アレクサンドル家に着いた頃には豪華な昼食が用意されていた。
「二人ともおかえりなさい。お昼ができているわよ。」
「お邪魔します。ご馳走になります。」
「母上! カースったらすごいのよ! トビクラーの皮で私にコートを作ってくれるの!」
「まあまあそんな凄い物を貰ってしまってどうしましょう。式はいつがいいのかしら。」
話が飛び過ぎだ。どこから式が出てきた!?
アレクは顔を真っ赤にして黙り込んでいる。私達はまだ十代ですらないのに。
それより昼ご飯だ。
料理名は分からないがいい匂いが堪らない。どれもこれも美味しそうだ。
「おいしい! これは何ですか!?」
「それはシーオークのステーキよ。美味しい所を厳選したらしいわ。」
アレクママが答えてくれた。
しかもこの間の魚醤とラディッシュを上手く使っている。さすがだ。これがプロの技か。
そしてツナマグロだが、表面は軽く炙ってあるが中は生、これはレアと言うよりタタキだろうか?
「このツナマグロも美味しいですね。タタキですか? 初めて食べました。」
「そうなの? タタキ? 私も初めてだわ。焼いてあるのと生なのと、味や食感の変化が楽しいわね。美味しいわ。」
アレクも初めてなのか。
「私だって初めてよ。タタキって言うのね。初耳だわ。とても美味しいわね。マトレシアも凄いけどツナマグロの鮮度がいいからだと思うわ。さすがカース君ね。」
「いえいえ、漁師さんにすぐ解体してもらったからですよ。」
「カースの魔力庫は凄いんだから。」
やはりアレクがドヤ顔だ。
ちなみに弟君は黙々と食べている。
それからこの皿は……トビクラーの砂肝かな?
「いやー、どれもこれも美味しいよね。昼から何て贅沢をしてるんだろう。」
「カースのおかげよ。いつもありがとう。マトレシアも凄いけど。」
そうしてお腹いっぱいになった私はアレクサンドル家を辞した。
アレクからは「お昼寝して行きなさいよ」と誘われたが、寝たら起きなさそうだったのでやめておいた。
帰って錬魔循環をみっちりやりたいのだ。
そして、夕方。
ふふ、キアラの喜ぶ顔が楽しみだ。
「誕生日おめでとう!」
今夜はキアラの四歳の誕生日。両親、オディ兄、そして私。マリーは着席こそしてないが参加している。
目の前には豪華な料理の数々。
昼間にアレクサンドル家で食べた料理に勝るとも劣らない。つまりマリーの腕は王都で修行をした料理人並みということか。
それらがキアラに合わせて柔らかく仕上げられており私が食べても美味しい! 口の中で溶けるとはこのことか。
キアラもフォークが止まらないようだ。よかった。大成功だ。
「さあキアラ、お母さんからプレゼントよ。これを付けて頑張ったらカースお兄ちゃんみたいになれるわよ。」
「母上ありがとー!」
おお、循環阻害の首輪。きれいにリメイクされている。
「私からはこれだ。これで頭も良くなるぞ。」
父上からはやはり知恵の輪。
キアラは真顔で無言だ……
「ところでオディ兄には面白いお土産があるよ。近いうちに一番街のファトナトゥールに行ってみてよ。」
「へぇ面白そうだね。ありがとな。」
「ところでオディ兄、大物で蛇系の魔石かワーム系の魔石って持ってない?」
「うーん、持ってないなー。よほどの大物でない限り売っちゃうからなー。」
「あー残念。依頼を出したらいくらぐらいかかるかな?」
「大物だよね? 蛇で金貨十から二十枚、ワームで四十から八十枚ぐらいかな。」
「うわーそれは無理だな。素直に自分で頑張るとするよ。」
ちなみにキアラはお腹いっぱいになったためかもうウトウトとしていたので、マリーがささっと風呂に入れてもう寝かせたようだ。
私は露天風呂にゆっくり入ってから寝た。
お湯を張るのも一苦労だった。
そして恒例、大人達の夜。
「いやーキアラがもう四歳か。早いものだな。」
「そうね。私達も年をとるはずよね。」
「ふふ、お前は全然年をとってないじゃないか。こんなにきれいな肌をしておいて。」
「私もそう思います。奥様ほどお綺麗な方はローランド王国広しと言えども稀かと思います。」
「もう、二人とも言い過ぎよ。それよりカースよ。軽く海まで往復するしトビクラーを狩ってくるし。この前の空中風呂なんか凄すぎよ。」
「ああ、絶景だったな。誰からも見えないあんな上空でなぁ。ふふふ。」
「もう、あなたったら! カースは私達が何をするか分かってたみたいよ。おませさんなんだから。」
「何ぃ!? 恐ろしい子だな。どうして分かった?」
「あの子ったら浮身を使うのにかなり多めの魔力を込めてるのよ。あなただってあれだけ激しく動いたのにほとんど揺れなかったのをおかしいと思わなかった?」
「……言われてみれば……まあカースだからとしか思わなかったな。」
「さすが坊ちゃんですね。あれだけの重量を遥か上空まで上げる魔力、揺れを感じさせない制御、それを遠く離れた地上で遠隔操作。エルフの長老すら超えているのではないかと恐ろしくなります。」
「あれで九歳か。これで老後も安心だな。」
「オディロンも頑張ってるわ。もう金貨二十枚ぐらい貯めたらしいわよ。異例よね。まあカースはその何倍も持ってるみたいだけど。」
「出来過ぎだろ。俺があの年にはどうやって小遣いを貰うかしか考えてなかったぞ。銀貨一枚で大喜びだ。」
「うふふ、あなたったら。知ってるわよ。年上のお姉さんを喜ばせてお小遣いを貰っていたんでしょ。」
「さすが旦那様です。」
「ま、まあうちは貧乏だったからな。」
「そういうことにしておきましょうか。じゃあ私は寝るわ。今夜はマリーに任せるわね。この前私だけ空中で楽しんじゃったから。」
「奥様……ありがとうございます。」
メイドと当主。いつもの夜が始まる。
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