自宅にてダミアンとお喋りをしていたら、アレクとコーちゃんが帰ってきた。わずか数時間ぶりなのに再会が嬉しいな。
「ただいま。いつも暇そうな方がいますね。」
「ピュイピュイ」
「おかえり。もうすぐ夕食だよ。」
「おう、俺は暇だからよ。」
タイミングのいいことに、サンドラちゃん達も帰ってきた。
「ただいま帰りました。あら、カース君にアレックスちゃん。帰って来てたのね。」
「やあカース君。さすがに今から狼ごっこはできないね。」
「アレックスちゃんも元気そうだね。カース君、夕食の後で軽く稽古なんてどう?」
「おかえり。しっかり楽しんだみたいだね。セルジュ君、残念ながらそれはまただね。スティード君、いいとも。ぜひやろう、むしろ僕の型を修正してよ。」
「三人ともおかえり。私は元気よ。みんなも変わりないようね。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「さあさあ、夕食ですよ! たくさん食べてくださいね!」
マーリンとリリスが料理を運んで来た。リリスが役に立ってそうで一安心だ。これだけの人数がいたらマーリン一人では大変だもんな。
ちなみにダミアンは当主が座る席に座っている。まあ私はアレクと並んで座りたいから全然構わないんだが。こいつもホント変わってるよな。私達みたいな子供と遊んで面白いのか? 私は面白い。
「おうカース、飲むか?」
「これは?」
「飲みてーって言ってただろ? スペチアーレシリーズだぜ? 『ドルベン・スペチアーレ』の十五年物だぁ。」
「へー、飲んだことないや。飲む飲む。」
ぐへっ、舌を刺すような刺激。強烈な炭酸か。例えるならスパークリングアブサンってとこか? 癖になりそう。
「どーよ? うめーだろ?」
「旨い。『ディノ・スペチアーレ』の方が好きだけど、これはこれで癖になりそう。セルジュ君……はダメだったね。スティード君どう?」
「じゃあ一口だけ。お酒って飲んだことないんだよね。」
コップを手渡す。
「うへぇー、こんなにキツいんだね……よく飲めるね……」
あー、ストレートじゃあキツいか。ならば。
『氷球』
酒に球体の氷を落とせば気分はバー。これなら少しは飲みやすくなるかな?
「あ、口当たりが変わった。これはいいね!」
「おいカース、その氷俺にもくれよ。」
「自分でやれよ。オメー氷の魔法は超得意なくせに。」『氷球』
まあ作ってやるけどね。
「ありがとよ!」
あ、いいこと思いついた。
「ねぇマーリン。果物は何かない?」
「ありますとも。お持ちしましょうか?」
「お願い。絞り汁にして持って来てくれる?」
「かしこまりました。」
ふふふ。
「カース、何するの?」
「うふふ、まあまあ。お楽しみってことで。ダミアン、癖のない酒持ってないか?」
「癖のない、かぁ……これなんかどうだ? 『ライブラ・ショウハ』最近売り出し中の酒造家『バトマ・ヘルシンキ』の酒だ。スペチアーレ男爵の弟子らしいぜ。」
「どれどれ……うん、普通。」
当たり障りのないウォッカのような味わい、これなら丁度いい。
「はーい坊ちゃん、お待たせしました。オランゲの実とグライプの実、それからニセペイチの実を絞っております。」
「うん、ありがとう。」
『氷壁』
シェイカーなんてないから同じものを氷で作ってみた。まずはライブラ・ショウハ、次にオランゲの実の絞り汁を入れて、投入口を塞ぐ。そしてシェイク。風操を使い縦横無尽にリズミカルに混ぜる。もういいかな。
「よしアレク、飲んでみて。」
「うん、ありがとう。いただきます。」
透明なグラスが欲しいな。確か王都にならあるはず。かなり高いって話だよな。でも陶器でカクテルってのもなぁ……今まで酒をカクテルやロックで飲まなかったから全然気にしてなかったんだよな。
「美味しいわ……すごくスッキリしてる。オランゲの実の甘さや酸味とお酒の風味が一体となっているのね。そしてこの冷たさ、夏にはピッタリね!」
「よかったよ。サンドラちゃんも飲んでみる?」
「ええ、いただくわ。」
「俺にもくれよ!」
ダミアンは最後だ。これは楽しい夜になりそうだ。
セルジュ君はテーブルに突っ伏して寝ている。
スティード君は部屋の隅で素振りをしている。手に持っているのは、私の剣。フェルナンド先生に貰った自称安物の剣だ。フォークで素振りを始めたものだから貸してみたのだ。
サンドラちゃんはカムイに抱き着いて何やら話しかけている。ぶつぶつ言ってるが全然聞き取れない。
ダミアンとコーちゃんはお喋りしながら酒を飲んでいる。まあダミアンがグチグチ何かを言ってはコーちゃんがピュイピュイ言うだけなのだが。
アレクは私に甘えている。背中に抱き着いたり、膝に頭を置いたり、お腹に顔を擦り付けたりしている。かわいい。普段ならこのまま即、寝室に行くところだが、今夜は違う。面白そうだから観察しているのだ。
「リリスも飲んでみるか?」
「いえ、とんでもありません。」
部屋の隅に待機しているリリスに問いかけてみた。
ちなみにマーリンは今夜はもう帰ってしまってる。フレックスなんだよね。
「普段夕食は何時ごろ食べてる?」
「お客様やダミアン様が食べられた後です。」
「そういや、ダミアンの奴ってもうずーっとここに居んの?」
「私がここにお世話になってからはずっといらっしゃいます。時折お客様もお越しになりますし、昼間はいらっしゃらないことが多いです。」
変な奴。自分で居候って言うぐらいだしな。
おっと、アレクめ今度は私の頬についばむように唇を当ててる。かわいい。
「夕食がまだなら食べるといい。特に今夜の料理はヒュドラだからな。滅多に食べられないご馳走だぜ?」
「畏れ多いことです。私はメイド用の賄いをいただきます。」
「賄い? マーリンはメイド用の食事を別に用意してるのか?」
「いえ、マーリン様からは同じものを食べてもよいとお聞きしております。」
だよな? たまに私達と同じテーブルで食べるぐらいなんだから。
「それなら食べればいいだろうに。用意が面倒じゃないか?」
「いえ、主従のケジメは大事かと。マーリン様やお坊っちゃまの方針に異議を唱えるつもりはございませんが。」
まあいいか。しかしアレだな……坊ちゃんとは言われ慣れたが、お坊っちゃまは嫌だな。
「リリス、命令。お坊っちゃまはやめよう。せめて坊ちゃんにして。」
つーか、こいつ昼間は普通に『坊ちゃん』と呼んでたよな?
「畏まりました。」
確かに私の魔力庫の中身を考えると、歩く身代金と言ってもおかしくないぶぁい。へけっ。
「それからこれ、小遣い。貯めるなり使うなり好きにするといい。」
「ありがとうございます。私などにもったいないことです。」
まあ銀貨二枚だけどね。
「まあ、マーリンが楽できるよう助けてやってくれ。」
「畏まりました。」
みんな動きがないなぁ。スティード君はずっと素振りしてるし、セルジュ君は起きない。
サンドラちゃんはカムイの毛に顔を埋めてグリグリやっている。ダミアンとコーちゃんは変化なし。アレクは私の腰辺りに抱き着いて寝てしまった。ふふ。私達も寝ようかな。
「じゃあ寝るわ。リリスも休んでいいぞ。ここは放っておけばいい。ダミアンとコーちゃんに混ざって酒を飲んでもいいけど。おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
アレクをお姫様抱っこで寝室に連れて行く。今夜はこのまま寝るとしようかな。体は洗浄の魔法できれいにしておいてあげよう。
明日は王都か。
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