間もなく辺境伯邸を出た私達。今日はムリーマ山脈に行くんだもんな。
「意外だったわ。ダミアン様がそんなことを考えていたなんて。」
「僕もそう思うよ。アレクは長男や五男のことは知ってる?」
「顔と名前ぐらいしか知らないわ。ソルと一緒に遊んでもらったのだって六男のディミトリお兄様ぐらいだったし。」
ディミトリね。あいつアレクに懸想して私から奪おうとしたんだよな。その結果、辺境伯から首を斬られたと。哀れな奴だったな。
「ちなみにソルダーヌちゃんのお母さんは……?」
「正室のクリスティアーヌ様よ。」
「なるほど。だから王都ではあんなに苦労してるのかな?」
血筋が高貴であるほど中心となって苦労する。貴族の義務か……
「それはあるかも知れないわね。女性ではソルと長女のサロリーナお姉様だけが同じお母様だから。ちなみにサロリーナお姉様はクタナツ代官レオポルドン様の奥様よ。」
なんと!
それは知らなかった。代官は結婚してたんだな。そう言えば子供がいないとかどこかで聞いたな。王国一武闘会の実況が言ってたんだっけな? それにしても代官は……辺境伯の娘婿であるくせに、義理の父親に対して全く容赦してないよな。よく私に城門破壊なんかさせたもんだ。さすがクタナツの男、そうでないとな。
話しながら私達は領都から出た。さあ、ムリーマ山脈へ行こう。
到着。
「カース。大きい魔法を使ってみてくれる?」
「いいよ。」
『火球』
魔力特盛、青い炎だぜ。
「すごい魔力ね。やっぱりカースはすごいわ。」
それから数分後。早くも魔物が集まってきた。ムリーマ山脈名物ブルーブラッドオーガの群れだ。
「じゃあカース、見ててね。」
「うん、頑張ってね!」
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
本当はカムイも戦いたいのね。コーちゃんはアレクの首に巻き付いた。アレクが心配のようだ。
私は『霞の外套』を着て高みの見物をしている。隣にはカムイ。
アレクはかなり奮闘している。身体強化まで使いオーガ共に囲まれないように立ち回っている。ただでさえオーガの皮膚は硬い。ブルーブラッドオーガともなるとなおさらだ。アレクの『氷弾』が通用していない。それでもアレクは『闇雲』を使ったり『氷壁』で奴らの動きを止めたりしながら必殺の一撃を狙っているようだ。
『氷塊弾』
特大の氷塊を叩きつけるも身の丈四メイルほどのオーガにとっては数メイル後退する程度だった。アレクの本気である『降り注ぐ氷塊』を使うほどの隙はなさそうだし、きっと使う気もないだろう。冒険者としてここに来ている以上、素材を無視することはできないもんな。
あっ! これまたアレクの得意技『落とし穴』だ! オーガが二匹落ちた!
そこにすかさず上から火球を落とす。即死とはいかないだろうが、酸欠か蒸し焼きにできそうだ。
アレクを捉えることができないオーガ共は焦れたのか、そこらの石から手持ちの棒から手当たり次第に投げ付けている。
『氷壁』
ガードするものの、オーガの腕力で投げられた木石だ。氷の壁を叩き割り、あわやアレクに届きかけた。しかしそこはアレク、きっちり不可視の風壁も張っていたようだ。
『氷散弾』
数百発もの氷の弾が発射される。一発一発はBB弾程度のサイズだが、それだけに防ぎにくい。アレクの狙いはもちろん奴らの目。さすがに全員の目を潰すことはできなかったが、三割はやってのけた。
目を潰されたオーガ共はその場で敵味方の区別なく暴れている。同士討ちするのはいいが素材の価値が下がってしまうぞ?
しかしアレクを前にそれほどの隙を見せたのだ。じっくりと魔力を込めた特製の『氷弾』で一匹ずつ目から脳を破壊され全滅となった。
しかしアレクは油断などしない。これだけたくさんの魔法を使ったのだ。魔物はまだまだ現れることだろう。がんばれ。ならば私は獲物の回収だけをしておこうか。とても解体なんてしてられないだろうからな。コート、霞の外套を脱いでと。
「カース、どこにいたの? 見ててくれた?」
「見てたよ。堅実な戦い方だったね! 上から見てたんだよ。回収だけしておくね。まだまだ来るだろうから頑張ってね!」
「ええ、ありがとう。見ててね!」
私の目を意識するなんて、かわいいやつめ。
それからも魔物がひっきりなしに襲ってきた。
ゴブリン、オーク、コボルトなど定番の魔物。
ハーピー、サンダーバード、オオガラスなど空飛ぶ魔物。
殺人蜂、幻惑蛾、麻痺蝶などの厄介な虫の魔物。
アレクはその全てを近寄らせることなく確実に対処して見せた。見事だ。しかし……
魔力切れが近い。しかもアレクは既に魔力ポーションを二本飲んでいる。さすがに一日に三本ものポーションは危険だ。しかし魔物は待ってくれない。ついに来やがった……最初に全滅させたブルーブラッドオーガのボスが。
全長は八メイルってとこか。いつか私が楽園で仕留めた奴よりは小さいが、魔力なしで勝てる相手ではない。
アレクは一体どうするのだろうか……
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