もうすぐ春である。
姉上は危なげなく合格したらしい。
今夜はお祝いだ。
「エリの合格を祝って乾杯!」
「エリ、頑張ったわね。トップ合格だったらしいけど油断してはだめよ?
魔法なんて少しサボったらすぐ下手になるんだから。」
「姉上おめでとう。やっと兄上に会えそうだね。今年も帰って来なかったし。」
「姉上すごい! おめでとう!」
「ありがとうみんな。オディロンうるさい! 母上、分かってるわよ。毎日空っぽにしてから寝るわ。
カースには負けないんだから。あんたすごい量の水を出してたわよね。制御が甘いんじゃないの?」
「姉上みたいにできるわけないよー。難しいんだから。」
もちろん嘘だ。
その気になれば両手の指から水鉄砲みたいに出すこともできるし、シャワーのように出すこともできる。水圧は弱めだが。
魔力を強めに使ったらどのぐらい水が出るか気になったので、制御せず右の掌から真上に出してみた。
消防車のホース程度の量だったが、勢いはなかった。それでも全身から全力でやったらここら一帯は水浸しになりかねない。それぐらいは分かる。
これでも魔法名は『水滴』なのだ。
『今のは瀑布ではない、水滴だ』
が言える日も近いかも知れない。
そんな魔法があるのかは知らないが。
さすがに水滴だけでは無理だな。
風呂に水を入れたり、池に水を貯めるには有効なのだが。
「さあエリ、今日は私と母子水入らずでお風呂といきましょう。」
「そうね。しばらく戻らないでしょうし、母上一緒に入りましょう。」
「僕もマリーと入りたいなー。」
オディロン兄が何か言ってるがみんなスルーしている。
「エリ、あなたなら分かるわよね?
このお風呂に毎日入るためにどれほどの魔力が必要か。温度調節にどれだけの魔力制御が必要か。」
「うん、分かってるつもり。そして母上が魔法使いとしてどれだけの高みにいるのか、きっと試験官や教官レベルでは太刀打ちできないよね。」
「その通り。私の魔力量は宮廷魔導士を超えているでしょう。魔力制御や知識は魔法学院の教授達には敵わないでしょうけどね。
その秘密を今から教えます。心して聞きなさい。」
「はい母上。」
「それは『房中錬魔循環』と言うの。
経絡魔体循環と錬魔循環は知っているわよね。房中錬魔循環は女性にしか扱えないの。
そして男性にしか施せないの。」
「初めて聞くわ。きっと辞典とかにも載ってないのよね?」
「その通り、これを使える者は私以外には五人ぐらいしか知らないわ。
貴女もこの技は自分の娘にしか伝えてはいけないわ。私も母から習った時そう言われたわ。この技を使えることが他人に知られると面倒なことになるからよ。
これを男性に施すと、その男は少しの苦痛としばらくの倦怠感に耐えて、天国のような快楽を味わい、魔力が上がる。そして女は至上の快楽を味わい、そしてやはり魔力が上がる。男の魔力が強ければ強いほど上がるの。ついでに肌も綺麗になるわよ。
つまり強い男を捕まえれば理論上どこまでも魔力は上がっていくわ。
十五歳を過ぎたら誰でも魔力はそうそう上がらなくなる。でもこれを使えば誰でも魔力を上げることができるの。」
「すごい! でも母上が私に施すことはできないのね。
私が覚えて男性に使うしかないのね。」
「その通り、下らない男に使うんじゃないのよ。いろんな男と付き合うのはいいけど、これを使う相手は伴侶に相応しい者だけ。分かるわね?」
「分かるわ。でもいいの? 私には兄上しか眼中にないわ。いくら私でもそれが異端ってことぐらい分かってる。でも多分この気持ちは変わりそうにないの。」
「構わないわよ。それは好きにしなさい。ウリエンが貴女を選んだらの話だけどね。
ウリエンはアランが房中錬魔循環について話しているから、それが使える女を見つけたら離すなと教わっているはずよ。
それが貴女だった時、ウリエンがどうするのか私には分からないわ。」
「そうよね……結局兄上次第よね。
分かった。それは置いとく。さあ母上、房中錬魔循環を教えて!」
「準備はいいわね。では始めるわよ。」
母娘の厳しい修行が始まった。
ただそれは側から見れば意味不明だったことだろう。
娘の口からは嗚咽、荒い息遣いが聞こえる。
外でマリーが防音の魔法『消音』を使ってなかったら大変なことになっていたかも知れない。
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やがて終わりを迎える。
「さあエリ、終わったわよ。魔力の流れは分かったわね? 後は実践を重ねて慣れていきなさい。」
「はぁ……ええ……母上……」
秘伝を授けるのは風呂。
これは最早マーティン家の伝統と言えるだろう。
エリザベスは房中錬魔循環を使うのか、使いこなせるのか。
日の喜びに満ちた自然が色を帯び、
木の葉たちはそよ風に揺れて、さわやかに朝露を浴びた春。
ウリエンとエリザベス、二人の行く末は……
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