異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

139、転校生、そして昼寝

公開日時: 2021年3月19日(金) 10:11
文字数:2,606

雛菊の花がまだら色になり、菫は蒼く

種漬花は白銀色になり、羅南の花が

牧草地を黄色に染め上げる春の休日。


うーんポエミーな気分だ。なぜなら……

私は長年の夢を実現せんと我が家の庭先にいるからだ。関係ないか。


本日ついに空中露天風呂に挑戦する。

湯船は魔力を満タンに注ぎ込んだ汚銀。

時は昼、手には甘いホットミルク。


不退転の覚悟を決めるため、私はすでに全裸になっている。

真昼の庭で全裸。

誰も私を止めることはできない。

このまま湯船ごと空中に浮かび、クタナツを空から見下ろすのだ。


『浮身』


湯船を上へ上へと浮かべる。

もちろん隠形は使ってある。


鉄と比べると汚銀はだいぶ軽い。

ぐんぐん上がる。


地平線がどこまでも広がる。

あぁ、いい眺めだ。

普段の飛行とは一味違う。


私は空中で露天風呂に入っている。


お湯が体に染みる。

ホットミルクが美味しい。


しかも、魔力を消費する度に汚銀が私を回復させてくれる。






と、言うことは……

汚銀を大量に使用して飛行機などを作れば、他の大陸にだって行けてしまう。

理論上は魔力が無くならないのだからこの世界一周だってできるかも知れない。


仮に赤道が一周四万キロルだとするなら、私の全力でも一周に百から百五十時間はかかることになる。まずは本物の飛行機並みの速度を目指してこれからも頑張るべきだな。


それはさて置き、絶景だ。

一体何メイル上昇したのだろうか。

風呂に入っているものだから温度の低下がよく分からない。気圧の変化もよく分からない。


親指と人差し指で作った円の中にクタナツが四つぐらい入りそうなほど高い。

息苦しさは感じない。

気持ちいい。

この世で私ほど贅沢な者はいないだろう。何ていい景色だ。


何だかぼーっとして来た。

酸素が薄くなってきたのかな?

それなら降りなければ。




『何用だ……』




ん? 何か聞こえたかな?

酸素が薄いと幻視や幻聴があるらしいし。

早く、でもゆっくり降りよう。


高度を上げるには酸素の問題をクリアしないといけないな。そしたら成層圏風呂、そして宇宙風呂なんてできるかも知れない。


こんな時ファンタジーでは水を電気分解して水素と酸素を作り出したりするよな。

魔法でどうにか電気分解はできたとしても、どうやったら酸素濃度ぴったりの空気を作り出せるかが分からない。

はたまたオゾン層を分解して酸素にしてしまうか……できるわけがない。


酸素魔法は前途多難だ。




しかしそんなことはどうでもいい。

この素晴らしい景色、最適な温度、私しか存在しない空間。なんていい気分なんだ。

もし私の魔力が今の百倍とかになったら空中に自宅でも作れそうだ。


そして空中でアレクと……

ふっふっふ。






空中露天風呂を堪能した数日後の昼休み。なんと教室内の様子が一変していた。

アジャーニ君の両脇をイボンヌちゃんとバルテレモンちゃんが固めているではないか。

バルテレモンちゃんの派閥を吸収合併したのか、それとも彼女が身売りしたのか。

その他の下級貴族組は護衛君達と話しているようだ。


問題はエルネスト君だ。


ぽつんと一人……


パスカル君がいなくなり、イボンヌちゃんまで去ってしまった。

どいつもこいつも……子供らしくないことばかりしやがって……


「エルネスト君、美味しそうなお弁当だね。一口ちょうだい。」


「あ、ああいいとも。珍しく母上が作ってくれたんだ。故郷の味らしい。」


「ありがと。こっちで食べようよ。僕のも食べてみてよ。」


こうして昼休みのみ、私達は六人組となった。プライベートでも六人組になるかどうかは定かではない。


エルネスト君のお母さんはローランド王国の東南部、アブハイン川の河口あたり一帯を治める貴族の血筋。

子供には少し辛い気もするこの味があの辺の特徴なのか。タンドリーチキンに近いだろうか。


「確か特殊な窯で焼くのよね。スパイシーで美味しいわ。エルネスト君のお母様は料理上手なのね。」


「ありがとうございます。それにしてもアレクサンドリーネ様は博学ですね。窯のことまでご存じとは。」


「たまたまよ。食べることに関してだけは詳しいの。」


これは半分嘘。アレクは歴史、風土に関することはサンドラちゃんより詳しい。それが最上級貴族の嗜みなのだろう。


ちなみにセルジュ君には辛すぎたらしい。一口食べただけなのに結構汗をかいている。

サンドラちゃんは気に入った様子だ。


私達が五人以外で昼食を食べたのは初めてかも知れない。たまに新鮮でいいものだ。


「そう言えばカースは昔、私にも同じことを言ったわね。一口ちょうだいって。」


「そうだっけ? アレクのお弁当が美味しいそうだったからじゃない?」


「全くカースは意地汚いんだから。」


この世界は娯楽が少ないからな。食べることぐらいしか楽しみがない気もする。

本は高いし数が少ない。

賭場に出入りできるはずもないし、そもそもどこにあるのかすら知らない。

トランプも麻雀もない。でもチェス、双六、バックギャモンはある。


ファンタジーあるあるではリバーシを開発しての大儲けってパターンがあるがあまり気が進まない。

決してルールを覚えたサンドラちゃんやアレクに負けそうだからではない。


それにしても、やはり昼休みの楽しみは昼寝だな。


「カース、寝るんでしょう? 全く、意地汚い上に甘えん坊なんだから。」


そう言ってアレクは膝枕をしてくれる。

今日はアレクが起きていてくれたので寝過ごして立たされることもなかった。





放課後、エルネスト君と話をした。


「イボンヌは……僕のことが好きでも何でもなかったのかな……」


「うーん、よく分からないよね。結果から考えると彼女は上級貴族に近付きたかったんじゃないかな?卒業した先輩にも接近してたらしいし。」


「そうなんだね。知らないのは僕だけだったのか。安易に冒険者登録なんてしたのも悪かったのかな。」


「それもあるかも。家督を継げないのは分かってたからいいとしても、冒険者として生きるのと貴族として生きるのでは大違いだもんね。」


たぶんその辺りが原因だろうな。

たまに私が話しかけてもほとんど無視だもんな。彼女は上級貴族しか眼中にないのだろう。


「思えば僕でもパスカルでもどっちでも良かったんだと思う。一組に上級貴族の男子は僕ら二人だけだったしね。」


「あー、そうなのかも知れない。女の子は怖いね。バルテレモンちゃんも不気味だし。多分王都とかってこれより凄いんだろうね。クタナツでよかったよ。」


「そうらしいよ……」


恋をして恋に破れ恋に泣く。

私も前世で覚えがある。

これもきっと青春なのだろう。

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