最近の放課後は母上に新しい魔法を習っている。やはり新しい魔法は母上に教わるのが一番いいと思うのだ。
その結果、覚えたのは……
『重圧』
重力を制御しているわけではなく、大気圧を操作して対象を押さえつける。
『凍結』
対象の温度を下げ凍りつかせる。料理人に重宝されている。生物には効きにくい。
『麻痺』
神経的なものではなく、金縛り的な不思議魔法。
『睡眠』
眠るきっかけによい。眠くない時に使ってもあまり効かない。
『快眠』
対象を快く眠らせることができる。この魔法をかけている間は術者が起きて制御をしないとすぐ目覚めたり、いつまでも目覚めなかったりする。
『永眠』
対象をずっと眠らせる危険な魔法。対象の魔力を何倍も上回らないと効果がない。術者が解除しない限り死ぬまで眠り続ける。
『微毒』
軽い毒を与える。症状は下痢、目眩、吐き気、頭痛、腹痛、疼痛など対象の体調による。健康、頑強な生物には効きにくい。
『中毒』
対象が好きな物をさらに好きにさせる。使い方によっては酒好きの人間をじわじわと殺すこともできる。メガネ好きにさせることもできるかも知れない。
『毒焔』
一定の場所から毒の煙を出す魔法。毒の強さや煙の量、期間は魔力次第。
『木切』
木を切りやすくなる魔法。鋸、斧、剣、刀など刃物に使用できる。
『石切』
石を切りやすくなる魔法。
『金切』
金属を切りやすくなる魔法。
『魔切』
ミスリルや特殊なゴーレム素材、魔石や魔物などを切りやすくなる。金操ほどではないが魔力をかなり消費する。
たくさん覚えてしまった。
循環阻止の首輪をしたまま新しい魔法を使うのは結構大変だったなぁ。
結局夏休みはマギトレントを狩りに行けなかったのだが、切断する方法を考えてなかったことに気付いた。『木切』や『魔切』を覚えてなかったとしたら鉄ボードで無理矢理切るはめになっただろう。はたしてそれで切れたのだろうか?
しかし今は違う!
ついにボード用とギロチン用にミスリルの塊を発注したのだ。ついでに解体用ナイフもミスリルで頼んだ。
アレクのサウザンドミヅチのナイフには到底及ばないが十等星が持つには過分な逸品だ。
これらを駆使してマギトレントを狙う!
冬までには新しい湯船が欲しいのだ。
九月の中旬には納品予定だ。楽しみでたまらないぜ。イベントが多過ぎて困ってしまうな。
待つこと二週間、ミスリルのナイフと塊を手に入れた。金貨にして三百三十枚!
これをボードとギロチンに加工するのだ。加工までお願いしてもよかったのだが、それをすると金貨五百枚以上かかるそうなので、自分を信じて自力でやってみることにしたのだが……
何てこった……
鉄をも溶かす私の炎が全く通じない……
せいぜい鉄の二倍ぐらいの熱でいけるかと思っていたら、全然そんなことはなかった……
まさか六倍丈夫だから融点も六倍だとでも言うのか? ならば九千度?
まさか!? そんなはずがない!
しかし、このままでは二つに分けることすらできない。
困った時は母上だ。
ふむふむ、よく知らないそうだがヒントは貰った。
ミスリルを加工する職人は数人が数日がかりで魔力を何かに溜めてから作業に入るらしい。外部から魔法使いを呼ぶこともあるらしい。つまり魔力を大量に使用する?
汚銀に魔力を込める要領でミスリルに魔力を込めてみる。もちろん首輪は外している。
魔力は通っているが、溜まっていく様子はない。つまり魔力の通りがいいってことが分かる。
しかしこのままだと垂れ流しと変わりない。この状態で加工するのか?
やってみよう。
すでに『魔切』はミスリルナイフにかけてある。それでも先ほどは引っ掻き傷ぐらいしかつけられなかった。同じミスリルなのに……
しかし、魔力をガンガンに通した今の状態なら少しは刃が通る! ならばここで温度も上げてみる!
使った魔力の感じだと四千度は超えているはずだ。なのに溶ける気配が全くない。いくら魔力の向きを制御してると言っても熱くなってきた。また母上の助けが必要だろうか……
いや、それは今ではない。もう少しやってみてからだ。さらに魔力を込めて温度を上げる。助けを求めるのはせめて半分に分けてからだ。
『金操』も併用しつつ温度も上げる。
四千五百度ぐらいは行ったのだろうか……
ナイフがするりと通る。来た、バター状態だ! 溶け出すことはないが常温のバター程度には柔らかくなった。このまま半分に切り分ける……
できた!
シャツの袖口が焦げてしまっている。よく手が無事だったな……
この調子で半分は放置してもう半分をボードに加工する。
それから金操と圧縮魔法を併用して薄く延ばす。
残りの魔力がやばい。ミスリルは金操に使う魔力が鉄よりだいぶ少なくて済むのに使いまくってしまったからな。
厚さ二センチまで圧縮できた。後は形成だ……長方形に加工する……
できた……!
だいたい畳サイズかな。ハニカム構造なんかにする余裕はない。ただのミスリルの板だ。
これは盾にも使えそうだな。銀ボードや鉄ボードより薄くそして丈夫で軽い。七キロムってとこかな、素晴らしい! これでスイスイ動けるな。
魔力はほとんど空になってしまった。久々にギリギリだ。
でもこれで感覚は掴んだ。
近いうちにミスリルのギロチンも作れそうだ。
ちなみに手が無事だと思ったのは大きな勘違いだった。集中力してて気付かなかったのだが、大火傷をしていた。手の皮が両面とも溶けていたのだ。ミスリルナイフを手から剥がすのに苦労した。なぜ痛くなかったのやら。すぐに高級ポーションを飲んだので問題はなかったが。次からはトビクラーのコートを着てやるべきだな。
ならばいずれ耐火手袋が必要になるのだろうか?
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