最上級貴族の辺境伯家だ。当然結界魔方陣だって起動されてるようだ。ならば氷を溶かすかぶち破るしかないな。
『『火球』』
アレクも同じことを考えたようで、見事にタイミングが揃った。妙に嬉しい。もう少しだな。
『『火球』』
よし、開いた!
学生達は我先にと中に入って行った。それはよくない。
案の定、何かに弾き返されて門から飛び出てきた。結界魔方陣が作動しているんだから誰かが守っているはずなんだ。昨日はいなかったくせに。
「下がってなさい。私が入るわ!」
真打登場ソルダーヌちゃんだ。まあ自宅だしね。
「ソルダーヌが只今帰参いたしました!」
そう言いながら門の中へ入って行った。よし、私達も入ろう。アレクに誘導されて学生達も入って行った。最後尾のパスカル君達も入ったところで私とアレクも入る。そして氷壁で門を閉じておこう。
それから私が目にしたのは、歳上の男性に抱きつくソルダーヌちゃんだった。見覚えがあるような。
「デフロックお兄様よ。王国一武闘会でオウタニッサ様と対戦されたわ。」
「あー、だから見覚えがあったんだね。放浪してばっかりでもないんだね。」
「カース君! 来てくれる?」
ソルダーヌちゃんが呼んでる。
「兄上、こちらカース君。私達をここまで連れて来てくれたの。大恩人なの。」
「どうも、カース・ド・マーティンと申します。ダミアンには悪い遊びばかり教わってます。」
「俺はデフロック。妹が世話になったな。ありがとう。ダミアンなんかと遊んでるとバカが感染るぜ?」
「全くです。幼気なお子様を賭場や奴隷市に連れて行くんですから。」
それから少しダミアンの悪口で盛り上がった。その後、状況を聞くと、お兄さんがここに来たのは先ほど。今朝王都に着いて惨状を知り、上屋敷を心配して駆けつけたそうだ。それから門を閉ざし、結界魔方陣を起動させたと。どうやら辺境伯家の血縁でないと起動できないらしい。それならソルダーヌちゃんはよっぽど帰りたかっただろうな。自分が帰っていればここまでの惨状は防げたかも知れない。それでも学校に留まりみんなを守ったんだ。立派な貴族だ……
「よく頑張ったねソルダーヌちゃん。偉かったよ。」
ソルダーヌちゃんは無言で抱きついてきた。そりゃあ悲しいよな。顔は見えないけど、肩が震えている。アレクは私を見て頷いている。分かったよ。もう少しこのままにしておくよ。
それからアレクはみんなをまとめて屋敷内に入っていった。死体を片付けないといけないもんな。そしてエイミーちゃんだけがこの場に残った。
そして五分。ソルダーヌちゃんの嗚咽が止み落ち着いたように見える。
「みっともないところを見せちゃったわね。まさかここまで酷い状況とは思わなくて……」
「無理もないと思うよ。僕だってクタナツの実家がこうなったら大泣きしてると思うよ。だからアレクに泣き虫カースって言われるんだよね。」
「カース君ったら……ありがとう。じゃあ私達も手伝うとしましょうか。」
「そうだね。白い奴らの死体は門の外で焼くから、家の人については任せるよ。」
「ええ……お願いするわ。行くわよエイミー。」
「はい!」
これで庭には私一人。まずは白い奴らの死体を外に出そう。そろそろゾンビになる奴とか出るかも知れないし。しっかり焼かないとな。氷壁を張ったり解除したり大変だな。
それから二時間、次々と門の外には白い奴らの死体が投げ出された。私はそれを片っ端から焼き尽くした。骨も残ってない。
「カース、お昼にしましょう。ソルが用意したわよ。」
「おっ、いいねー。お腹が空いてたんだよ。」
庭には即席のテーブル。その上に大きく盛り付けられた料理。肉野菜炒めってとこかな。美味しそうだ。いただきまーす。
旨い! ほどよい辛さとソースの旨味が相性ぴったり! なのに食べているのは私とアレクとお兄さんぐらいだ。みんなどうした? お腹はへってないのか?
「死体の感触が手から離れない……」
「私は臭いが鼻から消えないわ……」
「あの目……何も見てない虚ろな目が……」
あー、食欲がないのね。なら仕方ない。余ったら私が収納しておけばいい。ソルダーヌちゃんは食欲がないなりに食べているようだ。
「カース君は冒険者もやってるそうだな。何等星だい?」
「十等星ですよ。昇格試験を全く受けてないもので。お兄さんは?」
「俺は六等星だ。ソロでここまで上がるのは珍しいんだぜ?」
それはそうだ。エロイーズさんとゴモリエールさんだって二人組で五等星までのし上がったんだから。オウタニッサさんに負けたとはいえ、中々やるな。
「それはそうと、今回俺が王都に来たのは理由があってな。大規模な盗賊団が王都を狙ってるって情報があったのさ。それを王都のギルドに報告しようと思ったんだがな……」
「この上盗賊ですか……今襲っても盗る物あるんですかね?」
「さあな? 奴らは何でも盗るからな。王都に攻め込むなんてこんな時でないと無理だ。教団は盗賊とも繋がってたってわけか。」
「そうなりますね。騎士団は動かないし、自慢の城壁も役に立ってないし、ボロボロですね。」
別に王都が荒らされたって気にならないけど、ゼマティス家にもしものことがあると困るな。私だけでは手が足りない。フェルナンド先生がいたらいいのに……
あっ!
いいアイデアを思いついた!
「アレク、ソルダーヌちゃん、聞いて。今からクタナツに戻って助っ人を呼んでくる! 母上は体調次第だけどキアラは暇なはず。そしてできればオディ兄とマリーも!」
「それはいいわね! 頼もしいわ。」
「キアラちゃんって妹さん? いいの? 危なくない?」
「危なくないよ。キアラの魔力は昔の僕以上なんだから。」
本当はゴレライアスさんやアステロイドさんなどクタナツオールスターズを連れて来たいがさすがに無理だ。キアラだけでも良しとしよう。
「そこで今から約三時間、僕なしでここの守りを頼むよ? いいねアレク?」
「ええ、分かったわ。無事に帰ってきてね!」
アレクはそう言って人目も憚らず私に抱きついてくる。私はアレクの額に口を寄せてから抱き締めた。
さて、クタナツまで全速力だ!
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