壇上に上がり、会場を見下ろす。そう言えば前世でも始業式とか終業式で何回かステージ上で挨拶したなあ。離任式とかもあったし。
「五年生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。みなさんと年齢が同じ私が祝辞を述べるのはどうにも違和感があるかと思います。大丈夫、私もそう思います。」
あ、ちょっとウケた。
「みなさんと同じ程度の人生経験しかない私に何が言えるのか。そう考えた時、一つ思い付きました。それは魔物との戦闘経験です。もしも魔法が効かない魔物が現れたら? それどころか魔法を吸収してしまう魔物だったら? 魔法学校の生徒であるみなさんにしてみればなかなかの危機であるはずです。
ところで、校庭に標的破壊の訓練用の的がありますよね。一番大きいやつ、あれに大穴を開けたのは私です。そんな私の魔法でも倒せない魔物はいます。魔法は万能ではありません。よく考えて使ってください。どうすれば勝てるのか、どこを狙えば倒せるのか。そして、どうすれば逃げ切れるのかを。
この魔境において勝利とは敵を殲滅することではありません。生き残ることです。どうか人生を生き抜いてください。最後まで諦めることなく。本日はご卒業おめでとうございます。カース・マーティンでございました。」
ふう、終わった。一気に疲れた……もうこんなことは二度とやらないぞ……
あ、拍手だ。喝采ってほどではないけど嬉しいな。
それから在校生の挨拶を挟み、卒業生の挨拶となった。アレクではない。童顔で筋肉ムキムキのナルキッソス君だった。やたら内容に「美しい」が入っていた気もするが、いいスピーチだったと思う。
『以上をもちまして卒業証書授与式を閉会いたします。一堂起立。卒業生、退場!』
入場と逆の順で退場していく。つまりアレクは最後尾だ。アレクの目にはきらりと光るものが見える。美しい輝きだ。
次に来賓退場。校庭に出てアレクの元へ。今から校庭で懇親会、立食パーティー形式だ。
「卒業おめでとう。今日までよくがんばったね!」
「カース! カースのおかげよ! 本当にありがとう!」
ううーん、抱きついてきた。半泣きだし可愛くて仕方ないな。他にも知った顔が続々と私達の元へ寄ってくる。顔は知ってるが名前までは知らないぞ。
「アレックス!」
太い声が聴こえた。周囲の者が道を開ける。アレクパパだ。その後ろにはママもいる。坊主頭の大男であるアレクパパの威圧感はすごい。
「父上! 母上!」
あぁアレクが離れてしまった。両親と三人で抱き合っている。これはこれで美しい光景だ。他の家族もそんな感じだし。入学式以来会ってない家族も多いだろうしな。アレクだってパパとは入学前にクタナツを出た時以来会ってないはずだ。つまり五年ぶり。どちらもかなり嬉しいだろうな。しばらく三人だけにしておこう。
その間私はそこらで何か食べてようかな。
「ひっひっひ、一人かい? 寂しいのぉ?」
「違いますよ。家族の団欒を邪魔する気がないだけですよ。」
「ひっひっひ、まあ飲め。今日は無礼講じゃからの。」
「ピュイピュイー」
校長ってこんな時は忙しいんじゃないのか? 私もコーちゃんも飲むけど。ちなみにさっきまでコーちゃんはおじいちゃんと一緒にいたんだよな。
「カースや。いい挨拶だったぞ。さすがはカースじゃ。」
「生き残ることって何より大事よね。よかったわよ。」
「おじいちゃん、おばあちゃんも。ありがとうございます! それに今日はわざわざ出席してくれて、アレクも喜んでると思います。」
「ひっひっひ、久しいのぉアンヌ。まさかこんな所で会うとは思いもよらなんだわ。」
おっ、このババア校長はおばあちゃんを知っているのか?
「久しぶりねバーバラ。あなたのその笑い方、相変わらず気持ち悪いわ。」
「ひっひっひ、お前こそいい歳していつもアントンの後ろをひっ付き歩きおって。あげくにこんな所まで来おったかぃ。」
いつも優しいおばあちゃんがいきなりの毒舌……二人はライバルなのか?
「よせよせ。久しぶりに会ったんじゃ。ほれ、乾杯じゃ。」
「ひっひっひ、そうじゃなあ。ほれ乾杯ぃ。」
「バーバラと乾杯する日が来るなんてね。長生きはするものね。」
こっちはこっちで三人とも飲み始めた。旧交を暖めるかのように。
「カースよ。今回は世話になっている。おかげでアレックスの晴れ姿を見ることができたぞ。」
「お義父さんに喜んでいただけたのなら幸いです。」
ちなみにアレクパパやママ達をクタナツに連れて帰るのは明日の夜だ。今夜はうちに泊まってアレクと三人で過ごしてもらう予定だ。そして明日の昼間はアル君も合流し四人で水入らず。アル君が今夜は来れないそうなので。
「クタナツから領都に来るのに一時間もかからないなんて頭がおかしくなりそうよ。アレックスから何度も聞いてはいたけれど。」
「カースはすごいんだから!」
アレクも久々に両親と再会して嬉しそうだ。よーし、それなら私もお祝いの芸を見せてやろう。
「アレク、上を見てごらん。」
「上を?」
『光源』
昼間に光源の魔法を使ってもほぼ意味がない。しかし、そんなのは魔力を込めて明るくすればいいだけだ。そして、魔力次第で水の魔法の色は変えられた。ならば光の色だって変えられるのだ。
つまり、私は魔法で花火を打ち上げたのだ。昼空を覆い尽くすかのような大きな花火を。
「す……すごい……きれいだわ……」
「きっと天空の精霊もアレクの卒業を祝っているんだね。」
「ひっひっひ、恐ろしいほどに魔力の無駄遣いじゃな。晴れの門出に相応しかろうて。」
「カースはすごいんじゃ!」
「まあまあカースったら。」
ふふふ、会場のみんなが空を見上げている。今日は晴れてよかったな。よしもう一発『光源』
いや、これはもう光源じゃないな。素直に『花火』と名付けよう。
ああ、涼しい風が吹いている。ムリーマ山脈を吹き下ろす乾いた風だ。山岳地帯にはどのような風が吹くのだろうか。私は喜ぶアレクを見ながらもうすぐ始まる新しい生活に想いを馳せている。
私とアレク。
コーちゃんとカムイ。
新しい日々の始まり。春の風を感じながら私達は祝いのひと時を過ごす。
この先、私達を待つのはどんな日々なのだろうか。
これにてノベリズム版異世界金融は完結となります!
この続きは『なろう』か『カクヨム』でお楽しみいただけます!
なろう
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カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888771124/episodes/16816927862443677512
第四章はついにカース達が国外へ出ます!
どうぞお楽しみに!
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