夏休み目前のデメテの日。
先日個人魔法を取り戻したが、それよりも数倍嬉しい。あとはこの魔力が時間とともに満タンまで回復してくれれば……何の憂いもない! 私はアレクとどこまでだって行ける! いつまでも一緒に……
「アレク!」
「は、はいっ!」
「卒業したら、結婚しよう! これから僕が君を守る!」
「カース……どこまでも付いて行くわ。よろしくお願いします。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
分かっているとも。コーちゃんもカムイもずっと一緒だよ。
「えー! アー姉ずるい! 私もカー兄に付いて行くもん!」
「キアラは時々どこかに連れてってやるよ。もうすぐ夏だし、また海に行こうな!」
「うん行くー!」
さすがのキアラも姉上とは違って私と結婚するとは言いださないよな?
それにしてもこんな所でプロポーズとは……
昔はアレクの卒業を待って、フランティアが見渡せる上空で言おうなんて考えていたものだが。アレクを見たら今言いたくなってしまったんだから仕方ない。今の私は復活ハイな状態だしね。
「ようやく話が聞けそうだな。私はクタナツ騎士団二番隊のフランク・チャトランガ。昨夜のことを聞かせてもらえるかい?」
「ええ、いいですよ。受付の人と無尽流道場に行ったのはご存知ですね? その帰りです。受付の人が緊張で倒れ込んだところ、若い冒険者三人組に因縁をつけられました。あいつらは既に剣を抜いていましたので、迎え撃とうとしたら、受付の人にチクっと首を刺されました。覚えているのはそこまでです。」
「そうか。受付嬢クラーサは君から見て本人だと思うかい?」
「うーん、名前も知らなかったレベルなので自信はありませんが、本人かと。ただ僕を刺す瞬間だけ声色が違った気がします。」
「分かった。後日魔法尋問を受けてもらう可能性もあるが、これまでだ。協力に感謝する。」
「はい、お務めご苦労様でした。」
「ご苦労様でございました。」
「ごくろーさまでした!」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
治療院を出る騎士を見送って私達も出る。会計は銀貨二枚だった。えらく安いな。
「いったんうちに帰って母上に知らせておこう。それから、みんなで遊びに行こうよ。アレクは眠いんじゃない?」
「全然そんなことないわ。楽しみね。」
「海に行きたいーい!」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
実家に到着。生きて帰れたなぁ。
「ただいま。」
「おかえりー! 聞いたわよ。無事でよかったわ。カース君ってホントしぶといんだから。」
「あはは、幸運だったよ。母上は?」
「お休みになられてるわ。何か食べる?」
「食べたい。アレクは食欲ある?」
「ではお言葉に甘えまして、私もいただけますか?」
「私はもういらなーい。コーちゃん遊ぼー! カムイもー!」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
朝食が終わり、軽いティータイム。
「ねえベレンガリアさん? 僕のアレ、感じない?」
「ちょ、ちょっと、アレックスちゃんの前で何言ってんのよ! ち、違うのよ、アレックスちゃん!私、カース君に手なんか出してないからね!」
「カースが浮気なんかするわけありませんわ。何か勘違いしてませんか?」
「そうだよ。昔僕に夜這いしてきたもんだから、身動きできないようにして転がしておいたこともあったね。」
「ちょ、カース君、ちが、違うのよアレックスちゃん! 私はそんな、カース君に手を出そうだなんて、ねぇ?」
ふふふ、私が浮気などするかってんだ。アレクの信頼が嬉しいな。そもそもあの時のベレンガリアさんの話はとっくにアレクに伝えてある。無駄な隠し事なんかしないぜ。
「へぇ? ベレンガリアさんってそんなことするんですか? 私のカースに? 夜這い? ふーん……まあ冗談はさて置き、ベレンガリアさん。カースの魔力を感じませんか?」
「魔力? まさか……あっ! どうしたの? 以前よりかなり弱々しいけど、かすかに感じるわ!」
二割ぐらいしかないんだから弱々しいのは当然かな?
「ふふふ、分かる? 理由は分からないけど、キアラがやってくれたんだよ。もうキアラに足を向けて寝られないよ。」
「足を? 何言ってんの? それはともかく復活したのね。よかったわ。これでエリザベスさんも安心ね。」
おっと、足を向けて寝られないなんて言わないもんな。姉上やおじいちゃんにも伝えに行かないとな。キアラも連れてってあげようかな。そしたらおじいちゃんは大喜びだろうな。
「じゃあキアラを連れて海に行ってくるよ。ベレンガリアさんも行く?」
「行きたいけど、今日はやめとくわ。アレックスちゃんの邪魔をする気はないから。」
「賢明なご判断です。パスカル君もご安心ですね。」
ベレンガリアさんの弟、私達の同級生パスカル君か。どうしてるのかな。
あっ、海に行くならオディ兄とマリーも誘わないとな。昔マリーに頼んだまま放置していたアレも出来ているのではないか? ふふふ。ベレンガリアさんが遠慮した意味ないじゃん。
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