さてと、新たなる実家に帰ろうかな。ん? 実家って呼んでいいのか?
新しい実家は無尽流道場の裏手にある。あら、庭でキアラとベレンガリアさんが稽古してるのか?
「あー! カー兄ー! おかえりー!」
「あらカース君。珍しいのね、クタナツにいるなんて。」
「ただいま。剣術の稽古してんの?」
「そうだよー。ベレン姉って結構強いんだよー」
「むしろキアラちゃんがヤバいのよ……なんで剣術まで強いのよ……」
マジかよ……ベレンガリアさんの腕はこの前見た。アイリーンちゃんと一対一で戦えるレベルだ。つまり私と大差ない……
「そ、そうなんだ。すごいなキアラ……」
「秋の大会はトールの日だよー。来てくれるー?」
三日後か。
「当たり前だろ? もちろん行くさ。キアラはすごいな。」
「校長先生に褒められたんだよー。がんばるねー!」
あの校長までもが認めているのか。ならばキアラの実力は本物……
「カース君、夕食はどうするの?」
「いや、さっき食べたばっかりなんだよね。」
「じゃあお風呂でも入ったら? カース君のマギトレントだしね。」
それもそうか。でも先に……
「父上は?」
「もうすぐ帰っていらっしゃるわ。騎士を引退されてよかったことは毎日帰ってきてくださることね。」
「そっか。ちょっと父上にお土産があるものだからさ。じゃあ待ってようかな。」
ぜひ父上に飲んで欲しい酒があるんだよな。
それにしても小さい家だな……
母上に相応しくない平屋だよな……
「ただいまー。」
「あらカース。おかえり。聞いたわよ? 負けたんですってね? また……」
なっ!? まさかベレンガリアさん! 喋ったのか!? 目で問いかけるが、ベレンガリアさんは目で否定する。
「聞いたのはアステロイドからよ。負けるのは構わないわ。生き残れば勝ちなんだから。」
「はは……ごめん。油断したつもりはないんだけど、スティード君が上手だったんだよね。」
「どうでもいいわ。毒針の件も解決したんでしょう? 組合長にもお礼を言っておきなさいよ?」
組合長? まさか……約束、してないけど約束通り闇ギルドを軒並み追い詰めてくれたのか?
「う、うん、明日にでも行っておくよ……」
何で母上がもう知ってるんだ? アステロイドさんも……
私の移動速度を上回る情報網、侮れないな。
「あー! 父上ー! おかえりー!」
「おかえりなさいませ旦那様!」
「おかえりあなた。」
「父上おかえり! お土産があるよ!」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
父上が帰ってきた。すっかり元気そうで一安心だ。これなら酒を飲ませても大丈夫だろう。
「ただいま。カースはここに来るのは初めてか。狭いがお前の部屋だってあるからな。たまには帰ってこいよ?」
「そうなの!? ありがと!」
これは嬉しいな。わざわざ用意してくれたのか。
「それより父上。これがお土産だよ。ディノ・スペチアーレの二十年物! スペチアーレ男爵に貰ったんだよ。」
「なんだと……? ディノ・スペチアーレ? しかも二十年物だと……?」
「残り全部置いてくからさ。フェルナンド先生の分も残しておいてね。」
「お、おお……当たり前だ……カース、ありがとな。」
「いやー父上が元気でよかったよ。じゃあこれね。僕は風呂に入るよ。」
「ガウガウ」
分かってるって。洗ってブラッシングだろ?
「ピュイピュイ」
コーちゃんは父上に巻きついた。早くディノ・スペチアーレを飲ませろと言っている。
私が風呂から上がり、キアラやベレンガリアさん、そして両親も食事と風呂を済ませた。
そして、ついに父上がディノ・スペチアーレを飲む時がやってきた。
父上、母上、ベレンガリアさん。そして私とコーちゃんの前に一杯ずつ置く。カムイはもう寝ると言って引っ込んでしまった。
「いただこう。」
最初に父上が杯を手に取る。そして半口分ほど口に含み、ゆっくりと飲み込んだ。
「うまい……私の語彙では何と言っていいか分からん……うますぎる……金剛石を溶かして飲んだらこんな味がするのではないかと思うぐらいだ……」
分からんと言っておきながら洒落たことを言うじゃないか。さすが父上。
「そうね……こんなに美味しいお酒は初めてだわ。アランの言う通りね。千の色に輝くと言われる金剛石。その名の通りね。香りや味わい、そして喉越しと色んな表情を見せてくれるわ。それでいて軽薄さとは縁遠い力強さ。まさに金剛石ね。」
すごい……母上が何を言っているのか全然分からん。
「美味しい……そういえばカース君はアレックスちゃんに金緑紅石のネックレスをプレゼントしたそうね。やるじゃない。ああ……美味しい……」
その話今は関係ねぇー! まあ宝石の格では金剛石に劣るがアレクに最も似合うのはあれしかないよな。
「ピュイピュイ」
コーちゃんも満足? よかった。
「まあカースったら。いい買い物したのね。アレックスちゃんは幸せ者だわ。私だって、ねぇあなた?」
「おう! カースに見せてやれ!」
父上の一言で母上が魔力庫から何やら取り出した。ネックレスだ。
「あなた、つけてくださる?」
「おう!」
母上の首に手を回ししゃらりとネックレスを纏わせる父上。ほおおお……
「奥様……きれい……まさか、金剛石ですか?」
「そうよ。結婚の時にアランが手に入れてくれたの。私の宝物よ?」
「死ぬほど高かったんだぜ! よく手に入ったもんだ。おおベレン。お前にもそのうち安いやつを買ってやるからな。」
「旦那様! 私は嬉しゅうございます! でもそんな物よりお元気な旦那様さえいらっしゃればそれで十分です!」
すごいな……あれはきっとアレクの金緑紅石より高い。騎士に成り立ての若者がよく買えたな……
「カットもきれいだけど鎖もいいよね。見た感じミスリル?」
「おう、そうだ。金剛石そのものはどうにか手に入ったんだが、鎖のミスリル代とカット代が大変だったぜ。」
「騎士になったことと、このネックレスを自力で手に入れたことで父上に挨拶に行ったのよね。懐かしいわ。」
「旦那様素敵です!」
「父上かっこいい!」
なるほど。父上は母上と結婚するために騎士になったって言ってたもんな。よくそれだけで許可を貰えたよな? 私には隠しているようだが、ゼマティスのおじいちゃんはラグナが震え上がるほどの男だ。その上王家の魔法指南役としての家柄もある。平民上がりの新人騎士に二女を嫁がせる……何かあったんだろうな。
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