カムイが帰って来ない……
「アレク、痛みはどう?」
「結構きついわ……カースほどではないと思うけど……」
そうなんだよ……めっちゃ痛い……筋肉痛を何倍酷くしたらここまで痛くなるんだよ……
しかも身体強化で痛めた体にはポーションを使わないのが常識だ。もちろん飲むのは自由だが、それをすると痛みが無意味となり何の成長ももたらさないのだ。
「カムイが帰ってこないから探しに行ってみようか。」
「大丈夫なの? 魔力にはまだ余裕があるみたいだけど……」
「大丈夫だよ。ミスリルボードに座ってるだけのつもりだから。」
もう魔力しか使わないぞ。体は動かさないからな。いてて……
探すと言ってもここは広過ぎて魔力探査は無理だ。しかもそれなりに強い魔物が多いため、やはり魔力探査の意味がない。
仕方ないから魔力が強い反応に片っ端から行ってやる。
赤帽子ゴブリン、将軍オーク、怪鳥ガルーダ、燐毒オオムカデ、双頭灰色熊、そして硫獄酸スライム。どいつもこいつもそれなりに強敵だが、如何に体が痛くとも私の敵ではない。しかしカムイが見つからない。
もー! 帰ってこいよー! まさか、カムイに限って負けてるってことはないよな?
それからも地道に魔力探査を使い片っ端から強い魔力を感じた所に行き続けた。そしてついに、それらしい反応を見つけた。かなり強い、そんな反応が二つ……行くしかない!
「カムイ!」
カムイは戦っていた。相手は……
「グオォォォオオオォオーーーーー!」
ドラゴンだった……
そこまで大きくはない。全長十二メイル、両翼を広げても十メイルない程度だろうか。見たことのない黄色いドラゴンだった。
「アレク、知ってる?」
「たぶん……マスタードドラゴンじゃないかしら……かなり危険らしいわ……」
名前からして物騒だ……カムイ、負けんなよ……
そのドラゴンは口からレーザーのような勢いで黄色い煙を吐いている。むろんカムイには当たらないが、その煙が当たった木や岩は見る見るうちに溶け落ちている。猛毒か?
こっちにまで撃ってきやがる……効かないけど。
ところが、カムイはカムイで攻められないように見える。どうもあのドラゴンは触れると危ないようなのだ。カムイの攻撃は牙か爪、だと思う。速過ぎて正確には分かってないのだが。毒の塊を咥えるだなんて死ぬも同然ではないか。カムイが攻めあぐねているのも無理はない。さあカムイ、どうする?
『ガアアアアアァァアーーーー!』
カムイが吠えた! しかも声に魔力が乗っている! これはいつだったかヌエも使っていた魔声か。ヌエのより強力だな。一瞬ドラゴンの動きが止まる。その眼前をカムイが一瞬にして通り抜ける。
すると、ドラゴンの首に一筋の切り傷が見えた。だが致命傷には到底及ばない……どうやって切ったんだ!? 全然見えない。
しかしマスタードドラゴンも黙ってやられるはずがない。全身から黄色い煙を放出している。きっと猛毒だ。これでは近寄れもしない。
『ガウオオオァアァァアーーーー!!』
カムイの渾身の魔声が炸裂すると、黄色い煙はたちまち霧散してしまった。次の瞬間、マスタードドラゴンの首、それも先ほどと同じ箇所からさらなる血が滲んだ。カムイは寸分違わず同じポイントを攻撃をしたのだ。こいつすごいな……
同じ流れを四度繰り返し、とうとうマスタードドラゴンの首から血が吹き出した。終わりだ。
「ガウガウ」
お疲れ。よくやったなカムイ。一応『解毒』しておこう。
「カース。あれを収納する時は注意してね。触るとよくないそうよ。」
「うん。そうだね。」
だからってあいつ本体を解毒してしまうと商品価値が下がってしまうもんな。こんな時はセルジュ君の魔力庫みたいに影から収納できる設定は便利だよな。私は接触してないとダメな設定だからな。
だから、手で触って収納する。
ぐっ、マジかよ……
収納はできたが、一瞬触っただけなのに指が溶けて骨が見えてる……嘘だろ……
死ぬほど痛い。痛すぎる……『解毒』
一瞬とは言え私に効く毒とは……死汚危神しか効かないはずじゃないのかよ……
ポーションを飲もう。ふう、痛かった……
「カース! 触ると良くないって言ったのに!」
「あはは、触らないと収納できないからさ。」
「もう! バカなんだから!」
「ガウガウ」
今度こそ帰るぞ。もうだめだ。体中が痛すぎる。今夜はアレクと……何もできないか……
くっ、仕方ない……たまにはこんな日があってもいいよな。あー痛い……
それよりカムイはどうやってマスタードドラゴンに傷をつけたんだ?
「ガウガウ」
見れば分かるだろって? 分からないから聞いてるんだよ。お前の動きは速過ぎて見えないんだからさ。
「ガウガウ」
牙から魔力の刃を伸ばした? それで通り抜けざまに斬ったと?
すごいな……でもちょっとしか伸びないからギリギリまで近付かないといけないのね。それだけにドラゴンの皮膚装甲を斬り裂けるのか……恐るべき牙だな……
たぶんカムイの毛皮はドラゴンほどではないが攻撃を弾くだろう。しかし口内など粘膜部分に毒をくらってはさすがに危険なんだろうな。私に解毒をしてもらわなくてもいいように戦ったのはカムイにもプライドがあるからだろうな。我が身を犠牲にしてまで倒す必要のある敵でもないし。カムイにとってはいい修行になったってところだろうか。
その夜、私もアレクも長めの風呂に入ってから……大人しく寝た。私は明日が休みだからいいが、アレクは学校だ。大変だろうな……
私は明日、ちょっとクタナツへ帰るとしよう。組合長に一言伝えておかないとな。
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