夕食。メイヨール家のメニューは肉が多いことが特徴だ。
今夜は何肉だろう。
「おば様、先日といい本日といいご馳走になります。僕、ここのお肉大好きです。」
「まぁカースちゃんたら嬉しいこと言ってくれるのね。たくさん食べて大きくなるのよ。」
「はい! いただきます!」
今夜の食卓は……おば様、スティード君、妹二人、そして私の計五人だ。
やはり騎士であるおじ様は大変なんだろうな。どこも一緒か。
「カース兄ちゃんと兄上ってどっちが強いの?」
「ステラちゃんさー、そんな分かり切ったこと聞かないでよー……スティード君に決まってるよ。」
妹で長女のステラちゃん。確か三つ下かな。
「えー? 兄上はカース兄ちゃんって言ってたよ?」
「ええー? スティードくーん、嘘はよくないよー。恥ずかしいじゃないのー。」
「いやいやこの前の決闘を見てしまったら百人中百人がカース君って言うよ!?」
「あぁ、魔法ありで? それなら確かにそうかな。でも剣だけなら間違いなくスティード君だよ。さっきの稽古もすごかったよね。指摘が的確でさ。」
「あの決闘は本当に凄かったよ。いつ魔法を使ったのか全然分からなかったんだから。」
「あれは結構練習したからね。お陰でさっきみたいにすぐ服が乾かせるよ。便利!」
でも乾燥魔法でフェルナンド先生に勝てって言われたら無理だよな。つーか近寄ったら負けだよな。離れてても勝てそうにないけど。
食後の休憩をして夜の稽古へと入る。
一体どんな稽古なんだ。
「さて、泊まってもらって夜に稽古をしたかったのは半分僕の都合なんだよね。夜でも戦えるようになりたいんだ。僕はこの目隠しをするからさっきみたいに互格稽古をしよう。」
「なるほど、心眼だね。使えたらカッコいいよね。」
「やっぱり知ってるんだね。早くから始めた方が有利だからさ。カース君も薄暗い中で見る特訓に丁度いいよ。」
さて、外は星明かり。薄暗いが私からは見える。スライムソードで後ろから頭を叩いてみる。
当たった瞬間スティード君のスライムソードが私を襲う。ギリギリで避けることができた。これはお互いにいい稽古だ。
どんどん反射神経がよくなる気がする。
足も狙う。向こう脛を叩いてみる。
蹴りが飛んできた。危ない。早くも剣に拘らない境地に達したのか。
こちらが何もしなくてもだいたいの見当をつけて襲ってくる。普通見えないと怖くて動けないはずなのに。この思い切りの良さは、今日が初めてではないのか……
ここまでできるスティード君でも秋の大会は優勝できなかったのか……
さすが辺境、レベルが高い。
「よし、じゃあ交代しようか。今度はカース君が目隠しね。」
夜も更け、先ほどより暗くなっている。
これは私に少しだけ有利なのか。
「やってみる。ドキドキするよ。」
魔力探査や範囲警戒を使うのはダメだな。
自力で気配を感じねば。
無理、何も分からん。
しかも怖い。いつどこから攻撃が来るのかさっぱり分からん。
怖すぎる。
痛っ、肩を打たれた。
次は腿。
地味に痛い。
なぜ足音すら聞こえないのか……
達人じゃないか。
小手を打たれた、全然痛くない。
即反撃。
手応えあり!
コツが分かってきた。
でも気配は分からない。
向こう脛を打たれた。
スイカ割りの要領で反撃、手応えなし。
目隠ししたまま蹴りは無理だ。転けてしまう。
背中を打たれた。
反転して横薙ぎ、手応えなし。
しかしそのまま反対向きに再度横薙ぎ。
手応えあり、そのまま手を止めず打ちまくる。何となくそこにいるんじゃないかと分かる。
手を止めると反撃されそうなので、息が続く限り打ちまくってやる。
うっ、全然手応えがなくなった。
逃げられた!
かなり疲れた……
構えるのが辛くなってきた……
ぐわっ、鳩尾に突きかよ!
容赦ないな。
スライムソードなもんで苦しくないからいいけど。
「よし、ここまでだね。」
「ふー、これは難しいな。いい稽古になるね!」
「これは同じぐらいの相手がいないとやりにくいんだよね。カース君が来てくれてよかったよ。」
「僕も来てよかったよ。あっ、母上からこれを貰ってきた。疲れたら二人で食べなさいって。」
そう言って私はペイチの実を渡す。
「ペイチの実!? すごいね! よくそんな物を持ってるね!」
「これ美味しいよね。いつかこれを飽きるほど食べたいよ。兄上はこれを結構たくさん食べてるんだよ……僕は一個だけだったんだ……」
星を見ながら小さい時の思い出話。
これも間違いなく青春。
このように私は春休みの間、一泊二日で何回かメイヨール家で合宿をするのだった。
ちなみにスティード君曰く、心眼の稽古は型が崩れるから翌日の稽古をさらに熱心にする必要があるらしい。
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