ある貴族の邸宅にて。数人の男女が暗い雰囲気で会話をしていた。
「ねぇ……あのカス貴族……優勝したわよね?」
「したな……」
「アンタら、あいつに相当絡んだのよね……」
「いや……絡んだなんてそんな……ちょっとふざけただけで……」
「私達は陰口以上のことはしてないけど、もし知られたら……」
「お前らだってあいつを呼び出して酷い目にあわせるって言ってたじゃねーか!」
「言ってないわよ! ちょっと恥をかかせるってだけで!」
「しかもただ優勝しただけじゃなくて……その後かなりの人数を相手にしても勝ってたわよね……」
「しかも魔女様の息子……」
「その上エリザベスさんの弟……」
「当然ウリエン様の弟……」
「逃げるしか……」
「どこにだよ!? ここより辺境ってクタナツか! サヌミチアニか!?」
「ドニデニス様に頼もう! こんな時こそケツ持ってもらうんだよ!」
「いいのかい? やめとけって言われてたんだよね?」
「構うかよ! そこからダミアン様にも繋げてもらえるかも知れないし!」
貴族学校生と魔法学校生の一行は馬車に乗り辺境伯邸へと向かった。
そして、そこで彼らが見たものは……
広い庭一面で酒池肉林を貪る参加者たちの姿だった。
「お、おい、もしかしてあいつもいるんじゃないのか?」
「構うことないわ! 早く中に入りましょう。ドニデニス様に……」
「お、おい、あれってセルジュじゃないか?」
「何!? セルジュがこんな所に!?」
「知ってる子?」
「ああ、同級生だ。」
「おーいセルジュ! こんなとこで何やってんだ?」
「おや、珍しい所で会うね。君達も大会に参加してたの? 僕は友達が参加してたものだから。」
料理を食べながら返事をするセルジュ。
「いや、俺達はちょっとドニデニス様にな……」
「そうなんだ。ダミアン様だったらさっきまでその辺にいらしたんだけどね。」
「そういやお前ってクタナツ出身だよな? カースって奴知ってるか?」
「奴? 僕の友達にそんな言い方して欲しくないな。」
「お前何調子に乗ってんだよ! 知ってるかどうか聞いてるだけだろ!」
「ちょっと首席を取ったぐらいで勘違いしてんなよ!」
「君達はいつもそうだね。そんなことだから下位なんだよ。」
「てめぇ俺らにそんな口きいてタダで済むと思ってんのか!」
「成績がいいだけでケンカに勝てると思ってんのかよ!」
「ちょっとやめなさいよ! そんなことしてる場合じゃないでしょ!」
「うるせぇな! すっこんでろ!」
「確かに僕は友達に比べたら弱いよ。それでもクタナツの人間だからね。やるなら相手になるよ?」
そもそもセルジュの魔力量だけを考えても弱いはずがない。同じ学校の同級生なのだから分からないはずがないのに。
「お待ちなさい。せっかくです。やるなら中央のステージ上でおやりなさい。」
現れたのは領都の黒百合マリアンヌだった。デートはどうしたのだろうか。
「なんだこの平民女? 貴族同士の話に出しゃばってくんじゃねぇよ!」
「いや、ちょいと色黒だけどこのタイプは嫌いじゃないよ?」
「何なら後で遊びに行こうか。」
「やらないなら僕は行くよ。じゃあ。」
「待てセルジュ! 何都合のいいこと言ってんだよ!」
「やるの? ならステージに行こうか。」
「こっちよ。貴方って肌がツヤツヤしてていい子ねぇ。」
結局ステージに移動するセルジュと貴族学校生達。女の子達は遠巻きに見つめるだけである。
「クライド……」
「ラリーガ……」
彼らの命運は、そして黒百合のデートのお相手は……
辺境伯邸に血の雨が降るのだろうか。
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