異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

128、事件の真相

公開日時: 2021年3月8日(月) 10:58
文字数:2,538

この度の蟻事件、原因はやはり冒険者であった。どうせ新人の仕業かと誰もが考えていたところ、他所のパーティー二組がやらかしていたのだ。


バランタウン側の原因となったのは領都の結成五年になるパーティー『パンクラスタ』。彼らはクタナツで一旗あげることを目標に日々励んでいた。

そんな時、開拓の話を聞き勇んでやってきたのだが、グリーディアントの獲物に手を出してしまった理由は……無知ゆえだった。

彼等は蟻の習性を知らなかったのだ。

しかしクタナツに生きる者、そして冒険者としても知らなかったでは済まされない。全員奴隷役三年の刑となった。ただしこのまま開拓業務に従事し、働き次第ではそれより早く解放されることも有り得る処置となった。




クタナツ側の元凶となったもう一組は厄介だった。

王都の五等星パーティーを名乗っていたものの実態は違法奴隷の集まり。リーダーのみ王都の七等星冒険者『劇斧のスメルニオフ』。上層部も憲兵隊もこの件には大きな裏が有ると見ている。このような小物に奴隷を五人も扱えるはずがないことも一因である。

しかも奴らは蟻の獲物をクタナツの治療院に放置していた。明らかに意図的な行動だ。




そして現在、魔法尋問の真っ最中である……


「お前の名前は?」


「劇斧のスメルニオフ」


「自称ではない、姓名を正確に言え。」


「スメルニオフ・ストロミング」


「出身地は?」


「ドナハマナ伯爵領」


「そこのどこだ?」


「テノヌ村」


「お前の年齢は?」


「三十九」


「いつクタナツに来た?」


一月ひとつきぐらい前」


「何しに来た?」


「護衛ついでに、開拓で沸いてるからいい仕事があると思った」


「クタナツに着いてから今日までのことを詳しく話せ。」


「南の城門で割り込みをする生意気なガキがいた。貴族みたいでいい気になっていやがった。ギルドでまた会ったから後ろから殴ってやった。なぜか当たらなかった。物言いがイラつくガキだった。軽く教えてやろうと思ったら俺は治療院にいた。両方の肘と膝が砕けてると言われた。治った後で治療代は金貨六枚と言われたから逃げた。なぜか金も無かった。城門を通れないから街の中を適当に逃げた。そしたら紫の鎧を纏った男がいた。助けてやるから自分を手伝えと言われた。他にも奴隷がいた。俺がリーダーだと言われた。蟻のような魔物が持ってた何かを奪えと言われた。蟻は弱かったから簡単に奪えた。それを治療院に持っていけば金をやると言われた。なのにここ最近体がおかしい。肘が曲がらなくなった。指も曲がらない。足首も曲がらない。どんどん曲がらなくなる」


「男の名前は?」


「ムラサキ・イチロー」


「そいつがそう名乗ったのか?」


「そうだ」


「なぜ治療院にいた?」


「分からん、俺があんなガキに負けるわけない」


「その子供の名前は?」


「分からん、生意気なウエストコートを着てやがった」


「奴隷の名前は?」


「分からん」


「なぜ蟻から獲物を奪った?」


「頼まれたからだ」


「なぜ頼みをきいた?」


「金をくれると言った」


「そいつはどこにいる?」


「分からん、金を払わず逃げやがった」


「お前はなぜ逃げなかった?」


「逃げようとしたが、クタナツの城門が突破できない」



憲兵隊の面々はうんざりしていた。

尋問魔法により本音しか喋れないのだが、どいつもこいつも分からんと言うばかり。

完全に捨て駒だった。それだけに大きな裏があることが伺える。


ギルドの子供とは?

ムラサキ・イチローとは一体何者なのか?





憲兵隊員はギルドにて情報収集を行っていた。『劇斧のスメルニオフ』『ウエストコートの子供』について知ってる者はいないか。目撃情報はないか。


簡単に見つかった。


本人がいたのだ。

その子供は新人冒険者と言う割に黒い革パンツに白いシャツ、黒く古びたウエストコートを着ていた。


「君は『劇斧のスメルニオフ』を知ってるか?」


「名前はぴんと来ませんが、臭い男なら知ってます。」


「そいつはきみを殴ったか?」


「当たりはしませんでしたが殴ったようです。」


「そいつはギルドにいたはずなのに、いつの間に治療院にいたらしい。心当たりはあるか?」


「ありますよ。そもそもですね…………」


その子供は詳しく説明してくれたが、とても信じられない。自分を金貸しと言うことも、あの臭い大男に勝ったということも。


「君、本当のことを言ってくれないか? 私達は憲兵隊員なんだ。嘘をつくとお父さんとお母さんが酷い目にあうかも知れないよ。」


するとその子供は平然と答えた。


「嘘だと思うなら魔法審問すればいいでしょう? 憲兵隊ならその権限ぐらいあるでしょう? そもそも時間を割いて協力してあげてるのに両親が酷い目に会うとは聞き捨てなりませんね。」


そう言ってその子供は懐から何か紙を取り出して私に見せた。


『一等金融士 カース・ド・マーティン

此の者、クタナツ代官レオポルドン・ド・アジャーニの名の下に金融業の営業を許可された者也。

尚、此の効力は一等金融士本人の逝去迄有効也。』


「何だこれは? こんな物まで用意して! 代官の名を騙るとは許し難い! 一等何とかなどと有りもしない職業まででっち上げるなんて!

ん……? マーティン? そうか君はマーティン卿のお子さんか!」


子供は安心したかの様な表情を見せる。

そうはいかない。ならばこそ問題なのだ!


「だからこそ看過できない! 君はあのマーティン卿と聖女様のお子さんだろう! それがなぜこんな真似をする!? ご両親の顔に泥を塗るなんて!」


今度はあきれたような表情をする。


「お代官様の筆跡や印璽は私のような子供が偽造できる程度の代物ですか? なぜ本物かも知れないと思わないのですか? お代官様は現在バランタウンでしょう。副官に確認されてはいかがですか?」


この子は難しい言葉を使えばいいとでも思っているのか?

いくらマーティン卿のお子さんだとしてもこれは見過ごせない。私達はこの子を詰所に連行することに決めた。この子も諦めたよう顔をしている。

初めから素直にしてればいいものを。

私達は一人が詰所へ連行し、もう一人がマーティン家へ連絡に向かった。保護者に来てもらわなければ。こんな子が事件の鍵を握っているとは思えないが……


ここ最近のクタナツは問題が多く、我々憲兵隊が一般市民の取り締まりにまで駆り出されている。今回のような大事件にはもう少し人員が欲しいものだ……

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