早朝、ソルサリエを発った私達はどうにか夕方までにクタナツに着くことができた。なんだかとても懐かしい。やはり故郷っていいな。
「ただいまー。」
ベレンガリアさんに会うのも久しぶりのように感じてしまう。
「カース君! 心配したんだよ! エリザベスさん! マリーさんも!」
「ただいま。心配かけたわね。もう大丈夫よ。」
「ただいま帰りました。」
「カース! 姉上! マリー……」
「オディ兄、ただいま。元気に帰ってきたよ。」
「オディロンただいま。これ、返すわね。助かったわ。」
「オディロン……」
私のことよりマリーだ。妻が人間じゃなかったってどんな気分なんだ?
「オディ兄とマリーは帰ったら? 二人っきりで話したいよね。」
「坊ちゃん……オディロン、聞いてくれますか?」
「分かってる。帰ろうよマリー。僕たちの家へさ。じゃあカースまた明日な。」
「うん。色々ありがとね。」
「ピュイピュイ」
なお、カムイの首輪は保留にしている。カムイはどちらでもいいようだが、私は気が進まない。今夜のところは城門前で待っていてもらおうと思ったら、さすがにまずいらしい。結局メイヨール卿、スティード君のお父さんによって城壁の上で預かってもらうことになった。カムイなら見張りだってできるしね。
「カー兄おかえりー!」
「ただいま。いい子にしてたか?」
キアラに会うのもずいぶん久しぶりかな。やばいな……母上からもだったがキアラからも魔力を感じない……キアラほどの魔力があっても感知することができないなんて……
「あねうえ……?」
「そうよ。キアラが小さい時にしか会ってないものね。あなたのお姉ちゃん、エリザベスよ。」
ああ、本当に帰ってきたんだ。
ベレンガリアさんの料理は美味しい。
マギトレントの湯船は暖かい。
自室のベッドは何て落ち着くんだ。
もろもろの説明は姉上に任せて私は早々と横になった。姉上の方がよほど疲れているだろうに……
明日はギルドに行って、道場に行って……アレクサンドル家に行こう……気が重いな。
早く領都にも行かないと……
アレクに会いたい……
アレクから貰った手紙には一言『早く帰って来ないと浮気するから!』と書いてあったのだ……
もはや浮気を心配するどころではないのだが、それでも会いたいものは会いたい。
その頃、オディロン夫婦は……
「オディロン……黙っていて申し訳ありませんでした……」
「マリー、いいんだよ。大した問題じゃない。カースと姉上を助けてくれてありがとう。これからも一緒にいてくれるかい?」
「もちろんです。オディロン……」
「マリー、おいで。」
冬の一夜。
気密性に優れていない家。
寒い部屋。
それでも二人は燃え上がる。
そして翌日。
私は一人でギルドへ向かった。再発行と残高の相談をするためだ。
「お疲れ様でーす。」
ここにもしばらく来てなかったな。ひどく懐かしい。知った顔は……いないか。ゴレライアスさんとかに挨拶しておきたいが、いないんじゃ仕方ない。エロイーズさんとかどうしてるんだろうか。
「おはようございます。ギルドカードの再発行をお願いしたいのですが、その場合って残高はどうなりますか?」
「えらくお久しぶりですね。特に変わりはありませんよ。再発行は金貨一枚、そしてランクが一つ下がるだけで結構です」
初回が銀貨一枚だったことを考えると高額だが、まあ良心的な範囲だろうな。
「分かりました。お願いします。」
そう言って私は金貨を差し出す。姉上からいくらか貰ったのだ。財布を持ってないので、ポケットに直に入れている。ピョンピョン跳ねてみろって言われたら、チャリンチャリンと音がしてしまうな。
これで資金面で困ることはない。むしろ残高が増えている。どうやら契約魔法は解けていないようだ。少し安心した。次は道場に行こうかな。アッカーマン先生にここ最近のことを報告しておこう。それにレイモンド先生が優勝したことも伝えておかないとな。
当然かも知れないが、道場すら懐かしい。先生や奥様へお土産だって用意してたのに……魔力庫から取り出せない……
「そうか。色々あったようじゃな。まあ生きておるんじゃ。よくやったのぅ。」
「押忍! ありがとうございます。」
それから私は王都へ行くことや、王都から帰って来れたら再び道場で鍛え直して欲しい旨を伝えた。
さて、次はいよいよアレクサンドル邸だ……
重い足取りでゆっくり歩いたが、もう着いてしまった。相変わらず門番さんは私を見ると正門を開けてくれる。門をくぐるとメイドさんも出迎えてくれる。
そして案内される。今日は居間の方か。
「よく来たわね。主人から聞いてるわ。大変だったようね。」
「ご無沙汰いたしております。ご報告に参りました。」
もう、お義母さんと呼べないかも知れない。
「あら? 何かしら。アレックスの準優勝のことなら聞いたわよ?」
「実は……」
私は正直に話した。魔力を失い復活の目処が立たないことを。
「そう……そんなこともあるのね。大変ね。せいぜい頑張りなさい。で?」
「は……? で? と言われますと?」
「報告したいことは以上なの? 私にも解決方法なんか分からないわよ? 自力で頑張ることね。」
「いや、その、お嬢様との将来と言いますか……今の僕では……その……」
「アレックスが要らないの? 要らないなら捨てれば?」
「そんなことありません! 必要です! もうアレクなしの人生なんか考えられません!」
「なら何が言いたいの? アレックスは既にあなたにあげたのよ? あなたが守りなさいって言ったわよね?」
「そうですね……それでいいんですね?」
「当然よ。本物の貴族はね、風向きによって判断を変えないものよ。少なくとも私はそうやって生きてきたわ。騎士長にまでなるような男を選んだこともそうね。」
よく分からないがすごい。いつも以上に上級貴族オーラが迸っている。
「もちろんアレックスがどう判断するかなんて知らないわよ? あの子があなたを捨てるのも自由なんだから。」
「ですよね……」
「でも、少なくとも私はカース、あなたに賭けた。この判断を変えるつもりはないわ。だからこれからもお義母さんと呼びなさい。分かったわね?」
「お義母さん……」
くっ、また泣きそうになってしまう……
元々涙脆いくせに、ここ最近の出来事が……
「あらあら、あの子が泣き虫カースって言うだけあるのね。内緒にしておいてあげるわ。」
「あ、ありがとうございます……」
顔が上げられない。
後はアレクだな。元気でいてくれるといいのだが。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!