異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

204、カムイとコーネリアス

公開日時: 2022年1月14日(金) 10:02
文字数:2,012

村に戻ったマリーは早速蟠桃の実を絞ってみる。まずは半分だけを使用して。

それをほんの少し、一、二滴だけカースの口に含ませてみる。するとどうだろう。カースの喉が動いたではないか。これなら上手く行くのではないか、そんな希望が生まれた。


マリーは残り半個も絞って少しずつカースに飲ませていく。動く、やはりカースの喉が動いている。マリーの判断は正しかったのだ。


ちなみに果汁の絞りカスはカムイとコーネリアスが喜んで食べている。


やがて実一個分の蟠桃の果汁を全て飲みきったカース。ほんの少しだけ顔色がよくなった気がするのはマリーの勘違いではないはずだ。


残りの蟠桃は三個。それまでにカースは目覚めるのだろうか。マリーは一日一個ほど飲ませるつもりだが、それでも目覚めなかったら……再び行くしかない。怒れる魔猿が待ち受ける地獄の淵へ……




そのままカースは目覚めることなく二日が過ぎ、そして明日には最後の蟠桃を使わざるを得ない……そんな夜遅くのことだった。


ドムン、と何かがぶつかるような音がイグドラシルの方から聞こえてきた。

静かな夜でなければ聞き逃したかも知れない程度の音だった。


カースの世話で起きていたマリーは胸騒ぎを覚え、音がした方へと向かってみる。

すると、そこに横たわっていたのはエリザベスだった。


「お嬢様!? お嬢様! しっかりしてください!」


「おいおいマルガレータ。怪我でもしてるんじゃないか? 手当てしてやったらどうだ?」

「そうそう。人間はバカだからな。こんな夜に飛ぶからこうなるのさ」

「しかしこいつはツイてるんじゃないか? もしぶつからなかったらどこまで行ったんだろうな?」


このタイミングで村へ舞い戻ったエリザベス。果たしていいタイミングだったのか、そうでもなかったのか。





エリザベスは酷い怪我をしていた。イグドラシルにぶつかっただけではない、きっといくつもの魔物に襲われたのだろう。それでも方向を見失うことなく、フェアウェル村を目指して飛び続けたのだろう。

しかし普通の怪我ならいくら酷くてもマリーの手持ちのポーションと治癒魔法、回復魔法で治すことができる。




そして翌日の昼、エリザベスは目を覚ました。


「お嬢様。お加減はいかがですか?」


「マリー……? ここは……私……やっと戻って来れたのね……」


「ええ、よくお戻りいただきました。ですが坊ちゃんはまだ……」


「そう……これを試してみて……母上や母上の実家から秘蔵のポーションを貰ってきたの……」


「なるほど……これはいい物ですね。幸い坊ちゃんは無意識ですが飲み物を飲める状態になりました。これなら上手くいくかも知れませんね。」


マリーは最後の蟠桃の半分を絞り、そこに同じ量のポーションを注ぐ。少しだけ飲んでみたが、やはり蟠桃の甘みは強烈だ。これならカースも吐き出すことなく飲んでくれるのではないだろうか。


一滴ずつ、カースの口内にポーションカクテルを注ぐ。カースの喉が動く。問題なく飲んでいる!


残り半分はまだだ。ポーションと混ぜているため一気に飲ませるわけにはいかない。様子を見ながら時間を置いて飲ませる必要があるのだ。


「ねえマリー。こっちの魔力ポーションは使わなくていいの?」


しっかりと目を覚ましたエリザベスが問いかける。


「ええ。どういうわけか今の坊ちゃんからは魔力が感じられません。ですから魔力に影響を与えるポーションを飲ませるべきではないかと。」


「そうね。妙な状態だけど、顔色は良くなってるわね。」




そして同日深夜。


「これが最後の蟠桃です。これを使っても目覚めないようであればお嬢様、私と二人で採りにいきますよ。」


「ええ、マリーとなら怖いものなしよ。」


そして昼間と同じようにポーションカクテルを作り、カースに飲ませようとした。


その時……


「ピュイピュイ」


なんとコーネリアスが容器に首を突っ込み全部飲んでしまったではないか。


「コーちゃん……何てことを……」

「このクソ蛇、何やってんのよ!」


絶望的な表情を浮かべるマリー、怒りを露わにするエリザベス。しかしコーネリアスはどこ吹く風といった表情のまま、頭をカースの口に突っ込んだ。


そのままスルスルと奥に入り込む。


「え、コーちゃん? 何を?」

「カースに何するのよ!」


五十センチも体が入っただろうか。静止すること十数秒。それからコーネリアスは体を引き戻した。


「ピュイピュイ」


どことなく満足そうな顔をしてマリーを見つめるコーネリアス。一体何をしたのだろうか?


「これで坊ちゃんは助かるのですね?」

「嘘!? ホントに!?」


「ピュイピュイ」


もはやドヤ顔と言っていいかも知れない。そんな表情で鎌首を縦に振ったコーネリアス。それからカースの体の上でトグロを巻き、眠ってしまった。


その隣にはカムイも横になっている。


「お嬢様はもう休まれてください。後は私が見ておきますので。」


「そう、悪いわね。じゃあ休ませてもらうわ。おやすみ。」


コーネリアスは一体何をしたのだろうか。

カースの命運はいかに。

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