見えないな。普段はすぐ酔うのに。
「カース君は楽園もあるし山岳地帯には行くし、もう理解を超えちゃってるよね!」
「そう? セルジュ君こそ見様見真似でよく『狙撃』を使えるようになったよね。びっくりしたよ。」
「だってあの魔法って『氷弾』や『水弾』とは桁違いの威力なんだもん。覚えて損はないよね。」
「セルジュ君が使えるのに私が使えないのは悔しいわね。今に見ててね。」
アレクが燃えている。アレクならきっとできるさ。
こうしていつものメンバーでわいわいお喋りしていると。
「カース君、さっきはすまなかった。色々あってな……」
アイリーンちゃんがやって来た。ようやく起きたのか。
「悩んでいるらしいね。ベルベッタさんってその辺どうなの?」
アイリーンちゃんの目標であり叔母でもあるベルベッタ・ド・アイシャブレ。二つ名は『魔槍』だったかな。
「う、うむ、叔母様とは一緒にお風呂に入ったこともあるが、それはもう見事に引き締まった胸をしておられた。私は自分の胸が……憎い……」
「バラデュール君、そうなの?」
こんな場所で貧乳をバラされるとは……ベルベッタさんも可哀想に。まああの人は美脚が有名だしね。で、バラデュール君は知ってるんだよな? アイリーンちゃんのサイズを。
「あ、ああ。大きくなっている。さすがに、そ、その、アレクサンドリーネ様とは比べられないが。そのせいで動きのバランスが崩れているんだ。」
アレクは制服の上からでも分かるもんな。しかしこの会話は完全にセクハラだな。だが誰一人として不快に思ってないのもすごいな。
「カース君、助けてくれ! アレックスは困ったことがあればカース君に相談するといいと言った! 困っているんだ!」
「アレク、言った?」
「たぶん言ったわ。かなり昔のような気もするけど。大丈夫?」
「うん。アイデアがあるよ。アイリーンちゃん、ベルベッタさんと戦ったゴモリエールさんって知ってる?」
「も、もちろんだ。我が身を犠牲にしてまで叔母様と互角に戦った腕前は聞いている。その方がどうしたんだ?」
「あの人って巨乳だよね。それなのに体一つで戦ってるよね。ベルベッタさんとの対戦を見たけど、すごい動きだったよ。」
「それはそうだろう……」
「だからゴモリエールさんに相談してみたらどう? クタナツに行くか、ギルド経由で依頼を出してみるとかね。」
バーンズさんだって領都に来たりするんだし、ゴモリエールさんを依頼で領都に呼ぶことは可能だろう。引き受けてくれるかどうかは別として。
「なるほど……いや、さすがカース君だ。私では全く考えもしなかったアイデアだ。費用がいくらかかるかは分からないが、まずは動いてみようと思う。ありがとう!」
エロイーズさんも同じく巨乳で動きが鋭いんだよな。でもあの人は鞭がメインだしね。全体的な体術ならやはりゴモリエールさんだろうな。
でも改めて考えると、この問題って女性戦士あるあるなんじゃないかな?
それともアイリーンちゃんぐらいのハイレベルな人間でないと気付きもしないとか? 私も人の心配をしている場合じゃないんだよな。もうそろそろ魔力が伸びなくなるだろうし、今以上強くなるためには剣術などの体を鍛えないといけないよな。成人したことだし、頑張るとするかね。
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