異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

18、そして春

公開日時: 2020年12月1日(火) 10:22
文字数:2,146

例年より短い冬が終わり、また春が来た。

エリザベスは五年生となり、人生の岐路が近づいていた。


「いよいよエリは五年だな。どうだ?

進路については考えているか?」


「ええ父上、私王都の魔法学院を目指すわ。」


「何!? あそこは学校を出たばかりの者が行けるとこじゃないぞ?

各地の魔法学校をトップで卒業した者だけが行ける所だぞ?」


「分かってるわよ。だから行くのは領都の魔法学校を卒業してからよ。」


「だよな。びっくりしたぞ。それなら順当なところか……いやいや、それでも厳しい道だぞ。」


「まあまああなた。エリがこう言ってるんですから勝算があるんだわ。」


「それはそうか、どうだエリ? 行けそうなんだな?」


「もちろんよ。兄上と同じ、評定はバッチリだし、筆記も自信あるわ。となると後はやっぱり実技だけ。

改めて母上に鍛えてもらえばバッチリだわ。」


「そう。それなら厳しくしないといけないわね。経絡魔体循環からやり直しね。」


「うっ、そうよね。基礎が大事だもんね。

母上お願いします!」


「そうと決まれば明日から開始だな。私の出番はないかも知れないが、何かあったら言うんだぞ。」


「うん、父上もありがとう。領都には兄上もいるし、頑張るわ。

何よ兄上ったら試験の時期に帰ってくるって言ったのに。きっと悪い女に引っかかってしまったんだわ。早く私が行って虫を殺さないといけないわね……」


「おいおい、一年目から帰れるわけないだろ。そんな暇があるわけないさ。騎士学校の厳しさを舐めるなよ。

たぶん魔法学校も一緒だろうがな。領都に行ったからって会えると思うなよ。」


「そうよエリ、魔法学校をただ卒業するだけならまあまあ簡単だけど。魔法学院枠を狙うならかなり大変よ。

魔力が枯渇するギリギリまで使って、回復する時間を利用して魔法論などの勉強をするのよ。」


「わ、分かってるわよ。やってみせるわ。」


姉上もがんばるんだなー。

魔法学院に魔法学校かー、厳しいんだろうな。私は行きたくないな。

オディロン兄はどうするんだろうか。

私は気楽に魔力放出をがんばろう。

少し実験したいこともあるしな。







さあ、今日も今日とて魔力放出だ。

最近はただ放出するのがもったいなくて箱の中に集めたり、革袋に集めようとしている。

しかし当たり前というか魔力は気体ではなかったようで、箱も袋も透過してしまって集められない。


そこで別アプローチ、庭の木に流し込んでみた。

母上が私に経絡魔体循環を施すように木に魔力を流し込んでみた。

変化などないが、木は透過しなかった。

箱と木の違いがよく分からないが、生きてるかどうかの違いなのか?


でもまあ所詮は木だしな。

しばらく続けてみるのも面白いかも知れない。


他には放出した魔力を手の周辺に留めておけないか試してみたが、今のところできない。

煙を空気中に留めておけないのと同じかも。


また、地面に流してみたが、特に変化はない。

しかし大気中に湧き上がってはこなかった。

経過が気になるので、地面の同じポイントに流し続けてはいるが。



しかしそんなことはただの副産物だ。

大事なのは体内の最大魔力が増加しているということだ。始めた頃は全力で放出したら二十秒ぐらいで空になっていたが、今では一分ぐらいかかる。しかも放出の速度が段々と上がっているにも拘わらずだ。


これに関しては到達目標はない。

だから気楽にできるというものだ。

次の誕生日にはどれだけ母上が驚くことやら、ふふふ。




そうそう、魔物の襲撃だが冬虫夏草のやばいバージョンのキノコが原因らしい。

正確には分かってないようだが、その説が有力らしい。

やはり魔境は怖いな。







「原因は特定できんか……」


「申し訳ありません代官閣下。全て焼き尽くしたため、進行ルートも途中までしか特定できておりません。」


「ふむ、それは前任者の指示らしいな。無能を責めても仕方なきことよ。冒険者もろくな証拠を持ち帰ってないらしいな。」


「そ、そうです。ヘルデザ砂漠まではルートの特定ができたそうですが、そこで途切れていたそうです。」


「ふむ、もしもパラシティウムダケが原因でないとしたら他にどんな可能性がある?

魔境の恐ろしさを考えれば他にあのように魔物を操る何かがいてもおかしくなかろう。

前任者はそこまで踏み込んでいたのか?」


「申し訳ありません、私、魔境のことはあまり分かっておりませんので詳しい者に聞いて参ります。

また、他の可能性ですが仮説はいくつかあったようですが、まずありえないとのことでした。」


「そうか、ならばよい。後でその経緯が分かる書類を持ってくるように。」


「御意にございます。」


新任の代官、レオポルドン・ド・アジャーニ子爵である。

名門アジャーニ公爵家の出でありながら以前より辺境に赴任することを熱望していた。

地位に拘りはなかったし、クタナツでなくとも領都でもよかった。

しかし本人の希望と公爵家の面子がようやく釣り合い、クタナツ代官として赴任した次第だ。


収まらないのは若い騎士達だ。

彼が前任の代官フィリップを無能と扱き下ろす場面を何度か見ているためだ。

彼は辺境を志すだけあって無能とは程遠い人間である。それだけに他人のアラが見えて仕方ないのだ……

また、歯に衣着せぬ物言いをするため公爵家の七光りと思われているようだ。


彼の任官はクタナツにとって吉となるか凶となるか……

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