異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

47、辺境伯家の守護者

公開日時: 2022年4月6日(水) 10:06
文字数:2,453

最上級貴族の辺境伯家だ。当然結界魔方陣だって起動されてるようだ。ならば氷を溶かすかぶち破るしかないな。


『『火球』』


アレクも同じことを考えたようで、見事にタイミングが揃った。妙に嬉しい。もう少しだな。


『『火球』』


よし、開いた!

学生達は我先にと中に入って行った。それはよくない。


案の定、何かに弾き返されて門から飛び出てきた。結界魔方陣が作動しているんだから誰かが守っているはずなんだ。昨日はいなかったくせに。


「下がってなさい。私が入るわ!」


真打登場ソルダーヌちゃんだ。まあ自宅だしね。


「ソルダーヌが只今帰参いたしました!」


そう言いながら門の中へ入って行った。よし、私達も入ろう。アレクに誘導されて学生達も入って行った。最後尾のパスカル君達も入ったところで私とアレクも入る。そして氷壁で門を閉じておこう。


それから私が目にしたのは、歳上の男性に抱きつくソルダーヌちゃんだった。見覚えがあるような。


「デフロックお兄様よ。王国一武闘会でオウタニッサ様と対戦されたわ。」


「あー、だから見覚えがあったんだね。放浪してばっかりでもないんだね。」


「カース君! 来てくれる?」


ソルダーヌちゃんが呼んでる。


「兄上、こちらカース君。私達をここまで連れて来てくれたの。大恩人なの。」


「どうも、カース・ド・マーティンと申します。ダミアンには悪い遊びばかり教わってます。」


「俺はデフロック。妹が世話になったな。ありがとう。ダミアンなんかと遊んでるとバカが感染るぜ?」


「全くです。幼気いたいけなお子様を賭場や奴隷市に連れて行くんですから。」


それから少しダミアンの悪口で盛り上がった。その後、状況を聞くと、お兄さんがここに来たのは先ほど。今朝王都に着いて惨状を知り、上屋敷を心配して駆けつけたそうだ。それから門を閉ざし、結界魔方陣を起動させたと。どうやら辺境伯家の血縁でないと起動できないらしい。それならソルダーヌちゃんはよっぽど帰りたかっただろうな。自分が帰っていればここまでの惨状は防げたかも知れない。それでも学校に留まりみんなを守ったんだ。立派な貴族だ……


「よく頑張ったねソルダーヌちゃん。偉かったよ。」


ソルダーヌちゃんは無言で抱きついてきた。そりゃあ悲しいよな。顔は見えないけど、肩が震えている。アレクは私を見て頷いている。分かったよ。もう少しこのままにしておくよ。


それからアレクはみんなをまとめて屋敷内に入っていった。死体を片付けないといけないもんな。そしてエイミーちゃんだけがこの場に残った。




そして五分。ソルダーヌちゃんの嗚咽が止み落ち着いたように見える。


「みっともないところを見せちゃったわね。まさかここまで酷い状況とは思わなくて……」


「無理もないと思うよ。僕だってクタナツの実家がこうなったら大泣きしてると思うよ。だからアレクに泣き虫カースって言われるんだよね。」


「カース君ったら……ありがとう。じゃあ私達も手伝うとしましょうか。」


「そうだね。白い奴らの死体は門の外で焼くから、家の人については任せるよ。」


「ええ……お願いするわ。行くわよエイミー。」


「はい!」


これで庭には私一人。まずは白い奴らの死体を外に出そう。そろそろゾンビになる奴とか出るかも知れないし。しっかり焼かないとな。氷壁を張ったり解除したり大変だな。




それから二時間、次々と門の外には白い奴らの死体が投げ出された。私はそれを片っ端から焼き尽くした。骨も残ってない。


「カース、お昼にしましょう。ソルが用意したわよ。」


「おっ、いいねー。お腹が空いてたんだよ。」


庭には即席のテーブル。その上に大きく盛り付けられた料理。肉野菜炒めってとこかな。美味しそうだ。いただきまーす。


旨い! ほどよい辛さとソースの旨味が相性ぴったり! なのに食べているのは私とアレクとお兄さんぐらいだ。みんなどうした? お腹はへってないのか?


「死体の感触が手から離れない……」

「私は臭いが鼻から消えないわ……」

「あの目……何も見てない虚ろな目が……」


あー、食欲がないのね。なら仕方ない。余ったら私が収納しておけばいい。ソルダーヌちゃんは食欲がないなりに食べているようだ。




「カース君は冒険者もやってるそうだな。何等星だい?」


「十等星ですよ。昇格試験を全く受けてないもので。お兄さんは?」


「俺は六等星だ。ソロでここまで上がるのは珍しいんだぜ?」


それはそうだ。エロイーズさんとゴモリエールさんだって二人組で五等星までのし上がったんだから。オウタニッサさんに負けたとはいえ、中々やるな。


「それはそうと、今回俺が王都に来たのは理由があってな。大規模な盗賊団が王都を狙ってるって情報があったのさ。それを王都のギルドに報告しようと思ったんだがな……」


「この上盗賊ですか……今襲っても盗る物あるんですかね?」


「さあな? 奴らは何でも盗るからな。王都に攻め込むなんてこんな時でないと無理だ。教団は盗賊とも繋がってたってわけか。」


「そうなりますね。騎士団は動かないし、自慢の城壁も役に立ってないし、ボロボロですね。」


別に王都が荒らされたって気にならないけど、ゼマティス家にもしものことがあると困るな。私だけでは手が足りない。フェルナンド先生がいたらいいのに……


あっ!


いいアイデアを思いついた!


「アレク、ソルダーヌちゃん、聞いて。今からクタナツに戻って助っ人を呼んでくる! 母上は体調次第だけどキアラは暇なはず。そしてできればオディ兄とマリーも!」


「それはいいわね! 頼もしいわ。」


「キアラちゃんって妹さん? いいの? 危なくない?」


「危なくないよ。キアラの魔力は昔の僕以上なんだから。」


本当はゴレライアスさんやアステロイドさんなどクタナツオールスターズを連れて来たいがさすがに無理だ。キアラだけでも良しとしよう。


「そこで今から約三時間、僕なしでここの守りを頼むよ? いいねアレク?」


「ええ、分かったわ。無事に帰ってきてね!」


アレクはそう言って人目も憚らず私に抱きついてくる。私はアレクの額に口を寄せてから抱き締めた。


さて、クタナツまで全速力だ!

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