いよいよ決勝戦だ。どんな戦いになるのだろうか。服装はどうしよう。このままでいいかな?
「カース。いよいよね。全力でいくから、しっかり受け止めてね。」
「うん。ぶつかっておいで。お互い頑張ろう。」
アレクはそう言って私に抱き着いてきた。ああ、いい香りだ。でも勝負は別だ。手加減などする気はない。
『観客の皆様! 大変長らくお待たせいたしました! これより王国一武闘会十五歳以下の部、魔法あり部門の決勝戦を行います!
一人目はァー! アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル選手! 堅実なようで魔力に任せた荒々しい戦い方に男性ファンのみならず女性ファンまで急増中! 凍えるような視線に圧倒的な美貌! ついた異名は氷の女神! そのまんまだぁー! 真っ赤なコートに身を包んで優雅に入場してきましたぁー!
二人目はァー! カース・ド・マーティン選手! 結局ここまで一歩も動くことなく勝ち抜いてしまったぁー! アレクサンドリーネ選手とは将来を誓い合った仲! これには場内も大ブーイング! 凡庸な顔!平均的な体格! しかし溢れる魔力は圧倒的! 辺境フランティアでは魔王と呼ばれ恐れられているそうだぁー! 昨日の決勝戦とは違い、お馴染みの王都スタイルで入場してきましたぁー!』
魔王って知られてるのか? そんな情報が一体どこから入ってくるんだ?
『装備についての物言いはありますか?』
「そこの盾をお貸しいただけますか?」
「ありません。」
『よかろう。許可しよう。』
あの盾は人気のようだ。先ほどナグアット選手もあれを使って私の狙撃を防いだんだよな。何で出来てるんだろう?
『さあぁー盛り上がって参りました! それでは決勝戦を開始いたします! 双方構え!』
『始め!』
『『氷弾』』
やはり開始一発目はこうなったか。まずはお互い様子見か。しかしそうはいかないぞ。『氷散弾』『氷弾』『氷球』『水球』『重圧』
『氷壁』『水壁』
『火球』『火球』『燎原の火』
『一体何が起こっているのでしょうかー! あっという間に武舞台が火の海になっております! カース選手、血も涙もない連続魔法でアレクサンドリーネ選手を追い詰めておりまーす!』
『我が孫ながら本当に容赦ない……確かにアレクサンドリーネ選手は油断のできない強敵じゃが……』
『それでも死なないように手加減して見えるのは気のせいだろうか。』
そりゃあ殺す気なら徹甲魔弾でも使ってるさ。でもあれは人間に使うもんじゃない。フェルナンド先生は人外だからいいのだ。
『狙撃』『風操』
さて、アレクの様子は……
『氷弾』
無傷ではないが、致命傷には至ってない。さすがだ。まだまだ反撃が飛んでくる。しかも……
『おおーっとアレクサンドリーネ選手! あれだけの猛攻をくらいながらも致命傷は避けているぅー!しかもカース選手に向かって盾を構えつつ前進しているぅー! これまでの戦い同様に愚直に接近しようと言うのかぁーー!? カース選手相手にそれは無謀ではないのかぁー!!』
『なるほど! 読めたわ! アレクサンドリーネ選手がなぜ今まであのような戦いをしたのかが! 全てはカース選手に対抗するためじゃったか!』
『なるほど。まさに魔王のような威圧感を放つカース選手に近づくには並みの根性では無理だ。だからアレクサンドリーネ選手は愚直に前進を繰り返し少しでも耐性を付けたと。ついでに予行演習も兼ねていたわけだ。』
さすがアレク。全てを私と戦うために。そして勝つために……だからって負けてはやらん!『水鞭』『風操』
水の鞭を飛び上がって避けたアレクだが、そこを風操で捕まえる! そしてそのまま場外へ叩き落す!
『烈風斬』『氷弾』
くっ、さすがにやるな。烈風斬で無理矢理拘束を破ったか。ちなみに今の私は自動防御を張っていない。アレクの攻撃は全て虎徹で叩き落している。防御を捨てて魔力を全て攻撃につぎ込むためだ。『水鞭』『水球』
鞭の数を十数本に増やした。その上、巨大鉄球のような水球を五発飛ばす。防御は無意味、避けてもホーミング。さあどうする?
『逆巻く激流』
『きたぁー! カース選手の絶え間ない猛攻の前に防御することすらできないと思われた矢先! 上級魔法、逆巻く激流だぁー! 天を衝くような水流がアレクサンドリーネ選手から立ち登り、全てを遮ったぁー! そして天に登った激流は全てカース選手を襲う! どうするカース選手!?』
『素晴らしい。よくあの合間にあのような大技を繰り出せたものよ。』
『技もそうだが、勝利を諦めない精神も見事だ。あれだけの魔法を前によく冷静でおれたものだ。』
なんて凄いことを。しかし、だからこそゴリ押しで返してみせよう。『水操』
いくら大量でも水は水だ。魔力が大量にあれば操作することは容易い。
ぐおあああっ!? 痛ってぇぇ! 脇腹に何かが刺さっている? これはナイフ? しかも傷口が痛い上に熱い……毒? 一体どうやって?
「いくわよカース!」
アレクが一瞬にして間合いを詰めてきた。背中を風で押したのか……
『氷塊弾』
『水壁』
さすがに防御をしてしまった。しなければ負けていた……しかしアレクは止まらない。私の水壁に杖を突き込んできた……
『豪炎』
目の前が真っ赤な炎で覆われる。ついに自動防御まで使ってしまった。いや、今のは使わなければ死んでいた。さすがアレク、容赦ない。そこまで私のことを想ってくれるなんて……
そこまでやっても私は死なない、受け止めてくれると信頼してくれているのだ。嬉しくて泣けてきた。ならば『火球』それも魔力特大特盛だ。
くっ、脇腹が痛過ぎる……昨日もやられたのに……
『一体何があったのでしょうかぁー!逆巻く激流が逆にアレクサンドリーネ選手に襲いかかったかと思えば! その更に下を一瞬にして潜り抜けたアレクサンドリーネ選手! そのままカース選手に特大の氷弾を撃つも防御されました! かと思えば防御を突き抜けて豪炎がカース選手を襲ったぁー! 果たしてカース選手は無事なのかぁー! これが愛し合う二人の戦いなのかぁー!』
『逆巻く激流を返した瞬間カース選手の集中が乱れたようじゃ。あの子らしくもない、何かがあったのじゃろう。』
『武舞台を見てくれ。石が溶けるほどの高温……規模は小さいがドラゴンブレス並みの火力だ……』
『水球』
アレクだ。残った魔力を振り絞って温度を下げている。しかし……
『水球』
白煙を上げ、灼熱の蒸気が容赦なくアレクを焼く。
『水球』
それでもアレクは諦めない。
『吹雪ける氷嵐』
上級魔法、極低温の吹雪だ。ようやく武舞台の温度が落ち着き、溶岩も固まった。白煙も晴れアレクが姿を現した。
そこにはトビクラーのコートを失い、上着まで焼け落ちて、原型を留めないシャツと焼け焦げた素肌を晒すアレクの姿があった。ミニスカートは辛うじて無事だが、脚は無残な火傷。靴も失い、爪先に至るまで無傷なところはない。
それなのに、どうしてこんなに美しいんだ……
目が離せない。傷だらけで、それでも倒れないアレクは美しい。連戦で短くなり、それでも豪奢だった金髪は見る影もない。白磁のような肌はどす黒く焼け焦げて……それなのに今までで一番美しく見える。美し過ぎてトドメが刺せない。優しく場外へ落とせばいいだけなのに……
「カース……まだ、終わってないわ……」
アレクがゆっくりと歩いてくる。もう杖も持てないほどなのに……私はどうすればいいんだ……
『立っている! アレクサンドリーネ選手まだ立っているぅー! あの地獄のような炎の中で! 懸命に火を消して! 自らの命を繋ぎとめたぁー! しかし! もう立っているのもやっと! そのあまりの壮絶さにカース選手も手が出せなーい!』
『アレックスのカースに対する想いの深さは並みではない……か。カースの伴侶に相応しくあるため、カースの足手まといにならないため、どこまでもカースについて行く……そんな思いが伝わってきおる。』
『剣鬼に挑んだ時を思い出す。手も足も出なかったが、意地で立ち続けたものだ。結局かすり傷を負わせるのが精一杯だったが、そんな私を可愛いと……憎い男だった……』
『浮身』『風操』
せめて優しく場外へ降ろそう。
『風球』
なっ! アレクはまだ……
浮いた状態から自分の背に風球を撃ち、私に向かってきた。くっ、ならば『水球』
避けた!? どこにそんな力が!?
そのまま私に駆け寄ってくるが、そんな体で何を!?
短剣? しかしそんなもので私の防御は抜け……
ぐあぁー! 自動防御どころかサウザンドミヅチのトラウザーズまで突き抜けた!?
嘘だろ!? くそっ、めちゃくちゃ痛いぞ……
昔スパラッシュさんに刺された所と同じだ……
「どう……私……カースに……」
アレクはそう言って倒れた。今度こそ私の勝ちだが、素直に喜べない……
いや、それはおかしい。アレクは死力を尽くして私に挑んだ。そして私はそんなアレクに勝った。喜ぶべきだ。
『決ちゃぁーーく! 勝負あり! カース選手の優勝でーす!』
右手を高く突き上げてみせるが、歓声はない。みんなアレクを応援してたのだろうか。少し悲しいぞ……
そんなことを考えていたら目の前に突然人影が。
国王だ……拍手をしている。
「見事であった。余はそなた達の戦いを終生忘れぬだろう。さあ表彰式は後だ。早く治療室へ連れて行ってやるがよい。」
「ありがとうございます! 失礼します!」
アレクならこれぐらい命に別状はないだろうが、心配が止まらない。早く行かねば……
足も脇腹も痛いがアレクは私が運ぶんだ……
アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル
©︎kisaragi氏
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